第194話 ダンジョン隠し芸大会

ケレグントさんの物語が終わった後、ダグが余計なことを言った。


「ハイエルフでも、思ったほど歌は上手くないんだなあ。

これなら俺の方がうまいぞ」 


タグよ、イリークさんの悪い影響を受け過ぎだぞ。


ケレグントさんのは……、確かにそれほどでもなかった。

でも、話は面白かったし、楽器の演奏は良かった。


「話もなんか暗いんだよなあ」

ダグはブツブツ言っている。



「すみません、ケレグントさん。

ダグには難しかったようです」

ウィルさんが脇から謝った。


「ケレグント殿の話は、俺には面白かったな。

歌なら我ら三兄弟が歌って進ぜよう」

コイチロウさんが言った。



その後、キャンプで歌やら踊りやらの隠し芸大会となった!


ナガヤ三兄弟の歌と踊りは、アキツシマの異国情緒たっぷりで、なかなか見事だった。


その後、対抗してダグが歌った。

「俺は歌手になろうと思ったこともあるんだぜ」

ダグは豪語した。


まあ、声量は豊かで声も悪くない。でも、音程が時々外れる。

ケレグントさんに難癖をつけたいなら、もう少し修行した方が良いと思う。


さらにその後イリークさんが歌ったが……。

まあその……音痴である。

早々に『雷の尾』のメンバーが回収した。


オッサン達の応援をうけて、メリアンも歌った。

声がちょっと細いが、身振り手振りのリズム感が良く、かわいい歌だ。


勝手なことを言っていたチェイスさん達3人組も歌って踊った。

ナガヤ三兄弟と違って、こちらの3人は素人芸の域を出ない。

楽しいし、良いんだけどね。



「ユーフェミアさんの歌も聞いてみたいな」

僕は隣に座っているユーフェミアさんに言ってみる。


「私は歌のたぐいは苦手で……。

あ、楽器なら少し弾けますから、ロイメに戻ってからお聞かせします」

ユーフェミアさんは答えた。



オッサン達に構われてたメリアンが戻ってくる。


「私、歌はママに仕込まれたけど、才能ないって言われたのよ。

声が細くて、張りがないって……」

メリアンは僕の前で溜息ためいきをつく。


「僕は歌は良く分からないけど、メリアンの歌はかわいいし、聞いてて楽しかったよ」

僕は言った。

こういう返事でいいんだよね?


メリアンはジロッと僕を見る。なんだよ!


いやでも、これで正解のはずだ。

本当のことだし。



そして。


「明日も早い。そろそろ〆だが……」

ハロルドさんが出てきた。


同意である。

明日もあるし、僕に順番が回ってきても困る。

情けないが、芸に関しては僕はイチャモンをつけることしかできない。イヤホント。


そして、だ。


「イヨッ、真打ち!」 

「待ってました!」

「ワン!ワン!」


最後はマデリンさんの登場だ。


「オッケー。

でも、明日早いからぁ、一曲だけだよ!」


かくして、マデリンさんの歌は、豊かに第三層に響き渡った。


セイレーン族の歌を気分良く聞けないなんて、真大武皇帝も馬鹿なことをしたものだと思う。




次の日、月齢は22。

大峡谷降りが今日のイベントだ。


大峡谷の水量は相変わらず多い。

降りた崖下の足場は、ケレグントさんが土魔術で作った。

多分、土属性の超級魔術だ。初めて見たよ。



僕はキンバリーのサポートで早々に降ろしてもらった。

昨日の内にキンバリーに、今回も完全サポートをお願いすると頼んでおいたのだ。

二回目だし、多少は慣れたが、やはりこわかった。

僕は高い所は苦手だ。

ロープ降りの練習も、実は最近さぼっている……。


言い訳しておく。

パーティーは適材適所で、任せた方が効率が良い。


キンバリーは笑顔で

「大丈夫です。任せて下さい」

と言ってくれたし、完璧なサポートで降ろしてくれた。


僕はパーティーメンバーに恵まれている。



今回、大変だったのは、ケレグントさんだ。


ロープで崖降りをしたいと言い出したのだ。

あんた体重どれだけあると思ってるんだよ!

ロープが切れたらどうするんだ!

風魔術でもなんでも使って降りればいいだろ!



見上げると、ケレグントさんがネイサンさんやトムさんらサポートチームと大騒ぎしているのが見えた。


「いやあ、楽しかったです」

ケレグントさんは楽しそうに降りてきた。


周りはだいぶ疲れているけどな。



ケレグントさんが終わればメリアンとデイジーだ。

メリアンは、練習の成果を見せてやると息巻いていた。

がんばれ、メリアン。



僕はケレグントさんと並んで上を見上げる。


「ケレグントさん、質問してよいですか?」


「良いですよ。答えられるかどうかは、わかりませんが」


「僕はダンジョンが溢れたのは、聖水水鉄砲のせいではないかと思うんです。

冒険者達はずいぶん残酷なゾンビ狩りをしていたみたいなので、その反動が来たのではないかと」



「面白い仮定ですね。

私からすると、ゾンビ相手に考えすぎだと思いますが」

ケレグントさんは、少し考え込んだ後、言った。


「そうでしょうか?」


ダンジョンの神ラブリュストルは、ヒト族が様々な工夫を凝らしてダンジョンに挑むのを見るのは、お嫌いではないと思いますよ。

だいたい健気けなげじゃないですか。

魔力もろくに持たぬ者が水鉄砲を手にアンデッドに挑むなんて」

ケレグントさんは言った。


健気か。

永遠の種族ハイエルフであるケレグントさんは、僕よりはラブリュストルの感覚に近いだろう。


「……そうですね、ダンジョンをお創りになったのはラブリュストルご自身です。

でも、ダンジョンには従神やら、高位の魔物モンスターやら、様々な意思が作用します。

そのどれかにとって、水鉄砲が気に障ったかもしれません。

でも、考えすぎても仕方ありません。

技術の進歩を捨てて、ダンジョン攻略はできませんし、ラブリュストルの意思にも近づけませんから」

ハイエルフのケレグントさんは言った。




崖降りの報告である。

メリアンは、きゃーきゃー言っていたが、前回よりは上手に降りた。

ユーフェミアさんは、僕より段取りが良かった。

デイジーは今回も我慢強かった。


全員怪我なし。上出来である。



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