第210話 弔いの日
次の日、僕達は
いや、僕はまだ調子が悪かったんだけどね。ゴホッゴホッ。
だが、ケレグントさんが、早めに出ようと言い出したのである。
『名乗らずの勇者』の話を聞いたケレグントさんは、態度は明らかに変わった。
ケレグントさんが、『名乗らずの勇者』に会ったことがあるのは、本当なのだと思う。
空間魔術の超級術式かな?
良く分からない。
そもそもの前提として、空間魔術はマナ消費が激しく、人間族には難しい。
モーリック・ヴァルがじーっと見てる。
モーリック・ヴァルは、
あるんだろうな。
僕としては、シラツユさんとはいろいろ話をしたし、できたら戦いたくない。
洞窟からは、水が引き始めていた。
しばらく待つと、普通に歩いて外に出ることができた。
足元はまだぬかるんでいた。
明るい第三層の光が降り注ぐ。
大峡谷は、地面や崖面が黒く濡れている。
足元には、前に来た時以上にたくさんの岩や石が転がっている。
でも、水は引いていた。
さて、毎度おなじみ崖登りだ。
僕はまだ熱があるし、どうしよう?
結論を言うと、ケレグントさんが、一緒に魔術で崖上まで打ち上げてくれた。
力学魔術と風魔術の合わせ技かな?
当然だが、魔術的には、降りるより登る方が難しい。
ここ数日ですごい魔術をたくさん見た。
戻ったら、いろいろ整理して、修行しなければ。
残りのメンバーはいつも通り時間をかけて、ロープで登る。
イリークさんもロープで登っていた。
その後、崖上で2日キャンプをし、マデリンさんの許可を得て、ゲートに戻った。
ゲートでは、ザクリー・クランマスターや、レイラさんや、ジェシカ・ダッカーや、魔術師クランの偉いさんや、あと親父が拍手で出迎えてくれた。
親父に褒められるために、頑張ったわけじゃないけどな!
さて、久々のロイメだ。
町中は、『冒険者通信』特別号で溢れている。
一足先に戻ったモーリック・ヴァルのインタビュー記事が載っている。
救援活動の中心だった僕達は
まあ、それなりに。
さっきも言ったが、1番注目されたのはモーリック・ヴァルだった。
奴はうまくやった。
納得できない点もあったが、『青き階段』での僕達の立場は大幅に上がった。うん。
まず、『三槍の誓い』と『雷の尾』のメンバーは、全員Bランクになったぞ。
『デイジーちゃんと仲間達』のメンバーは、Aランクになった。
もちろんデイジーもAランクだ。
僕は、トロール族の若い戦士2人から、『さん』付けで呼ばれている。
いや、すげーよ、僕!
ダンジョンは、第二層は相変わらず
一方、深層からは『盟約の守護者』や『洞窟の王者』他、冒険者達が無事戻った。
冒険者ギルドは、一時的にダンジョンの立ち入りを禁止した。
空いた時間を使い、僕はロランドの遺品を持って、前にいたクランを訪ねた。
ロランドの身内について調べるためである。
前のクランは、いろいろ適当だ。
が、なんとか調べてくれた。
調べた範囲では、ロランドは身内がいない。
同じパーティーのメンバーも、一緒に第二層の奥で死んだか、行方不明になっている。
さて、ロランドの遺品をどうしよう?
そんな中、今回ダンジョンで死んだ冒険者達の合同葬が行われた。
冒険者ギルドの主催だ。
空は青く晴れていた。
僕は、『青き階段』の皆で合同葬に参加した。
『三槍の誓い』や『雷の尾』他、クランの主だったメンバーも参加している。
ユーフェミアさんと、ミシェルさん、ノラさんも来た。
レイラさんや、マデリンさん、シオドアやネリーの姿も見える。
前の列には、ザクリー・クランマスターやジェシカ・ダッカー、戻って来たエルフ族やドワーフ族の長老ら、Sランク冒険者が並んだ。
北の草原には、冒険者の共同墓地がある。
そこに、新しい石碑が立てられた。
石碑には、今回の第二層で死んだ冒険者の名前が刻まれている。
そこには、ロランドの名もある。
ロランドの遺品のうち、ベルトはそこに納めた。
ナイフは、しばらくは僕が持っていようと思う。
その後、ザクリー・クランマスターがSランク冒険者を代表して、弔事を述べた。
「マデリン、一曲歌ってくれ」
弔事を終えて、ザクリー・クランマスターが言った。
「分かったぁ」
マデリンさんは答える。
ラブリュストルの
青き階段
ああ残されし
くれようや
これは、ダンジョンから戻って来なかった若い冒険者の青年と、ロイメの町娘の悲恋の歌である。
『第14章 地の底から』は、これにて完結です。
次は、『第15章 祝祭の日』になります。
果たして、何の祝祭なのか?
もうしばらくお付き合いください。
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