第137話 放蕩息子の帰還について(ロイメの苦労も察して欲しい)
「とっとと銀弓に手紙書きィや」
ケンタウルス族のシーラさんは金盾を促す。
ケンタウルス族は人間族の10歳児ぐらいの背しかない小柄な種族だが、シーラさんの態度は、僕よりはるかに大きい。
ケンタウルス族の歳は分かりにくいけど……、多分いい歳のオバサンなんだろうな、シーラさん。
金盾はつべこべ言わずにあっさり手紙を書いた。
「フムフム、ええやろ。悪うはない。
これやったら銀弓も納得するやろ」
シーラさんは言った。
金盾は故郷に帰るらしい。
まあ、間違いなく帰るだろう。
わが元に帰れって言われてたしな。
金盾の故郷にどんな試練があるのか、僕達は考えてやる義理はない。
とは言え、ジェシカ・ダッカーは気前が良かった。
「金盾ェ、渡せる金は200万ゴールドまでや。
なんや『けったいなモン』が降りてきたからな。
100万ゴールドはあちこちの神殿に寄付してお伺いを立てるつもりや。
とっとと出ていけばいいものを、あんたが無駄に粘るせいでえらい迷惑やで」
シーラさんは金盾に、契約魔術が付与された紙にサインさせ、とっとと放り出した。
紙には1日以内にロイメを出るように書いてある。
契約が破られると、紙が燃え落ちる仕組みである。
「とっととロイメを出ていきや。
あと、魅了スキルは二度と使わんことや」
「安心しろ。俺の魅了スキルはなくなった。
わが
金盾は低いバリトンで答えた。
ソウデスカ。
立ち直った(多分立ち直ったでいいんだよね?)金盾は、今まで以上にカリスマ性と存在感があり、銀弓が惚れた理由も少し分かった。
新たな女性問題を起こす前に出ていってください。
お願いしますよ!
ユーフェミアさんはあっさり正気に戻った。
「調子の悪い所はないですか?」
僕は聞いた。
「特にありませんが……。
でも、私としたことが、途中から記憶が曖昧です」
ユーフェミアさんは答えた。
シオドアが金盾をいびっている所まではしっかり記憶にあるらしい。
その後、何か巨大な気配を感じて、その後は半ば夢を見ているようだったそうだ。
心身共に問題がないようなら、ヨシ。
ヨシでいいよ、いいよね?
「
シーラさんはズケズケと言った。
そう言われると僕としては何も言えない。
僕は溜め息をついた。
「シーラ殿は心配しておるのだ。
ただ、
あくまでちょっとだが」
コイチロウさんが言った。
「……」
僕は沈黙した。
ちょっと調子に乗ったかもしれない。
金盾、弱かったしなあ。
ただ、相手が弱ければ何をしても良いと言うことはないだろう。
「力に溺れるなかれ。我らのアキツシマの武芸の師の言葉だ」
コイチロウさんが続ける。
「肝に命じますよ」
僕は言う。
「兄者は細かいのお」
腫れた頬を庇いながら、コサブロウさんが言った。
一通り片付いた後、戻ってきたアパートの家主である女楽師は、床に血痕があると言って怒りだした。
これは金盾の血じゃない。
コサブロウさんの鼻血で、殴ったのは兄のコイチロウさんで同意の上だと説明したが、女楽師は納得しなかった。
当然である。
僕達はきっちり掃除をして帰るはめになった。
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