第147話 薬草取りの日、そしてクリフの審判

ロイメの城壁の外は、東西に流れる運河を境に、風景が異なる。



南側は農地である。所々に農村もある。

『デイジーちゃんと仲間達』の家もそういった村にあるのだろう。



北側は草原である。集落はない。

普段は、家畜が放牧されていて、人間やケンタウルス族の牧童が管理している。


北の草原は、北の森へ繋がり、やがて北の山地へ至る。

このうち、北の森までがロイメの領土だ。



北の山地は、ドラゴンや大型魔物モンスターの住みかで、ヒト族の侵入を拒んでいる。



薬草取りの日の1日目は、良い天気だった。

金鈴花きんりんか採集は、雨が降っても行われるので、天気は重要だ。


金鈴花は、エリクサーの主原料になる薬草だ。

貴重な薬草だが、一斉に咲き一斉に散る。

金鈴花の採取は時間との競争なのだ。



時刻は夜明け前。

僕達、護衛組は、ロイメ北の城門を通用口から出た。


5~60人はいるだろうか?

人間族だけでなく、エルフ族や、ドワーフ族もいる。

ケンタウルス族や、トロール族もいる。

何の気まぐれか、マデリンさんも来たので、セイレーン族も1人いる。

まだ来てないが、リザードマン!も来るはずだ。


非常に雑多な種族の集まりだ。

おそらく、ジェシカ・ダッカーはそう言う風に護衛メンバーを選んだのだろう。



顔合わせは先日済ませた。

『雷の尾』はもちろんだが、『輝ける闇』も来た。

他には、異種族中心のパーティーや、僕の知らないベテランパーティーなどだ。


エルフ族の『盟約の守護者』の若手の中には、僕より背が高く筋肉質なエルフがいた。


ドワーフ族の『洞窟の王者』の若手代表は、僕同様に陰キャで(ドワーフにしては)細身の魔術師だった。


名前を覚えるのは諦めた。無理だ。




「見事なものだの」

コイチロウさんは、目の前の風景に感嘆のため息をついている。


北の草原は、黄色い金鈴花が絨毯を作るように咲いていた。



「スゴイやろ。こんなにたくさん咲く場所は、世界でもここだけやで」

『緑の仲間』でケンタウルス族のシーラさんは、自慢気に言った。


「どうやればこんなに咲くのだ?」

コイチロウさんは聞いた。


「それは、ウチら『緑の仲間』の長年の努力や。

当たり前やが、花を取りすぎれば、次の年が取れへん。

種を撒いたり、いろいろやってるんや」

シーラさんは答える。


「『緑の仲間』のノウハウを生かせば、アキツシマでもこのように金鈴花が咲くのか?」

コイチロウさんは、続けて聞く。


「それは、無理ちゅうもんやな。

金鈴花は、マナを吸収する。マナの乏しい土地では咲かん。

土地のマナを吸収しつくせば、しばらく咲かん。

でも、ロイメの北の草原は、ダンジョンに関わる地脈のせいで常にマナが供給されとる。

特別な土地なんや」



「……そうか」

コイチロウさんは言った。

かなり残念そうだ。


「まあ、ちゃんとやれば、多少収穫を増やすことはできるかもしれへんな。

土地の条件を見ん事にはわからん」

シーラさんはそうしめた。



「あの建物は何だ?」

コジロウさんが指差した。


黄色と緑のグラデーションの向こうに、頑丈そうな石造りの建物群が見える。


「北のサブダンジョンの入り口ですね。

冒険者ギルドが管理しています」

僕は答える。



「北側を農地にしていないのは、金鈴花を取るためか?」

コサブロウさんが聞いた。


「いいえ。安全のためです。

ロイメの北側は大小問わずサブダンジョンが発生しやすく、魔物モンスターが時々出るんです」

僕は答えた。




ドンドンと太鼓を叩く大きな音がした。

ロイメ北の大門が開いていく。


扉の向こうから、凄い勢いでワラワラとヒト族達が出てきた。

皆、背に籠を背負い、日除けの帽子を被り、薬草取りのスタイルだ。



薬草取りはオバサンのイメージがあるが、今時はオッサンもやる。

冒険者もやる。


何故かって?

儲かるからだ。


採集の技術や場所にもよるが、この4日間は人足をやりよりも、儲かる。

僕もあのまま『暁の狼』にいたら、今日、採集冒険者の一人として参加しただろう。


金鈴花取りの季節は、ロイメの住民にとって、現金収入の季節なのだ。



残念ながら、金鈴花は、誰でもどこでも取って良いわけではない。

土地には採集権が付いている。

皆、それぞれの持ち場まで走って行く。

当然、一番良い土地は、『緑の仲間』が占有している。



ヒトビトの間を誘導して回る、小さな馬とそれに騎乗する小さな人影が見えた。

ケンタウルス馬とそれに乗ったケンタウルス族の牧童だろう。


ケンタウルス馬は、小柄な馬だが、頑丈で敏捷で、脚も早い。

本来のケンタウルス族は、この馬と共に暮らすのだ。




「で、あんたがソーソーの言ってた、クリフ・カストナー?」

橙色の飾り鱗のリザードマンが言った。


「はい、そうです。ジュンジーさんですよね?」

僕は言った。


「良くわかったわね」

ジュンジーさんは答える。


「はい。ソーソーさんから聞きました。

橙色の飾り鱗で、少し濃い目の緑の鱗で、背が高く尻尾が長いのがジュンジーさんだと」



「人間にしては良く見てるね。

私が誰だか分かるかな?」

もう1人のリザードマン族が言った。


「濃い赤の飾り鱗で、灰色がかった緑の鱗。

コーカークーさんです。

飾り鱗が大きいですね。

ステキです」


「その通りだ」

コーカークーさんは、喉の鱗をキュシュキュシュと震わせた。

多分、これは笑っているんだろう。



「では、君から見て、誰が一番美しいと思う?」

ソーソーさんが聞いた。


僕は迷った。うーん。


「……コーカークーさんの大きい飾り鱗は良いけど、ジュンジーさんの長い尻尾も良いし、ソーソーさんのうす緑の鱗は超好みだし…」

僕は考え込む。悩むなぁ。



「いずれ菖蒲あやめ杜若かきつばた、お三方の有り様は簡単に比べられるものではありません。

皆さんそれぞれにお美しい。決められません」

考えても答えは出ない。僕は正直に言った。


「良い表現だ」

ソーソーさんは言い、キュルキュルと鱗を鳴らした。

コーカークーさんとジュンジーさんも笑ったようだ。



僕はリザードマンの3人と順番に握手をした。

今日は良い日である。


この後、3人は護衛の持ち場に向かうらしい。

あ、そうだ。


「美しい皆さんに是非ともお会いしたいと言っている人が、僕以外にもいるんです」


ユーフェミアさんもリザードマンに会いたがってたからな。



僕はリザードマンに、ユーフェミアさんを紹介した。

リザードマンと握手をしたユーフェミアさんは、ちょっと顔がひきつっているように見えた。


感動が大き過ぎると、うまく表現できないんですよね。

分かりますよ!



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