第160話 裏切ったな、ゴドフリー
「なんでいきなりヤツの話が出てくるんですか!」
僕は思わず叫んでいた。
「ヤツとは、カール・カストナー氏のことですか。
親子関係を象徴するような言い方です。
実に興味深い」
ゴドフリーはニマニマ笑いながら言った。
裏切ったな、ゴドフリー。
同じ陰キャ仲間だと思っていたのに!
「あー、クリフ殿の父上は、有名な冒険者なのか?」
コサブロウさんが質問した。
「クリフ殿の父上は、『魔術師クラン』所属、カール・カストナー氏。
今回、番付5位の『マナ同盟No.2』のリーダーです。
前回は、番付2位の魔術師クラン一軍『マナ同盟』のリーダーでした。
カール・カストナー氏は、人間族で現役に限れば、ロイメでも指折りの冒険者です。
ただ、めったに表に出てこない。
そして、インタビューを申し込んでも、全然応じてくださらないのですよ」
親父は、僕以上の陰キャでコミュ障だからな!
「それは……、聞いたことがなかったな」
コイチロウさんが言った。
うぅ……、話してなかった。
番付を見たコサブロウさんは『マナ同盟No.2』のリーダーのことを知りたがっていたのに。
いずれ、話すつもりだったけど、ついつい後回しにしていた。
「すみません、皆さん。
いろいろ考えてしまって、つい報告を後回しにしてしまいました。
『マナ同盟No.2』の今回のリーダーは、僕の親父なんです」
僕は軽く頭を下げつつ言った。
「魔術師クランの、有能な方のリーダーがクリフ殿の父上か?」
コジロウさんが聞く。
「有能かどうかは分かりませんが、親父の順位は悪くないです」
ゴドフリーが割り込んで来た。
「いえ、素晴らしいですよ。二軍で一軍に勝つ。
そうそうあることじゃありません。
そんなわけで、親子対談なんていかがでしょう。
冒険者の心得、リーダーの心得、ちょっと硬派な記事になりそうですが、読みたい人はたくさんいますよ」
「お断りします」
「簡単に断って良いのですか?
カストナー家の親子の仲が悪いと言う記事を書きますよ?」
ゴドフリー、ムカつく野郎だな。
「どうぞ書いてください。
僕と親父の仲が悪いのは事実なので」
僕は親父が嫌いなのである。
「そうですね。
クリフ・カストナー氏は、父親に対してコンプレックスを抱いている。
反抗期を抜けられない精神的な幼さが原因かもしれない。
こんな記事でいかがでしょう?」
すごく不愉快である。
魔術師クランの友人達は、僕を笑い者にするだろう。
魔術師クランの連中は、反抗期とか、精神的な幼さとか、そういう言葉に過敏に反応する。
しかし。
「好きに書いてください。
攻撃魔術が苦手で、治癒術もポンコツ。
笑い者になるのは、初めてではありません。
親父と対談するよりマシです。
僕は親父が嫌いなんですよ!」
思わず言ってしまった後、僕は気がついた。
もしかして、失言した?
ゴドフリーの笑みが深くなる。
「『親父が嫌い』、良い
見出しにすると映えますね。
というわけで、これはオフレコにしますし、対談も諦めます。
ですからせめて、カール・カストナー氏のインタビューをセッティングしてください!
短時間でもいいです!
息子のあなたが頼めば、多分応じてくれます」
「お断りしますよ。
もう一度言います。僕は親父が嫌いなんです」
ゴドフリーに脅されて、親父に泣きつく?
笑い者にされるより嫌である。
ゴドフリーのこめかみがヒクついた。
「親父が嫌い。良いではないか!」
コサブロウさん!
「息子には親父を嫌う権利があるのだ。
ただ、親父が老いた時は孝行するのが、人の道よ」
コサブロウさんは続けた。
「コサブロウ、そこまでストレートに言うのは……」
コイチロウさんが言う。
「兄者、これはタイチロウ兄上の言葉だぞ」
コサブロウさんは反論した。
「なんと!タイチロウ兄上の言葉か!
……胸に染みる言葉だのう」
コジロウさんがしみじみ言う。
スゴくしみじみしている。
「苦労なさったのであろうな、タイチロウ兄上……」
コイチロウさんの言葉には、万感の思いがこもっている。
目尻には微かに涙が光っているようにも見える。
ナガヤ三兄弟の言葉は嬉しい。
それこそ、胸に染みる。
しかし、この3人にこれ程ボロクソに言われるとは、彼らの親父さんはどういう人物なのだ?
「あまり私を適当に扱わない方が良いですよ。
次は番付に載せませんからね!」
「別に構わぬ。
我らの運試しは、キサマには関わりないこと。
載せるも載せぬも好きにするがよい」
コイチロウさんが言った。
コイチロウさん、ありがとう。
そう言ってもらってスゴく嬉しいです!
「今の言葉忘れませんからね!
ブンヤを嘗めないことです。
こうなったら、カストナー親子の対立を利用して、一稼ぎさせてもらいます」
ゴドフリーはそう言うと立ち上がろうとし。
べちゃっ。
ゴドフリーの頭の上にモップが落ちてきた。
キンバリー!
ゴドフリーの後ろで、モップを持って仁王立ちをしている。
……えーとキンバリー、そのモップ、ザクリー爺さんに借りたヤツ?
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