第148話 真・ハーレムパーティー
僕達の持ち場は、ロイメの西、運河と川に挟まれた場所だ。
川は北の森から流れてきて、ロイメの西で運河に合流している。
このエリアの護衛は、『三槍の誓い』6人組と、『輝ける闇』4人組と、ユーフェミアさんとマデリンさん、合計12人だ。
メリアンが『輝ける闇』のネリーやトレイシーと揉めなきゃ良いけど。
「川と運河で区切られたエリアやから、そこそこ強そうなメンバーを集めたんや」
持ち場分けについて、シーラさんは説明した。
「マデリンさんも一緒なんですね」
僕の発言は、単なる確認だった。
「マデリンさんの目的は、新しい彼氏探しやろうな。
薬草取りの日に、トラブル起こされると面倒やし、隔離しとかんとな」
「……。」
僕としては、何とも言いようがない。
「『雷の尾』の持ち場はどこになるんですか?」
これも単なる確認である。
「『雷の尾』は、『緑の仲間』の持ち場の側やで。
超美形エルフを連れて来てって要望が、ぎょーさんあってなぁ」
「……。」
僕としては、これも何とも言いようがない。
イリークさん、大爆発を起こしたりしないかな?
まあ、ハロルドさんとウィルさんなら、イリークさんの手綱をとるだろう。多分。
川には、丸木橋がかけられていて、僕達、護衛組と採集組はそれを渡って行く。
護衛組も日除け帽子はかぶっている。
マデリン印の虫除け薬もつけたぞ!
川向こうでは、金鈴花は一段とたくさん咲いている。
ちょっと花が大きいような気さえする。
「思った通り!
良い金鈴花が咲いてるよ!
1日頑張ろう!」
「おおー」
採集班は『黄緑の仲間』と名乗った。
『黄緑の仲間』のリーダーは、元気の良い中年のオバサンだ。
「皆さん、水分補給にはくれぐれも気をつけてください。
体調を管理してこそ、よい薬草採集です」
「はーい」
『黄緑の仲間』のサブリーダーは、大人しそうな雰囲気の地味で眼鏡をかけた中年のオッサンだった。
『黄緑の仲間』は、全員人間族で32名。
そして、サブリーダーのオッサンを除けば、全員オバサンいえ、女性。
採集に関してはプロらしい。
「アタシ達は、金鈴花の季節以外も採集活動してるからね。
あ、マークは隊の立ち上げの時にアタシが誘ったの。
マークと私は幼なじみ。
マークは経理の専門家なのよ!」
『黄緑の仲間』リーダーである元気なオバサンは言った。
なお、マークと言うのは、大人しいオッサンのサブリーダーのことである。
「マークはねぇ、以前いた商会を首になったのよ。
馬鹿で無能な若旦那が、有能なマークを追い出したの。
しばらく前に奥さんも亡くして寂しそうにしてたから、誘ったのよ」
元気オバサンは続ける。
僕は、特に質問してないんだけど。
「……蓄えもありましたし、娘のいる田舎に帰ろうかと思ってたんですが……」
サブリーダーのマークさんは、ぼそぼそと僕に言う。
「田舎なんかいつでも帰れる。
ロイメの方がずっと面白いって!」
そう言うと、リーダーの元気オバサンは、マークさんの背中をばんばん叩いた。
「え、マークさん独身なのぉ?
びっくりぃ。
マデリン、頑張っちゃおうかなぁ?」
突然、マデリンさんが割り込んで来た。
僕的には、マデリンさんの男の趣味の広さにびっくりだ。
正直に言ってマークさんは、しょぼくれたオッサンにしか見えない。
「ちょっと、そこの色気虫!
アタシ達のマークに近寄らないで!」
「シッシッシッ!」
「向こうに行きなさいよ!」
『黄緑の仲間』のオバサン達が言う。
マデリンさんは、うるさい蝿を追い払うように、オバサン達に追い払われた。
「アタシ達『黄緑の仲間』は、マーク以外は皆女。
いわゆる、ハーレムパーティーってやつよ!
あまり変な女をマークに近づけるわけにはいかないわ!」
「……。」
僕としては、何とも言いようがない。
「やるなあ、マークさん。
僕も、あのくらいの歳になったら、こんなパーティーを
これは自分もハーレムパーティーを
シオドアよ、ハーレムならなんでも良いのか……。
採集のオバサン達の中にはは、後20年いや10年若ければ、かなり見栄えがしたであろう女性もいる(と思う)。
でも、僕には、今日の日除け帽子を被った彼女達は、ひたすらオバサンの群れにしか見えない。
「周り中女性の中、凄いですね」
シオドアが、マークさんに話しかけている。
「まあ、頼まれてしまいましたしね」
マークさんは苦笑しつつ答えていた。
金鈴花は、膝丈より少し低いぐらいの丈である。
そんな、金鈴花畑のあちこちに杭と縄で囲まれた場所がある。
このエリアに来る前にも、似たような囲いがあった。
「この囲いは何ですか?」
「この囲いの中の金鈴花は、来年に向けて結実させて、種を取ります」
マークさんは答えた。
「種を撒くのかと思ってました」
「金鈴花は、ラブリュストルの花とも言われますが、ひねくれモノなんです。
ヒトの手を加え過ぎると、マナが薄くなる。
野生のまま結実させた種も必要なんです」
「へえ」
僕は頷く。
僕の隣でコイチロウさんも頷いた。
その時だ。
僕の前の金鈴花が咲く地面が、ボコッと陥没した。
なんだ!?
ボコッ。
今度は別の場所が陥没する。
足元から強いマナの気配がする。
ボコッボコッ。
陥没した穴から、ヒト族の手が出てきた。
ただし、腐りかけ。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
あちこちから悲鳴が聞こえる。
僕も悲鳴をあげたいが声が出ない。
ボォボコッ!!
さらに大きく地面が崩れた。
中から腐りかけの体を引きずりながら、這い出して来た。
ゾンビである。
ここは北の草原だ。
ダンジョン第二層じゃない。
場所をわきまえろ、ゾンビ!!
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