第163話 銃使い

ロイメにおいて、『銃』はロマンチックでエキゾチックな武器である。

砂漠の住民が持つ銃は、遠くの的に弾を当てる強力な武器だとか。

ロイメ芝居にも出てくる。


ただし目の前にある場合、それはロマンチックでもエキゾチックでもない。

単なる現実だ。


僕は目の前の黒い『銃』を見る。

おそらく本物だ。

しかし、問題はそこじゃない。



「これは何ですか?」

僕はケースのすみの赤い箱を指差した。


「火薬だ。アぶないから、触るンじゃないぞ」

男は答える。


やっぱり!!そうじゃないかと思ってたんだよ!



「ミシェルさん、離れてください」


ミシェルさんは顔面蒼白ながらも、一瞬迷うような素振りを見せる。


「早く離れて。僕は大丈夫です。

そして、この建物の中の皆さんを裏に避難させてください」


「分かりました」

キレの良い返事と共にミシェルさんは動きだした。



ロビーにいた冒険者達は、既に動きだしている。

そりゃそうだ。火薬の側になんか居たくない。


『青き階段』にいるのは、冒険者と働いている人達だ。子供や年寄りはいない。

裏には広い敷地もある。

避難は順調に進みつつ、あ、あそこでどつき合いが起きてる。

何やってるんだよ!



「アいつら、なに騒いでいる?」

銃使いの男、エヴァンだっけ、が言った。


なにって言いたいのは、こっちの方である。

厄介な物を持ち込みやがって。

ついでに冒険者ギルドの受付!職務怠慢だぞ。


そしてエヴァンは、この状況を理解していない。



「エヴァンさん。ロイメに火薬を持ち込むのがどれだけ危険か知ってますか?」


「ハあ?火薬は危険だ。

当たり前のことを言うな。

デも、俺は火薬の扱いを心得ている。

火魔術師にして土魔術師、銃使いエヴァンとは俺のことだ」


一応魔術師ではあるわけね。でも。


「一応聞きますが、使える魔術のレベルはどれくらいですか?」


「ハあ?」


「火は上級ですか?中級ですか?

土は上級ですか?中級ですか?」


「アあ?」



エヴァンの答えは要領を得ない。

駄目だ。そしてヤバイ。

これは、自分の弱味を隠そうとする時の人間の態度である。

僕が攻撃魔術を使えないことをごまかす時も、こういう態度を取るから分かるのである。


火薬はなぜかマナと相性が悪い。

マナが豊富な地域では、火薬はしばしば「突然」かつ「理不尽」な爆発事故を起こすのだ。

ロイメの魔術師クランでも、調査・研究しているが、今のところ原因は不明。


だが、分かっていることもある。

マナが濃い地域ほどリスクは増すと言うこと。

王国はマナが豊富な地域だ。

そして、十層ダンジョンの上にあるロイメは、マナが豊富な地域である。



当然、ロイメでは火薬は原則持ち込み禁止である。

また、ロイメほど厳しくないが、王国でも火薬は原則所持禁止のはずだ。

このエヴァンは、なぜか持ってるけどな。




ロビーの裏口が開いた。

そこから、ゴトンゴトンと音をさせながら、巨大な鉄の盾が入ってくる。

重たそうに巨大な盾を支えてやって来たのは、ユーフェミアさん!


「銃使いさん、『青き階段』のクランマスター代理の代理、ユーフェミアと申します」

ユーフェミアさんの声は盾ごしでくぐもっている。


「お前がクランマスターかぁ?」

エヴァンは胡散臭そうに言う。


「クランマスター代理の代理です。

クランマスターはギルドの会議へ出席中。

副クランマスターは食当たりです。

私は事務方のトップです」

ユーフェミアさんは盾から少しだけ顔をだした。

『安全第一』と書かれた兜を被っている。


僕はユーフェミアさんの側に立つ。

そして、2人が入る力学結界結界を張った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る