第136話 追放劇・プランC・ダッシュ

「クリフさん、何があったのですか?」

ユーフェミアさんが聞いた。


「僕の意識と金盾の意識が、魅了スキルを介して繋がりました」


ユーフェミアさんは絶句した。

確かに、かなりレアな体験をしたと思う。


「それで金盾の意識内を探査したんですが、巨大な空白がありました。

ユーフェミアさんの言ってた通り、『信仰』を失ったせいではないかと」

僕は言う。


肝心の『信仰』がどういうものか、イマイチ僕には分からないんだけどな!



「伝説の精神メンタル侵入ハッキング魔術か!?」

シオドアが興奮したように言った。


そういう魔術を使ったわけではない。

ただ、状況としてはそうかもしれない。



「やば!……だいたいそれ、違法行為と、ちゃうか?」

ケンタウルス族のシーラさんは、顔をしかめながら言った。

声もちょっと怖い。


「それはその、そういう意図があったわけじゃないんで」

僕はタジタジになった。


女性にこういう態度をとられると、僕は弱いのだ。


シーラさんは僕を胡散臭げに見てる。

僕はちょっと落ち込んだ。



「何はともあれ、無事で良かった。

心配したぞ。

クリフ殿と金盾は、いきなり硬直して、しばらく動かなかったのだ」

コイチロウさんが言う。


コジロウさんとコサブロウさんもうなずいた。


なお、コサブロウさんは、頬に大きな青黒いアザができいて、鼻血も少し出ている。

さっきコイチロウさんに殴られた所だろうな……。



リザードマン族のソーソーさんは、コイチロウさんに同意するように、キュルキュルと喉の鱗を鳴らした。


良かった。

ソーソーさんには、嫌われた訳じゃないらしい。

僕はホッとした。

あと、ステキな声ですね!




金盾は憔悴していた。


「……ロイメ人に信仰の何たるかが分かるものか……」

金盾は力なく言った。


一応僕だって、ダンジョンに潜る前には、迷宮の神ラブリュストルの祠へ必ずお参りするし、天候の神カザルスの神殿に祈ることだってあるんだぞ。


とは言え、金盾おまえや銀弓の気持ちが分かるかと言うと、分からないけどな。



「やれやれ。

魅了スキルなんて持つものじゃないね。

精神侵入メンタルハッキングされるリスクがあるなんて」

シオドアは言った。


これは僕も同意である。

精神侵入メンタルハッキングは、するのはともかく、されるのは嫌である。



「あー金盾、想像するに、ロイメはお主に合っておらぬのではないか?

相性の合わぬ女のようなものだ。

相性の合わぬ女に固執しても、時間の無駄だぞ。

世界は広いのだ」

コジロウさんがちょっと同情するように言った。



「金盾、なぜ君がロイメに来たのか分かったよ。

ロイメは王がいない。

そこに王になれる可能性を感じたんだろう。

ロイメは豊かな都市国家だが、王女のたぐいはいないよ、多分ね。

君が魅了スキルを使って、神託を達成することはできないよ」

シオドアは冷酷に追い討ちをかける。


ちょっと金盾が気の毒になってきた。


金盾はブツブツとなにごとか呟いている。



その時、不意に、、強いマナの気配を感じた。


「黄金の目を持つ男よ……」

しわがれた声、ユーフェミアさんだ。


ユーフェミアさん、このタイミングでいきなりプランCですか?



プランCは、にせの神託で金盾アルペロを動かす作戦だ。


神託が本物か偽物か判別するのは難しい。

マナの気配である程度は分かるが、これも誤魔化す方法はある。


そして、ロイメでは非公式の神託は野放しである。

法のグレイゾーンをつく作戦である。


台詞セリフもそれらしく作った。

なおプランCがユーフェミアさんが担当なのは、ユーフェミアさんが一番偽神託にせしんたくの演技がうまかったからである。


ユーフェミアさんも一応魔術師だ。

マナの気配の演出も完璧である。


プランCの偽神託にせしんたくなしでも金盾は出ていきそうだが、とどめを刺しておく作戦だろう。



「……なぜそのような虚飾の町におる……」


予定とはセリフが少し違う。

予定では呪われた町だった。

こっちの方が良い。さすがユーフェミアさん。


マナの気配がさらに強くなる。

アレ?


「……こだわりを捨て、銀の相方の手を取り……」


アレレ、いや、これ。


「……わが元に戻り……試練の門をくぐれ……」


それを言い終えると、ユーフェミアさんはバタンと倒れる。


「ユーフェミアさん!」


側にいた僕は、ユーフェミアさんを抱えるのは無理だったが、なんとか下敷きになることに成功した。


ユーフェミアさんの息もマナの流れも正常である。

僕はホッとした。



「わがぬしよ」

金盾の声が後ろから聞こえた。


振り向くと、金盾は両膝でひざまづ滂沱ぼうだの涙を流していた。


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