第155話 『暁の狼』の長い影
僕は物思いにふけりながら、『青き階段』に帰った。
レイバンは、次に会う時は他人だと言った。
これはまあ、いいだろう。
レイバンがそう言うのだから。
だが、バーディーとサットンだ。
今まで僕は、2人がどうなろうと関係ないと思っていた。
でも、本当にそれで良いのだろうか?
バーディーとサットンは、僕とは他人だって言いそうだけどさ。
「クリフさん、おめでとうございます。
『三槍の誓い』8位は素晴らしいですね」
受付のノラさんが、気合いの入ったビジネススマイルで迎えてくれた。
ノラさんの気合いは、今の『三槍の誓い』の評価の賜物だ。
いつものテーブルには、すでに5人が揃っていた。
「8位か。悪くはないな」
コジロウさん。
「
評価されることは悪い気分ではない」
コイチロウさん。
「我らの努力の成果ぞ。
ネイサン殿とデイジーより上だ」
コサブロウさん。
「わたしは途中参加だけど、一緒にさらに順位あげてくからね!」
メリアン。
「『冒険者通信』には、興味がない。
でも、おめでとう」
キンバリー。
「皆さん、今までの頑張りの成果だと思います。
ここで気を抜かず、怪我をせず、さらに上を狙いましょう」
浮かれてはいられない。
マナ同盟No.2は、トップ5入りしていたのだ。
顔には出さないようにしているが、僕はすごく悔しい。
僕の中の目標は、ようやく明確なりつつあった。
ヤツに勝つ!!!
とは言え。
「次は北のサブダンジョンか?」
コジロウさんが言った。
「そうですね。第四層・第五層に行く前に皆の動きを確認した方が良いと思います」
「どんなダンジョンなのだ?」
コサブロウさんが聞く。
「
スライム、昆虫系、たまにゾンビなども出ます。
通路はしばしば変化し、迷いやすいダンジョンだとか」
「
コイチロウさんが言った。
「水や食料を多めに持っていくこと。
長丁場を覚悟すること、だそうです」
僕の情報のソースは、過去の『冒険者通信』なんだけどね。
ついでに、僕は、液体の水を水蒸気から作る魔術も使える。
ただ、魔力は無限じゃない。
冒険は準備から。
基本である。
「メリアン殿、体力勝負になるぞ。
大丈夫か?」
コイチロウさんが言った。
「大丈夫よ。
やっぱりパーティーが良いと全然楽ね。
以前の私とは、違うわ!」
メリアンは明るく答えた。
パーティー。バーディー。『暁の狼』。
僕の中で連想が動く。
「そういえばメリアン、あの後、『暁の狼』のレイバンに会ったんだよ」
僕は言った。
「で、それが?
レイバンのことなんて、わたし知らないわよ」
メリアンは答えた。
いきなり不機嫌である。
考えて見れば……、メリアン達は、レイバンに見捨てられたようなものなのだ。
質問の仕方を間違えた。
「メリアンは、バーディーとサットンとは会ったり、連絡を取ったりしてないの?」
誰かに質問する以上は、ズバリ本題。
これが正道だろう。
メリアンは、バーディーとサットンと最後まで一緒だった。
仲も良かった。
連絡を取っていても不思議ではない。
「してないわよ」
「ええと、メリアンは、バーディーとサットンが心配だったりしないわけ?」
「はああ?
何でわたしがバーディーとサットンの心配をしなきゃいけないわけ?」
「同じパーティーメンバーだったし。
また機会があれば、一緒にパーティーを組もうって言われたんだろ?」
メリアンも、少しバーディーとサットンの事を気にかけても良いんじゃないか?
追放された僕でも心配してるんだし。
「あたしは別に2人のことは心配じゃないし。
だいたいあっちは2人組だし、男だし。
わたしは1人だったのよ」
メリアンは答えた。
失敗した。また、話がずれてる。
質問するなら、ズバリ本題だ。
「メリアンがたいへんだったのは分かったよ。
僕はバーディーとサットンがちょっと心配なんだよ。
連絡取れる?」
これがズバリ本題だ。
最初からこう言えば良かったんだよ。
「なぜあなたが心配するのよ。
向こうだってあなたに心配されて、迷惑よ」
「メリアンちゃんと答えてくれ。
僕はメリアンに、バーディーとサットンに連絡取れるかって聞いたんだよ?」
答えは、イエスかノーかだ。
「クリフ、あなたが私に何を言いたいのか知らないけど。
わたしはしらない。
それだけよ!」
メリアンは強い口調で言った。
何そんなにカッカしてるんだよ?
「そうか」
メリアンがダメとなると……、どうしよう?
別の方法を考えないと。
「言っとくけど、バーディーもサットンも、『暁の狼』時代、かなりあなたの悪口を言ってたわよ」
メリアンは言った。
「それは想像がつくよ。
それほど気にしてないし」
僕はなるべく冷静に答えた。
僕は『暁の狼』に金を貸していた。
借り主は、貸し主の悪口を言う。世の摂理だ。
もちろん、全然気にならないわけじゃないぞ。
ちょっとは気にしてるんだぞ。
でも、世の中には仕方ないことがあるってことだ。
……タブン。
「へーえ。
どんなことなら、気になるのよ?」
「非合理的な行動だよ。
時々、バーディーは理屈に合わない行動を取る」
そう、例えば、メリアンをやたら特別扱いするとか……。
「クリフ、私ねえ、あなたのそういうとこ嫌いよ」
メリアンは言った。
いきなりの嫌い宣言。
僕は面食らった。
「わたし、今日は帰る。
後のことは、適当に決めておいて」
メリアンはそう言うと、立ち上がり、階段を上っていく。
『青き階段』の二階にはメリアンの部屋がある。
帰ると言っても二階なのである。……が。
受付でノラさんが大きくため息をついた。
……。
……ええと、僕、なんかやっちゃいましたか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます