第157話 持つべきものは知り合い

ミシェルさんに手厳しく言われ、僕が落ち込んでいると、ウィルさんに肩を叩かれた。


向こうのテーブルで、ハロルドさんが僕を呼んでいる。



「とりあえず、番付8位おめでとう」


『雷の尾』のテーブルにやってきた僕に、ハロルドさんは言った。


「ありがとうございます」


喜びは、だいぶしぼんでしまいましたが。



「隣で聞いていたのだが、どうも、クリフ君は昔のパーティーメンバーについて調べたいようだ。

この件について、我々が協力しても良いぞ」

ハロルドさんは言った。


これは、思わぬ展開である。



単純に言えば、ダンジョン探索の合間に、ハロルドさん以下『雷の尾』のメンバーが、バーディーとサットンについて調査してくれると言うのである。


「もちろん金はもらう。

私ととウィルとギャビンとダグの4人で調査する。

1人5000ゴールド、他に経費、1万ゴールド、合計3万ゴールドでどうだ?」

ハロルドさんは言った。


金で解決する。

こういう方法もあるのか。

個人的には、目から鱗である。



バーディーとサットンのことは、僕はどうにも気になっている。


身内のいないロイメで、どうやっているのか?

元気にやっているのか?


2人の居場所の検討もついている。

冒険者クラン『鋼の仲間』だ。


だけど、うまく調べられる自信はない。

なにせ僕は陰キャなのである。



「クリフ殿、俺で良ければ無料ただで手伝ってやるぞ」

コジロウさんが後ろから声をかけてきた。


ありがたい。

こういう時の仲間の言葉はすごく嬉しい。

でも。



「有料ですが、私達に任せた方が良いと思いますよ」

ウィルさんは笑顔で言う。


う、うん。

なんて言うか引き込まれる笑顔である。


「クリフさんとしては、昔の仲間に、クリフさんが調べている事を知られたくない、違いますか?」


「その通りです」

そうなんですよ!



「クリフさんは、純粋に昔の仲間が心配だから、調べたい。

でも、昔の仲間にその気持ちが理解されるとは限らない」


そうそう、その通り。

人間関係に誤解はつきものなのだ。


「昔の仲間達は、クリフさんが番付で上位を取って、落ちぶれた自分達を嘲笑しに来たと思うかもしれない。

最悪、昔の仲間との間に、新たなトラブルが発生する」


完璧な洞察である。

僕はひたすら頷くだけだ。



「その点、私達は安心です。

彼らと何の関係もないのですから!

万が一トラブルが起きても、クリフさんにも、昔のお仲間にも、悪い影響が及ばないようにします。

多分うまくやれるでしょう。

万が一荒事になっても、ハロルドさんもダグもいますし」



僕は考えた。

コジロウさんは手伝ってくれると言ってる。

頼めば『三槍の誓い』の他のメンバーも助けてくれるかもしれない。

でも。



陰キャの僕。

異邦人のナガヤ三兄弟。

女の子のキンバリー、と一応メリアン。

vs

世慣れたウィルさん。

【地獄耳】ギャビン。

女性受けしそうな美形のハロルドさん、と一応ダグ。


今回のクエストは、『鋼の仲間』と男の冒険者達の聞き込みがメインだろう。

どちらがこのクエスト向いているかは明らかである。

……。


「よろしくお願いします」

少し考えて、僕は頭を下げた。



その時である。


「ロビーでクエスト受注とは、素晴らしい出会いですね。

では、仲介料を『青き階段』にお支払いいただけますか?」


柔らかい声がした。

ウィルさんはゆっくり振り向く。

僕は振り向かなくても分かる。

ユーフェミアさん!



「8位ランクイン、おめでとうございます。クリフさん」

ユーフェミアさんは眼鏡の縁をきらめかせ、優雅に微笑みながら言った。


「それから、『雷の尾』の皆さん、依頼料がちょっとお高いですね。

もう少し安くなりませんか?」



「『雷の尾』は、ちゃんとしたパーティーだ。

1人5000ゴールドと言うのは、安めだと思う」

ハロルドさんは言った。


ええと、ユーフェミアさん、僕的にも安めな気がするのですが。


「値段は高くありませんが、人数が多いのです。

4人でやる必要のない仕事です。

気のきいた冒険者、トビアスさん辺りなら、このクエストは、1人でこなしますよ?」


「トビアス氏は不在だったはずだ」

ハロルドさんは答える。



「そうですね。

経費ナシ、2万ゴールドでいかがですか?

仲介料は一割2000ゴールドに負けておきます」

ユーフェミアさんは笑顔で言う。


「依頼料1万ゴールド、経費1万ゴールド。

仲介料は、依頼料の1割1000ゴールド払う」

ハロルドさんは宣言した。


これ以上、絶対譲らない構えである。



「分かりました。クリフさん、よろしいですか?」


僕はコクコクと頷く。


「あと、『雷の尾』の皆さん。

この件にイリークさんが関わらないようにお願いします」

ユーフェミアさんは念をおした。


確かに。

イリークさんが関わってきたら、になる。


「承知した」

ハロルドさんは答えた。



「イヤッホー!

経費1万ゴールド分飲み食いできるぜ。

安心しろ、クリフ。

絶対クリフが心配してるなんて言わないからよ!」

ダグが言った。

良い笑顔である。


「……。」

僕は沈黙する。

この依頼、『雷の尾』に任せて、正解だったんだろうか?



「ダグ、お前は黙っていろ。それがお前の仕事だ。

クリフ君、ダグに余計な口はきかせない。

後、イリークには絶対関わらせない。約束する」

ハロルドさんは言った。


お願いしますよ、ハロルドさん。

ダグと、特にイリークさんのこと!



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