第196話 ヒト族の罪
「イヤです。断ります」
キンバリーが言った。
キンバリー、ハイ・レイスの声が聞こえていたのか。
「レイラさんの弟子になった時の最初の授業で言われました。
空気を読むな。
イヤな時はイヤだって言わなきゃ駄目だって。
じゃないと冒険者でいられないって。
私は自分の意思で言います。
イヤです」
キンバリーの意見は
皆は画像を見ながら話をしている。
コジロウさんが説明しているようだ。
あ、コイチロウさんが怒った。コサブロウさんも。
「眠ってたらキスして貰えるなんて、世の中そんなに甘くないわよ。
ママならそういう」
メリアンが言う。
「なぜこれが取り引きになるのか納得いかないわ。
納得のいかない取り引きには応じられない」
ホリーさんが言う。
「ブーブー、マデリン、今好きなヒトいるんだけどぉー。
まあ、顔とぉ筋肉をぉ、もうちょい見せてもらってぇ、好みなら考えてもいいかな?」
マデリンさん。
「セイレーン族は駄目だぞ。
要は交配可能なヒト族であることが条件なのだ。
女しかいないセイレーン族と、男しかいないオーク族では子供が生まれないからな」
ハイ・レイスが言う。
「女性じゃなきゃだめなんですか?
例えば僕ではだめですか?」
僕はダメ元で確認する。
2000年眠ってるオーク族の話には興味がある。
爬虫類には緑色の種もいるし、さほど嫌悪感はない。
緑色のトカゲや蛇とキスすると思えば良い。
「当たり前だ」
ハイ・レイスは答えた。
「申し訳ありませんが、この条件を飲むわけにはいきません」
ユーフェミアさんが一歩踏み出して、宣言した。
「なんともつれない。ここにいる女どもは、慈愛の心がないのか?」
ハイ・レイスは言う。
「残念ながら。
今のロイメにも、王国にもオーク族を受け入れる余地はありません。
そもそも頼む相手を間違えています。
我々はオーク族を滅ぼした側ですよ?」
「
「仕方ありません。
救援によって得られる利益よりも、オーク族の開放による損害の方が大きいと判断します。
ストーレイ家のユーフェミアとして、この提案を拒否します。
また、この提案を受け入れようとする女性がいたら、全力で止め、排除します」
ハイ・レイスはじっとユーフェミアさんの顔をじっと見る。
視線は見えないが、確かに見た。
「なんと、貴様は東方エルフ族と人間族とのハーフ種族ではないか!
冷酷非情な東方エルフ族と、強欲無比な人間族。
考えうる限り最悪の組み合わせだ!」
白い影は言った。
「確かにその通りですが。
失礼なアンデッドですね!」
ユーフェミアさんは言い返した。
ハイ・レイスの言い方は無礼がすぎる。
「ハイ・レイスさん、自分の思い通りにならないからって、失礼ですよ」
「理由があって言っておる。
オーク族を滅ぼしたのは、東方エルフ族とヒト族だぞ」
それは、一応歴史で習った。
オーク族の滅亡には、東方エルフ族も関わっていると書いてあった。
(僕が読んだ以上に深く関わっているのかもしれない)
そして、オーク族の領土を分配するかたちで、今につながる種族ごとの境界線が引かれた。
その意味ではオーク族の滅亡の利益はすべての種族が受けているともいえる。
でも、ユーフェミアさんには関係なくない?
だいたい、穴を通らせろって話が、なぜオーク族の話になったんだ?
「東方エルフ族は、この件で神々の怒りを買った。
大陸に関わるなと、神託を降ろされたのだぞ」
これは新ネタだ。
さすがハイ・レイスは歴史の生き証人だ。
「正確には千年関わるな、です。
オーク族の滅亡は2000年前。
神託の期限は切れてますよ」
ケレグントさんが言う。
「黙れ。貴様ら東方エルフ族のそういう所が益々不愉快だ」
「オーク族の滅亡は、ヒト族の原罪。
それを否定するつもりはありません。
ただ、オーク族の絶滅もまた必然です。
生殖を異種族の女性に依存し寄生した時点で、絶滅の運命は決まっていました。
略奪とレイプはオーク族の習わしで
冷酷さと計画性は、東方エルフ族の
強欲さは人間族の
オーク族は、オーク族の宿命に従い滅んだのです」
ユーフェミアさんはズケズケと言い放った。
当然ながらハイ・レイスは納得しなかった。
白い気配は激高して、ユーフェミアさんを襲おうとした。
その時。
ハイ・レイスの足元?に術式が浮かび上がる。
術式はハイ・レイスを囲み聖属性の球形結界となった。
「ぐぎゃぁぁぁ」
ハイ・レイスは悲鳴を上げる。
自分中心ではなく防御結界を張る。
超級術である。
僕も防御結界魔術が得意だからこそ、その難易度が分かる。
「プリンセス・ユーフェミアへの数々の無礼な発言は許せません。
大人しくしなさい」
ケレグントさんは言った。
「東方エルフ族の糞共が!」
ハイ・レイスはそういうと、自分の周囲に術式を展開する。
すげえ、聖属性の中に死霊属性を展開したぞ!
死霊属性の結界って、ああ使うんだ。
そして、相反する属性の二重結界。こんなものが見れるとは。
「私はあの方より名を頂いた身。東方糞エルフごときに屈しはせぬ」
「ごめんねぇ。ハイ・レイスちゃん。
ケレケレちゃんだけじゃないんだぁ」
マデリンさんの声とともに、空気中に水球が生まれる。
水は聖属性結界と死霊属性結界を包み込んだ。
そして、水のマナは少しづつ、確実に二つの結界を親和させていく。
あー、これはジワジワくるな。
このままだとジリ貧だぞ、ハイ・レイス。
どうする?どうでる?
「……そ、そ、そこの銀髪の男!」
ハイ・レイスは叫んだ。
「交渉に応じる!!
止めさせろ!!!」
ハイ・レイスの視線は、確かにハロルドさんを向いていた。
声は涙声だった。
……。
あ、そうですか。
まあ、それが良いですよね。
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