第197話 【悲報?】マデリンさん〇〇〇だった模様

「ケレグント殿、マデリン殿。

ハイ・レイスが逃げられない範囲で、もう少し話をしやすくできないか?」


ザァーと水がこぼれ落ち、ケレグントさんも結界を弱める。



「ハイ・レイス殿。私の名はハロルドだ。

歴史の証人である貴方の名前を教えて欲しい」

ハロルドさんは聞く。


「わが名はシラツユ。滅多に名乗らぬのだぞ」

ハイ・レイスは答えた。


「シラツユ殿、我々を吸血鬼バンパイア領域エリアへ通して欲しい」


「よかろう、ハロルド。お前たちを吸血鬼バンパイアどもがいる向こう側へ通してやる。

帰りも通って良い。

ただし、デブ東方ハイエルフと、その大賢者は駄目だ。

ここに残れ」

聖属性の檻の中からシラツユは堂々と言った。


さっきの涙声はどこへやら。

でかい態度である。



「えェェー」

「BoooBooo」

「ケレグントさん、こいつ絞めちゃいましょ」

皆から声が上がった。

僕もブーイングした。

この期に及んで往生際が悪いぞ。



「なあシラツユさーん、大賢者って誰のことだー?」

ダグが、まったく空気を読まずに聞く。


「そこのセイレーン族だ。

エルフ以外でマナを蓄えた者を、ヒト族は大賢者と呼ぶのだろう?」


……!


「えっへん。

マデリンこう見えて大賢者なのぉ」


……。

…………。

いやいやいや、ない。

マデリンさんの賢者はない。

ロイメには、賢者の定義もいろいろあるけど、ありとあらゆる意味で賢者じゃない。

ましてや大賢者はないって!!



「マデリンさん、そりゃないっスよ」

「さすがにびっくりだわ」

「なあ、賢者ってどういう意味だっけ?」


皆も騒いでいる。

僕は言葉も出なかったよ。



「シラツユ殿、その条件は厳しい。もう少し緩めてくれないか?」

ハロルドさんは冷静に交渉を始める。


「これ以上は無理だ!

魔物モンスター同士にも繋がりはあるし、私にも面子がある。

言っておくが、いざという時はこのダンジョンの全亡霊レイスを使って攻撃するぞ。

そうなれば、お前たちもただでは済まない」


亡霊レイスの群れ攻撃は、前回やられた奴だよな。

あれはトラウマものだった。



「言っておくが、我らアンデッドは世界の記憶。

亡霊レイスが滅べば貴重な記憶が散逸するのだ」


ケレグントさんが、という部分に反応した。


「この程度で妥協ですかねぇ」

ケレグントさんは言いだした。


「ここまで来て無責任ですよ、ケレグント」

ユーフェミアさんは言う。



「でもぉユーフェミアちゃん、私達が向こうへ行くのも危ないのよぉ。

今、吸血鬼バンパイア領域エリアは、過冷却されてる水みたいな状況なの」


マデリンさんが、なんか難しいこと言ってる!


「つまり、異物が入るとぉ、一気にダンジョンが本気出したりするの!」



「我々が行くと、ハードモードが、ベリーハードモードに変わる可能性があるんですよ」

ケレグントさん。


「これでも、私はダンジョンが溢れて以来、常に気を使っています。

モードチェンジの臨界点は、見当はつけてますが、最終的にはラブリュストルの御心の中です。

まあ、我々を連れて行けば、それ相応のリスクがあるのです」



モードチェンジ。知らない言葉が出てきた。

1番分かりやすかったのは、マデリンさんの『ダンジョンが本気出す』だ。



「ハロルドさん、ハイエルフのケレグントさんから見ると、ダンジョンに潜る僕達は、『健気けなげ』らしいですよ」

僕はハロルドさんに小さな声で言った。

僕が言いたいことが上手く通じるだろうか?


「分かった。

ダンジョンには、本気を出されない方が良さそうだ。

健気けなげに行こう。

ケレグント殿とマデリンさんはここで待ってもらう。

吸血鬼バンパイア領域エリアへは、我々だけで行こう。


不確定な要素はない方が良い。

そして、無理だと思ったら引き返す。

最初の計画では、そうだったのだ」


ハロルドさんは言い、皆は頷いた。



「では、ちょうど良い時間だし、昼ご飯にするか」

ネイサンさんが言った。


グッドアイデア!



僕達は青い目の鳥の広間に行き、そこで昼ご飯を食べることにした。

ここは神聖な場所なのだぞ、とかシラツユさんがブツブツ言っていたが、無視。


食事は保存食だ。

でも、給水器代わりのマデリンさんがいるし、ネイサンさんが携帯コンロも持ってきた。

温かいスープは確保した。

保存食をスープでかき込む感じだ。



「失敗しました」

突然ユーフェミアさんが言った。

食事の途中である。


「どうしたんですか、ユーフェミアさん」

隣にいた僕は聞く。


「あのオーク族です。

断ったのは不正解でした。

申し出に乗って、キスして完全覚醒する前に、心臓一突きで息の根を止めるべきでした」


「……いや、その、えーと」

僕は口ごもる。


それはあまりにもオーク族の男が気の毒だ。

それに、僕としてはユーフェミアさんにオーク族とキスして欲しくない。


えーと、どう言えばいいのかな?



「プリンセス・ユーフェミア」

反対隣のソズンさんが言った。


「やめて下さい。ソズンさんまで。

私はプリンセスではありません」


「そう。ユーフェミアさんはプリンセスではない。

だから、1人で全部しょい込むことはないだろう?」


「それは……、そうですね!」

ユーフェミアさんは笑顔になる。



「ヒト族のなんと邪悪なことよ」

シラツユさんがブツブツ言っている。


「ハイ・レイスのシラツユよ」

ソズンさんが言う。


「俺はオーク族を見たら、子供であろうと必ずこの斧で叩き切る。躊躇なくやる。

俺はドワーフ族だ。

ドワーフ族は、自分が邪悪かどうかで悩んだりしない」



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