第154話 レイバン
僕はレイバン、だと思う人物を追いかける。
だが、『冒険者通信』目当てに人がけっこう出ていた。
僕は人混みの中、彼を見失う。
僕は左右をキョロキョロしながら、歩いた。
レイバン。
『暁の狼』のスカウトで、最年長だった。
メリアンの話によると、僕の追放劇の直後、自らパーティーを抜けたらしい。
もし会えたら……、聞きたいことがあるんだが。
見つからない。僕は溜め息をついた。
「もしかして、俺を探しているのか?」
突然後ろから声をかけられた。
僕は振り向き、……レイバンがいた。
レイバンは、黒髪で、中背で細身の男だ。
目付きが悪いが、魔術師クランの連中と違って、目が悪いわけではないらしい。
他人と目を合わせるのが苦手なようなのだ。
僕も似たような性だ。気持ちは分かる。
「フン。うまくやってるようじゃないか」
レイバンは言った。
「そこまででもないよ」
僕は答える。
「俺もあの時、お前に付いて行けば良かったかもな。
運を逃した。
あの女は図々しくお前を頼ったのか。
さすが女だ。
面の皮の厚さは大したもんだ」
あの女と言うのはメリアンのことだろう。
「なぜ、あの後すぐに『暁の狼』を抜けたんだ?」
僕が聞いておきたかったのは、これだ。
「あのパーティーはもうおしまいだ。当然だろう」
レイバンは答えた。
「おしまいかどうかは分からないだろ?」
「『暁の狼』がおしまいじゃない理由を知りたいね。
金はない。
攻撃力もない。
リーダーは田舎から出てきたばかりで、世の中を知らん若造だ。
治癒術師はいるが、冒険者より夜の街が似合う女だ。
うまくいくはずがない」
あー、【メリアンが夜の街が似合う女】には、僕的に異論がある。
……メリアンは、その、どちらかと言うと、夜の街に立たせたら駄目な女だと思うんだよ!
だが、今これを言い出したら、話は本題と別の方向に流れるだけだ。
僕は言いたい事を我慢した。
「言い方が悪かった。言い換えるよ。
なぜ、皆を見捨てたんだ?」
僕は改めてレイバンに聞いた。
「見捨てた?何を言っている。
稼げないパーティーを身限るのは当然だ」
「それを見捨てたって言うんだよ」
僕は言った。
「俺は暇じゃない。
見込みがなくて稼げないパーティーになぞいられない」
レイバンは淡々と答えた。
僕的にはレイバンが、バーディーとサットンとメリアンを、いきなり放り出すのは良くないと思う。
「もし、君が付いていれば変な男に騙されることはなかったんじゃないか?」
『暁の狼』は、僕が抜けた後、クロスボウ使いの詐欺師まがいの男に騙され、それが解散の切っ掛けになったらしい。
『暁の狼』は、僕を切り捨て、追放してまで、パーティーを存続させようとした。
それなのに、間抜けな結末だ。
僕としては、納得できない。
「変なクロスボウ使い?
そう云えばそんな噂も聞いたな」
レイバンは、他人事といった口調で言った。
「バーディーとサットンだってレイバンを
抜けたいなら、僕を追放する前に抜ければいい。
それなら、バーディーとサットンは僕を追放する前に、今後の状況について良く考えたはずだ」
「言いたいことが良く分からん」
「だから、『暁の狼』を抜けるなら、僕追放より先であるべきなんだ。
そうすれば、バーディーとサットンは僕の追放について、もっと考えただろう。
僕の追放まで付き合ったなら、ちゃんと追放した側としての責任を果たせ。
レイバンがちゃんと責任を果たしていれば、『暁の狼』は崩壊することはなかったかもしれない」
「ちゃんと責任を果たすとはどういう意味だ?」
「大人としての責任だよ!」
「バーディーとサットンは、成人だろう」
バーディーとサットンは18歳だった。
確かに、ロイメでは16歳で半成人だし、18歳で完全な成人と見なされる。
でもさ。
「バーディーとサットンはまだ若い。
ロイメに身内もいない」
「俺は冒険者だ。あいつらも冒険者だ。
お互い対等だ」
「そうかもしれないけど、二人はまだ18歳だぞ。
メリアンだって19歳で、女の子だ」
「皆、生きるのに、精一杯だ。
他人の面倒なんかみていられるか」
レイバンは、そこまで言った後、少し考え、続ける。
「面倒をみたいなら、お前が見ろ」
「いや、僕は追放された身だし、立場上そういうわけには……」
僕はモゴモゴ言う。
「俺が、お前を追放してから抜けたのは、そうした方が報酬の取り分が増えるからだ」
レイバンは言った。
「……。」
僕は沈黙する。
「つまらん話だ。
時間の無駄だった。
それと、誰かの追放を考えるようになったら、俺はそのパーティーとはおさらばする」
レイバンはそう言うと、体を翻した。
「レイバン!」
「今度会う時は他人だ。分かったな」
レイバンは一瞬振り返ると、言った。
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