第149話 花畑のゾンビ

「ヒィィィ!!」

僕は遅れてようやく悲鳴を上げた。


花畑に死体、いやゾンビ。ホラーだよ!

北の草原にゾンビが出るなんて聞いてないよ!



「クリフ殿、結界を張れっ!」

コイチロウさんの声が聞こえる。


あ、そうだ。結界だ。聖属性の結界。すっかり忘れていた。



「聖結界」


僕は聖属性の結界を張った。

そして、張った結界を僕に近づいて来たゾンビに押し付けていった。

朝の日差しの中、ゾンビの動きは鈍い。

じきに、ソンビは骨も残さず燃え尽きる。


よし。きれいに片付けてやったぞ。

ザマア見ろ、ゾンビ!



考えて見れば、聖属性の結界を張れる僕は、ゾンビなぞ恐れる必要はないのだ。

何で、あんなに怖かったんだろう?

いや、足元からゾンビが出てきた時、本当に怖かったんだよ。



ザンッ。

僕の隣にいたコイチロウさんは、ゾンビ1体を真っ二つにした。

聖属性を仕込んだ槍の威力だ。

ゾンビは動くのを止める。



しかし、突然這い出して来たゾンビは1体や2体ではない。

花畑のあちこちに、あるいは彷徨う、あるいは立ち尽くす、生ける死者達がいる。


他の皆はどうしてる?



「いやああん」

マデリンさんの甘ったるい声がした。


割と元気なゾンビと追いかけっこをしている。

とりあえず、あれは放っておいて良いような気がする。



ユーフェミアさんは、真っ青な顔で、硬直していた。


「ユーフェミアさん、大丈夫ですか?

気持ち悪いですが、ゾンビそのものはたいしたことないです」

僕は声をかけ、ユーフェミアさんの硬直した腕を取り、


「ぎゃぁぁぁぁ!!」

突然ユーフェミアさんが、悲鳴を上げた。


「いやあ不潔、糞ゾンビ!

聖槍!!」


そう言うと、ユーフェミアさんは、聖属性の攻撃魔術を放つ。

ターゲットは、コイチロウさんが真っ二つにしたゾンビの死体・・・・・・である。

ゾンビの死体は、一瞬でチリになった。


ユーフェミアさん、ちょっと魔力が勿体ないような気がするんですが……。



「クリフ君、ユーフェミア叔母上は、戦闘ではあてにしない方が良いよ」

シオドアの声が聞こえた。


シオドアは、えらく長い剣を振るってゾンビを倒している。

奴の剣はあんなに長かったっけ?



「叔母上は止めてちょうだい、シオドア!」

ユーフェミアさんは言った。


少し、いつものユーフェミアさんに戻っただろうか?


「大丈夫ですか?ユーフェミアさん」

僕はもう一度声をかけた。


「だっ大丈夫です。

ユーフェミア、ゾンビごときに遅れは取りません!」


うーん、まだちょっと顔色が悪いかもしれない。



「いやああん」

マデリンさんの甘ったるい声がする。

無視無視。



「皆、落ち着け!

たかがゾンビ。

気色悪いが、たいした相手ではない!」

コイチロウさんが、大音声だいおんじょうで呼び掛けた。


「兄者の言う通り。

ゾンビなど我ら『三槍の誓い』の敵ではない!」

コジロウさんも大音声だいおんじょうで応える。


そう言いながら、コジロウさんは、穂先と石突きでゾンビを2体同時に倒していた。



「『黄緑の仲間』よ。

少し気味悪いが、我々が片付けるまで耐えてくれ!」

コサブロウさんも大音声だいおんじょうで言う。


そして、コサブロウさんが振るった槍は、『黄緑の仲間』のオバサンを追いかけていたゾンビを叩き潰す。



「おおー!」「はーい!」

あちこちからオバサン達の声がした。


そうだ。たかがソンビだ。たいした相手ではない。

それにしても、ナガヤ三兄弟の槍に聖属性の魔石を仕込んで良かったよ。



「いやああん!」

無視。



「ちょっとトレイシー、ゾンビにれたくないのが見え見えよ。

気合いが足りないんじゃない?」

これはメリアンだ。


「うるさいわね。

あんたも、小剣ショートソードでゾンビに立ち向かって見なさいよ。

それより、あんたの『聖なる火花』、全然効いてないわよ!」

これは、トレイシー。



「いやああん」



「2人ともガタガタ言ってる暇があったら、仕事するんだよ!」

これはトロール族の女戦士ヘンニ。


ヘンニはそう言いながら、バトルアックスで、ゾンビをぶっ潰した。

体に付いているシミから見て、既にゾンビを何体か倒して、返り汁を浴びている。

流石である。



「いやああん」



「いいこね、ソンビちゃん。『使役』」

これはネリー。


ネリーは2~3体ゾンビを引き連れている。

ネリーに使役されているゾンビ達は、別のゾンビを襲ったり押さえ込んだりしているようだ。


死霊術属性ネクロマンシーの宿命とは言え、ゾンビの使役とは、これもご苦労さんだ。



「いやああん」

マデリンさんは、相変わらずゾンビと追いかけっこだ。

あれ、どうしようか?



「マデリンさん!

コジロウさんは強くて美しい女性が好きだって言ってた!」

キンバリーが小剣ショートソードで、ゾンビを1体仕留めながら言った。


「いやーん、ってそうだっけ?」


「マデリンさん、私も強くて勇気のある女性が好きです」

マークさんが言う。



「やだぁ、もう、マークったらー。

そう言うことは早く言ってよぉ。

水の刃」


マデリンさんの一声と共に、数え切れない水の刃が飛び交った。

僕達の周りにいたゾンビは一瞬で肉片になった。


ゾンビ討伐は完了した。


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