第15章 祝祭の日

第211話 三つ子石

ロイメのダンジョンは、メイン・サブ共に封鎖された。

これは、冒険者にとっては死活問題である。


ロイメの冒険者の多くは、収入をダンジョンから得ている。

ついでに、北の森は禁猟期間だ。


『青き階段』の冒険者の中には、一時的に人足に転職ジョブチェンジした者もいる。

ただ、似たようなことを考えた者はロイメ中にいるようで、ロイメでは、人足の仕事が不足している。


ロイメ市が、運河の補修や城壁の修理などの公共事業を行うという噂もある。

しかし今の所、始まっていない。



我らが『三槍の誓い』は、休暇中だ。

かなり頑張ったからな。

少し、休んでも良いだろう。



そんなわけで、僕達はクランのいつものテーブルにいた。

向こうのテーブルには、『雷の尾』もいる。

人待ちである。



リンと音がして、クランの扉が開いた。


ロビーにいた冒険者の視線が集中する。


「でぶエルフだ……」

「縦横同じぐらいあるんじゃね……」


あちこちからざわめきが上がった。


でぶハイエルフのケレグントさんは、ロビー中の注目を浴びつつ、ふぅーふぅー言いながら、僕達のテーブルまでやってきたのであった。



「ハイエルフのケレグント殿、この前はお世話になった」

ハロルドさんはそう言うと、席を勧めた。



その瞬間「えー、嘘だろあれがハイエルフ」とか、

「ハイエルフってさぁ、豚エルフの間違いじゃねーの?」とか、

ロビーの冒険者達から、再び声が上がった。



「いーえいえ(ジロッ)!

こちらも有意義な情報収集ができました」

ケレグントさんが軽く笑顔を引きつらせながら答え、ドスンと座った。

椅子がミシッと音を立てた。


冒険者達は大人しくなった。



「今回、皆さんに集まって頂いたのは、お土産があるからです」


ハイエルフのお土産?

何だろう?



ケレグントさんは懐から小さな袋を取り出す。

袋からは3つの魔石が出てきた。


これは、上位エルダー吸血鬼バンパイアから出てきて、3つに割れた魔石かな?


「ナガヤ三兄弟、この魔石は、あなた方3人へのお土産です。

この石を……、そうですね、あなた方の槍に組み込んではいかがでしょう?」


おおおっ!

これは、ガチの本物のお土産か?



「ハイエルフのケレグント殿」

三兄弟を代表して、コイチロウさんが答える。

「たいへん有り難いお話だが。

なぜ、我ら三兄弟に、この魔石をくださるのか?

理由を聞いて良いだろうか?」


「私自身の意思というよりは、ダンジョンの神ラブリュストルの意思です。

ナガヤ三兄弟、あなた方は三つ子です。

そして、この魔石はナガヤ・コジロウが触れた瞬間割れ、三つ子石になりました。

この二つの事象に繋がりを感じてのことです」


「偶然じゃねーの?」

面白くなさそうな顔で言ったのは、ダグだ。


「ダンジョンの中で起きたことである以上、ダンジョンの神ラブリュストルの関与を疑うのは当然です。

私はダンジョンの神ラブリュストルの神官でもありますから」



「兄者、これはありがたく頂くのが良いのではないか?」

これは、コサブロウさん。


「俺もコサブロウと同じ意見だな。

我らは運試しにロイメに来たのだ。

これも運と巡り合せであろう」

こっちはコジロウさん。



うんうん。

これは、『三槍の誓い』としても戦力アップに繋がりそうだ。


でも、『雷の尾』のメンバーは、ちょっと面白くなさそうな顔をしている。



「この魔石は、かなりの大きさだな。

本当にレベル3なのか?」

イリークさんが口を開いた。


超美形エルフと豚ハイエルフ、2人の視線が交差する。


「ふん、若造のあなたがなんと言おうが、間違いなくレベル3です。

ロイメ最高の魔石鑑定士は私です。

その私が鑑定書にサインしたのですから!

ついでに私の許可なく、ロイメの外に持ち出すこともできません。

ですから、この魔石はレベル3なんです。

そう決まってます」

ケレグントさんは答えた。



おいおいおい。


冒険者クランは、レベル4以上の魔石の流通を独占しており、規制がある。

つまり、ケレグントさんは、自分が自由に始末できる範囲に鑑定書を書き換えたということか?



「ナガヤ三兄弟に言っておきますが、これは商人に売って値段をつけるような物ではありません。

ダンジョンの神ラブリュストルからの贈り物です。

そこを理解してお受け取り下さい。

下手な扱いをすれば、ダンジョンの神ラブリュストルのお怒りを買いますよ」


「承知した。

ナガヤ・ゲンイチロウの息子にして、ナガヤ・タイチロウの弟、我ら三兄弟、ありがたく頂戴する」


コイチロウさんが言うと、コジロウさんとコサブロウさんも復唱した。



「さて、『雷の尾』の皆さんには、別のお土産を用意しました」


ケレグントさんは、『雷の尾』の方を向き、封書を取り出した。

そして、封書をハロルドさんに渡す。


「これは……」


「ロイメの市民権を取るための書類です。

あ、事務手数料は自分で払って下さい」


これは、けっこう凄いものだ。

冒険者がロイメ市民権を取るのは、それなりの長丁場を覚悟しなければならない。

まあ、僕とメリアンとキンバリーは、既に市民権を持っているし関係ないけど。



「我々『雷の尾』にとって、たいへんありがたい物だ。

いただこう」


そう言った後、ハロルドさんとケレグントさんは握手した。



「あ、ソズンさんとマデリンさん、『デイジーちゃんと仲間達』には、ストーレイ家の運営する財団から特別報酬が支払われます。

皆様、安心して下さい」

ケレグントさんがまとめた。


おお、それは良かった。



「ちょっと、でぶハイエルフさん?

私はどうなるの?」

メリアンが割り込んできた。 


「私とキンバリー、後クリフ。

この3人は何ももらえないの?

私だって頑張ったのよ!」



あ?えーと、メリアンの意見は正論と言えなくもない。

これどうまとめよう?



僕がぐるぐる考えていると、ハロルドさんが、ビシッと立ち上がる。

え?……あっと後ろに、ザクリー・クランマスター!

ハロルドさんはザクリー・クランマスターに席を勧めた。


かくして、ザクリー・クランマスターとケレグントさんは、テーブルを挟んで向かい合う。

巨頭対決だ!


ロビーの冒険者達は沈黙した。



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