第161話 追放令

「何するんですか!キンバリー!」

ゴドフリーは抗議した。


「害虫が生意気に口をきいている」

キンバリーは冷静で、冷酷だ。

聞く耳を持たない。


「私はアポを取り、許可を得て入ってきたんですよ。

記事だって本当の事しか書きません」


「本当の事を書くと言って、本当の目的はクリフリーダーを傷つけること」


そう言うと、キンバリーはモップをゴドフリーの頭に押し付ける。



「ありがとうキンバリー。

でも、あまり手荒なことは止めるんだ」

僕はキンバリー止めた。


キンバリーは、モップをゴドフリーの頭から引き上げた。



「暴力で私は黙りませんよ。真実は強いのです」

ゴドフリーの口は懲りずによく回った。


当然だが、ゴドフリーは怒ってる。

確か、ゴドフリーはロイメ市民だったよな。

この件、どうまとめようか?

もちろん、キンバリーのためなら、僕は親父と対談する気はある。



「なら、私も真実で戦う」

キンバリーが言った。


え?


「ゴドフリー、あなたには別れた妻との間に息子がいる。

どこで暮らしているのかも知っている。

あなたの息子に、昔あなたが私に何て言ったか、ばらす」


ドン。

キンバリーは、右手に持ったモップの柄で床を打ち、宣言した。



おおお?

ロビーの野次馬から、軽いどよめきが起こる。



「ちょっ、ちょっと待ってください、キンバリー!」

対するゴドフリーは、明らかに慌てている。


「あの話を聞けば。

あなたの息子は、あなたを嫌うか軽蔑するかするだろう」

キンバリーは続ける。



「今さら息子に嫌われるぐらい気にしませんよ。

でも、キンバリー、聞いてください。

もし、息子が私と同じ性癖に目覚めて、私の真似をしたら、どう責任をとってくれるんですか!」


すでに、息子に嫌われているのか、ゴドフリー。

まあ、予想される範囲だが。



「それもまた真実」


「止めてください。別れた女房に殺されます」


「それもまた運命」

キンバリーの声は冴えざえと冷たい。


「……分かりましたよ!

記事は取り下げます」

ついにゴドフリーは折れた。


「それでいい。

あなたの息子には何も言わない。

会いにも行かない」

キンバリーは、モップを本来の向きに持ちかえた。



キンバリー、凄すぎる。

銀弓に続き、ゴドフリーにも舌戦で勝った。



「ああ、ったく!

カール・カストナー氏の記事は、どーしても欲しいんですよ!」

ゴドフリーは、まだブツクサ言っている。


「それは、親父と魔術師クランと交渉してください」


ゴドフリーは、恨めしそうな目で僕を一瞥し、「今日は厄日でしたよ」と言いながら帰って行った。



「ゴドフリーも人の親であったか……」

見送った時の、コジロウさんの言葉である。






数日後、『雷の尾』への取材のためと称して、ゴドフリーは再び現れた。


「申し訳ございません、ゴドフリー様」

受付でユーフェミアさんが謝罪の上、ゴドフリーを制止した。




実は、前回ゴドフリーが帰った後、メリアンがキンバリーを問い詰めた。


ゴドフリーにどんなことを言われたのか?

内容によっては、私もインタビューを断らなくてはならないからと。


キンバリーはしばらく迷った後、話しだした。


内容は、ドン引きである!

金をやるから、足で✕✕✕を✕✕✕くれ?

もちろん、キンバリーは拒否している。

当時キンバリーは孤児院にいて、13歳だったそうだ。つくづく酷い。


断じて、ゴドフリーを陰キャ仲間に入れておくわけにはいかない。

ゴドフリーには、『変態ロリコン』のカテゴリーがふさわしい。


ナガヤ三兄弟も怒った。

一番ゴドフリー寄りだったコジロウさんでさえ「変態だな」と言った。


ユーフェミアさんによると、現時点では、ぎりぎり、ロイメの法律違反ではない、らしい。

が、そこがまたいやらしい。


「可愛そうなキンバリー。あんな変態に目をつけられて。

私、絶対あの男とは口をきかない。

今度攻撃魔術きめてやる!」

メリアンは、キンバリーをギュッと抱きしめながら言った。


「……そこまでしなくていい」



キンバリーは、その後の経緯についても語った。

この件は『風読み』の情報網を伝わって、レイラさんの知る所となった。

激怒したレイラさんは、キンバリーをそく弟子にして、保護下においたらしい。


キンバリーによると「運が開けるきっかけになった」とのことだ。


「それはそれ。これはこれ。ゴドフリーはロリコン変態クソ野郎よ!」

メリアンは言い、ミシェルさんやノラさんも大きく頷いた。




「ゴドフリー様、『青き階段』の女性達から、連名で要望書が出されました。

内容は、ゴドフリーを『青き階段』の敷地内に二度と入れないでくれ、です」

ユーフェミアさんは頭を上げ、言った。


これは本当だ。

気がついたら、ホリーさんや、キャシーさん、僕が名前を知らない掃除のオバサンまで要望書に参加していた。


「は?ちょっと待ってください。

出禁は解除するとおっしゃいましたよね、ユーフェミアさん」


「前回の出禁は私の決断でした。

今回の出禁は、クランマスターの意思です」


「クランマスターの意思って……。

お宅の昼行灯ひるあんどんのクランマスターが決断したんですか?」


ゴホン!ユーフェミアさんが咳払いする。


「ええと、Sランク冒険者で、竜殺しドラゴンスレイヤーの、『青き階段』のクランマスターが決断したんですか?」

ゴドフリーは言い直した。



へえ、うちのクランマスターってSランク冒険者で竜殺しドラゴンスレイヤーなのか。

知らなかったよ。



「そうです。

ですから、私にはどうすることもできないのです。

申し訳ございません。

必要な交渉は、クランマスター本人と行ってください」


そう言うと、ユーフェミアさんは深々と頭を下げた。



ゴドフリーは上を見たり、下を見たり、ロビーの方を見たり、しばらく考え込んだりした。

そして。


「くっ、必ず戻って来てやりますからね!」

捨て台詞を残し、去っていったのであった。

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