第212話 真・賄賂の使い方
「お元気そうですね、Z・パウア」
ケレグントさんは言う。
「ようこそ、『青き階段』へ。
単刀直入に言うと、質問がある。
ダンジョンはいつ頃開きそうか?」
Z・パウアこと、ザクリー・クランマスターは尋ねた。
「そう言われましてもねぇ。
私にも冒険者ギルドの守秘義務がありまして」
ケレグントさんは肩をすくめた。
その時、ザクリー・クランマスターは、スッと机の上にウイスキーの瓶を置いた。
「これは!」
「ダンジョン研究者、ケレグントに聞きたい。
今後どうなると予測している?
このウィスキーは、君の見識に心より敬意を表した上でのプレゼントだ。
ダンジョンで飲んだ、トムのウイスキーほどの逸品ではないが」
ケレグントさんは瓶を手に取った。
ニマニマしながら、ラベルを見たり、量を確認したりしている。
ともかく、むっちゃ笑顔。
それにしても、ダンジョンのウイスキーって何だ?
「あー、そうですねー、研究者の個人的な意見なら言えますよねー」
そして、ケレグントさんはマシンガントークで話し始めた。
「私の意見では、近いうちにダンジョンは正常に戻ると踏んでいます。
理由は、冒険者達は、
皆さんは、
①軍隊のような巨大組織でダンジョンを
②意思を制限された奴隷をダンジョンに入れること。
分かってないことは、まだまだあるでしょう。でも、まずこの2つです。
私は大陸の様々なダンジョンを見てきました。
上の2つのような行為を為政者が繰り返していると、ダンジョンは不安定になっていき、最悪
「ロイメの冒険者達は、金のためであれ、功名心のためであれ、人助けのためであれ、単なる好奇心のためであれ、自分の意思で潜っています。
全ての冒険者を、ダンジョンから締め出すというのは、理屈に合いません」
「水鉄砲とゾンビ狩りが問題だという意見もあります。
しかし、水鉄砲こそ、ヒト族の健気な知恵ではありませんか」
「ただ、私の見たところ、ダンジョンの中に宿る意思は1つではない。
複数の意思が絡み合ってダンジョンの環境に影響を与えています。
ダンジョンの中には、ヒト族の技術の急速な発展を脅威に思う存在もいるかもしれません。
だけど、最終的には
……何より、勇者がこの地より旅立ってまだ千年も経っていないのです。
だから、ダンジョンは、近日中に正常に戻ると予測します。
ただし、その近日が、明日か、1月後か、1年後かは、分かりません。
神々の感覚はヒト族とは異なります」
だいたいこんな感じだ。
あとでメモを取るぞ。
「有意義な話だ。ありがとう」
そして、ザクリー・クランマスターとケレグントさんは握手をした。
その日の夕方。
僕とメリアンは、『青き階段』のロビーにいた。
槍と三つ子石の細工は、ケレグントさん本人がやってくれると言った。
僕達『三槍の誓い』は、ぞろぞろ連れ立ってケレグントさんの工房を訪ねた。
冒険者ギルドの地下にあるケレグントさんの工房は、一見普通で、どこが凄いのか僕には良く分からない。
せっかくハイエルフの工房を覗けたのに勿体ないことだ。
僕は、まだまだ勉強不足だ。
ナガヤ三兄弟は、そのまま工房に残った。
僕とキンバリーとメリアンは、追い出されて『青き階段』に帰ってきた。
そして、今に至る。
メリアンは「疲れた」と言って、机に突っ伏している。
いつものメリアンだ。
キンバリーは、裏庭で弓の練習をすると言っていた。
いつものキンバリーだ。
隣のテーブルには、『雷の尾』のメンバーもいる。
漏れ聞こえてくる声を聞くに、彼らは役所から帰ってきた所のようだ。
奥の扉が開いた。
『デイジーちゃんと仲間達』と、キンバリーとホリーさんその他、『青き階段』の弓名人達が入って来た。
デイジーもいる。
そして、ホリーさんは、ネイサンさんと連れ立って、ハロルドさんの横に来た。
「兄さん、あの、お話しがあるの」
ホリーさんは言った。
「いや、ホリー。
僕から言わせて欲しい」
ネイサンさんは言う。
なんだなんだ?
ネイサンさんは、明らかに緊張している。
珍しい。
「ハロルドさん、お願いがあります。
あなたの妹ホリーと僕との結婚の、
許可を下さい!!」
ネイサンさんは、残りを一息に言った。
……。
しばらくの沈黙。
机に突っ伏していたメリアンが、飛び起きる。
「「「うわああぁぁァァ!!!」」」
ロビー中が湧いた。
えーと、えーと……、えエエー!!
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