第142話 お礼参りパート2
トレイシーはメリアンに近づいて行った。そして。
「ごめん、メリアン。
銀弓ダイナの口車に乗ったアタシが悪かった」
トレイシーは言った。
しーん。『青き階段』のロビーは静まりかえる。
皆の視線は2人に集中している。
ここで謝罪を受け入れれば、女神大戦の
メリアンだからな。なんて答える?
「はあ?何よそれ。
今頃謝ってきたって、もう遅いのよ!」
メリアンは言った。
うん、メリアンだ。
「まあ、そうだけど、やっぱり謝っておこうと思って……。
まあ、ゴメン」
トレイシーは再度謝罪した。
「ねえ、銀弓なんて女に何で簡単に騙されるのよ。
馬鹿じゃないの?」
メリアンは問い詰める。
「しょうがないでしょ。
騙されちゃったんだから」
「何で騙されたのよ!」
「アタシより頭のいいネリーや、経験豊富な女将さんもいろいろ言ってたし、他にもまあ、あんたとはいろいろあったし」
あ、ネリーに飛び火した。
ネリーはため息をつくと、メリアンの方へ歩いて行った。
「ごめんなさい。
私が間違ってた」
ネリーは言った。
ネリーが『間違ってた』と言ったぞ。
僕から見てだが、これはかなり反省している。
「私も気遣いが足りなかったよ」
トロール族の大女ヘンニも言う。
「あのね、ごめんとか、間違ってたとか言うけどね。
ごめんですむなら
メリアンは宣言した。
メリアンは、やっぱりメリアンである。
しかし、これは、どうするか。
最悪、僕が仲裁することになるんだろうけど。
「はぁー?
そんなこと言っても間違えたんだから仕方ないでしょ!
時間は戻らないのよ!」
トレイシーは言った。
トレイシー、謝りにきて喧嘩かよ。
「そう言う所が、納得できないのよね!
分かる?」
メリアンは言い返す。
メリアンも、……ほどほどにしてくれ。
延々と口論しても仕方ないだろ?
そして。
「う・る・さーい!!」
続く口論を遮ったのは、甲高い声だった。
皆の視線が集中する先にいるのは、ハーフエルフ・ケンタウルス族の万年美少女ことレイラさん。
と、その後ろにはセイレーン族の愛の使者、マデリンさんもいる。
2人は皆の視線がメリアンとトレイシーに集中しているうちに、ロビーに入って来たようだ。
「2人とも、いつまでもグチグチ喧嘩してもしかたないでしょ!
時間の無駄よ」
レイラさんは言う。
2人の口論が時間の無駄であることには、僕も全面的に同意する。
「でもぉ」
メリアンは口を尖らせた。
「もう、グダグダ言ってないで、お芝居でも見てきなさい。
お小遣いあげるから」
レイラさんは言った。
……こういう喧嘩の仲裁方法もあったのか……。
個人的には盲点である。
覚えておこう。
「
店番はちゃんとやるって言ってませんでしタカ?
どうしてここにいるんデスカ?
おかしくありませンカ?」
セリアさんがマデリンさんに食って掛かった。
「レイラちゃんが『青き階段』に遊びに行くって言うしぃ、お店閉めていっしょに来ちゃったぁ」
マデリンさんは答えた。
マデリンさん、質問に対する答えにも、言い訳にもなってない気がしますよ……。
さて、メリアンは単純で、割とあっさり機嫌を直した。
セリアさんはちょっと迷ったが、
キンバリーは、芝居見物なんて勿体ないと言ったが、レイラさんに社会勉強だからと言われて納得した。
そして、小遣いをもらった3人はいそいそと出掛けて行った。
急げば開演に間に合うそうだ。
まあ、良かったんじゃないの?
3人が出掛けた後で。
「トレイシー、また『風読み』に修行に来ていいわよ」
レイラさんは言った。
「あざーす!」
トレイシーは即答し、頭を深々と下げた。
ここら辺は、メリアンに対する態度とも僕に対する態度とも違う。
まあ、そういうものだろう。
「だからトレイシー言ったでしょ。
謝ったって許してもらえるとは限らないって。
それどころか謝られて更に腹が立つことだってあるんだから」
僕の後ろで、ネリーがトレイシーに小声で言うのが聞こえてきた。
「そうだけどさ。
やっぱりスジを通しておくことって大切だと思うんだよ」
トレイシーが小声で答えるのも聞こえる。
この辺りは難しい問題だよな。
どっちが正しいのかは、僕にはわからない。
『輝ける闇』3人の用事はこれだけだった。
失礼したね(これには同意する)、の言葉と共に3人は帰ろうとした。
「大陸トロール族の女戦士殿。
おぬし、強そうだな」
コジロウさんが、帰り際の大女ヘンニに声をかける。
「あんたも腕は立ちそうだね。
ハーフ・アキツシマトロールだそうだね。
今度立ち会わせておくれ」
ヘンニは答えた。
強者同士通じ合うものがあるのだろうか。
「今度ではなくて、今からでも良いぞ。
訓練場が開いておる」
いつの間にかやってきた訓練場の主、ドワーフ族のソズン教官が言った。
「怪我ならマデリンが治してあげるわよぉ。
でも、死んじゃったら無理だからぁ、気をつけてねぇ」
薬屋マデリンさんが言う。
「うぉぉぉぉ!」
突然始まった大物同士の立ち合いに、ロビーにいた冒険者達は色めきたち、どよめいた。
冒険者とは、こういう連中である。
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