第195話 レイスの顔も三度まで

「生者と死者は適切な距離を取り、互いに干渉せぬのが世の習い。

その程度のことがなぜ分からぬのだ。

この愚者どもが!」


ハイ・レイスさんは言った。

相変わらずぼんやりした白い影で、人相は分からない。

でも、怒りは伝わってきた。


スミマセン。ごもっともです。



時間は少しさかのぼる。


無事に大峡谷を降りた僕達は、亡霊レイスのダンジョンに向かった。


ケレグントさんが川の中に土魔術で飛び石の足場を作り、皆でそれを渡り洞窟を目指す。


洞窟にたどり着いた後は、マデリンさんの出番だった。

マデリンさんの水魔術は、洞窟とその周りからまるごと水を引かせた。

この魔術も、超級術ではないだろうか?

流石のマデリンさんも疲れてる風だけど。


洞窟の中は上り坂である。

途中からは、足元は乾いていた。

ここまでは水が来ていなかったのだろう。


洞窟の奥の不思議な空間魔術を経て、僕達は全員で亡霊レイスのダンジョンに侵入した。


亡霊レイスのダンジョンは、一見以前と変わらないように見える。



「ほうほう、これはまた静かで落ち着いたダンジョンですね」

ケレグントさんは言った。


「全員揃ったな。

目的地は、青い目の鳥の広間だ。行くぞ」

ハロルドさんは言った。


たぶん、青い目の鳥の広間には、ハイ・レイスがいるんだろうな。

僕はそんなことを考えながら、結界を動かす。


歩き出してじきに、体感温度が下がり出した。


そして最初のシーンに繋がる。



ハイ・レイスさん、僕達が来るのに気付きましたか。

言葉通りの意味で、お邪魔します!

そして今回は、ケレグントさんもマデリンさんも連れてきました。

通してもらいますよ!



「二度と来るなと行ったはずだ」


度々たびたびの無礼、たいへん失礼する、ハイ・レイスの御仁。

我々は、青い目の鳥の部屋の穴の向こう、吸血鬼バンパイア領域エリアに行きたいのだ。

通して欲しい」

ハロルドさんは言った。


今回も交渉するつもりか?


「今回は、ハイエルフと一緒に来たぞ。

前回のようにはいかないからな」

ダグが余計な口を出す。


そういうのを、虎の威を借る狐って言うんだぞ。

僕も似たようなモノなんだけど。


「どこまでも図々しいヒト族だな」

ハイ・レイスさんは罵りながら、ケレグントさんを見る。

間違いなく意識しているし、怖れてもいる。



「グダグダ亡霊レイスの恨み言を聞いても、意味はありません。

アンデッドは、所詮しょせん過去の亡霊に過ぎません。

生者を優先させていただきます」

ケレグントさんは言った。


「我らアンデッドは、世界の記憶。過去を馬鹿にするな」

ハイレイスさんは言い返す。


「過去に出張でばられても困るのです。

大人しくしないと、聖属性で消去デリートしますよ」


「ハイエルフの貴様こそ、過去そのものではないか!」


「失礼ですね。私は生きていますよ。食べて排泄もします。

何かを愛しもします」


空聞屋の芋菓子とかな。


「アンデッドを馬鹿にするな。

我々は、生者を殺すことによって、間接的に現在と未来に影響を与えることもできるのだ!」



ハイエルフのケレグントさんと、ハイ・レイスさんの会話は、なかなか興味深い。

でもここで、二人の会話を聞ける者は何人いるのだろう?


レイスの声をはっきり聞くには、死霊属性が必要だ。


『雷の尾』では、ハロルドさん、イリークさん、ダグも一応聞こえるんだっけ?

『三槍の誓い』では、僕とコジロウさん、コサブロウさんも小さな声で聞こえると言っていたな。

ソズンさんは、表情を見るに聞こえるようだ。

ユーフェミアさんも同じく。

マデリンさんは良く分からん。後で質問しよう。

他には……。


くーん。

デイジーが尻尾をさげて、不安そうにキョロキョロしていた。

……デイジー。



どうする?やるか?

あの2人に割り込むかのか?


「あの、お二方。

たいへん失礼します。

デイジーも悲しんでいます。喧嘩はやめて下さい」

僕は勇気を出して言った。


「そもそも貴様らがやって来なければ、喧嘩にならぬ。

侵入者はどちらだ!」


ド正論だ。


「東方エルフの名誉にかけて手荒なことはしたくないのですよ。

とっとと通して下さい」



あ、怒った。

ハイ・レイス(さんはつけない)の気配が荒くなる。

今のケレグントさんの言葉はハイ・レイスの気に触ったようだ。



「よかろう。通してやっても良い。

ただし、条件がある」


ヤバいな。絶対ろくな条件じゃないぞ。


「見よ」

ハイ・レイスがダンジョンの壁を指差す。

ダンジョンの壁は鏡のように滑らかに輝き、画像が結ばれた。



「なんだ!」

「壁の向こうに部屋が?」

皆がざわめく。


「落ち着いて下さい。

画像照射。光属性の魔術です」


画像は薄ぼんやりしていて、現実と混同することはない。

でも、何が写っているのかはちゃんと分かる。


薄暗い小さなダンジョンの一室のようだ。

灰色の壁に装飾はない。


部屋の中央に大きな灰色の台があり、そこに一人のヒト族が横たわっていた。

死んでいるのか、生きているのか。


そのヒト族の肌は緑色である。



「リザードマン族か?肌の色が緑色だぞ……」


「鱗はないし、髪の毛も見えるぞ」


条件を満たす種族が、一つある。


「オーク族……」

ケレグントさんがうめくように言った。


オーク族は記録では、絶滅した。

2000年近く前のことだ。


オーク族は男のみの種族だ。

好戦的で、残虐だったと伝わる。


「あれは、生きているのか?」

誰かが言った。


「生きていますよ。

彼はオーク族の戦士でした。

オークの守護神・侵略戦争の神マリダスより預けられました。


約束の女性おとめの口付けがなければ、目覚めない呪いがかけられています。

眠り初めて2000年。

哀れと思いませんか?

そこにおられるヒト族の女性の誰かが口付けを送り、彼を目覚めさせるなら、通してあげましょう」

ハイ・レイスは言った。





芋菓子の空聞そらみみ屋は、ゴドフリーの別れた奥さんが経営しています。

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