第131話 マデリンの言い分(ロイメではロイメ人のようにせよ)

しばらく泣いた後、マデリンさんは関を切ったように話し出した。


「ねぇ、結婚の女神ヴァーラーって、なぜすぐルールを増やしたがるの?

結婚してる男には手を出すな、分かった。

彼女持ちの男には手を出すな、えぇと彼女がいるかいないかどう調べれば良いの?

本人が彼女いないって言ったのに?

他にも釣り合う相手と結婚しろとか、立場をわきまえろとか、夫が浮気しても耐えろとか、変なルールばかり。

セイレーン族のマデリンにはわからない」

マデリンさんは言った。


マデリンさんはセイレーン族である。

セイレーン族は女だけの種族で、結婚と言う概念がない種族だ。

少なくとも、僕が読んだ本にはそう書いてあった。

セイレーン族が結婚の女神ヴァーラーの教えを理解できないのは当然だ。



「そうは言いますが、結婚の女神ヴァーラーの教えは社会を維持するための教えでもあるんです。

人間族は巨大な社会を作る種族です。

社会維持のコストとリスクの管理が……」

ユーフェミアさんが説得に加わった。


ユーフェミアさん、ダメだよその説得。

僕がいつも失敗するパターンだ。


「あー、ユーフェミアちゃん、また難しいこと言ってるぅ。

マデリンわかんない!!」


僕はこの時、ユーフェミアさんに今までにない親近感を感じた。



「だいたいマデリンはちゃんと結婚の女神ヴァーラーの教えにも敬意を払っているもん。

郷に入っロイメではては郷にロイメ人の従ってるようにしてるもん」

マデリンさんは主張した。


「本当デスかァ?」

セリアさんが疑わしげに言う。


結婚の女神ヴァーラー様の、1人の女性を不幸にしたら100人の女性を幸福にしなさいって教えをちゃんと実践してるもん。

女の子の治療とかいろいろやってるしぃ」



「……ロイメの結婚の女神ヴァーラーに本当にそう言う教えがあるのか?」

コイチロウさんが僕にヒソヒソ声で聞いてきた。


「まあ……あります」

僕は答える。


実は、ロイメの結婚の女神ヴァーラー神殿は、本当にそう言っている。

ロイメの結婚の女神ヴァーラー神殿はそうやって歓楽街に来た男達から、喜捨を絞り取ってる。


この教えに影で文句を言うものはいる。

ただ、結婚の女神ヴァーラー神殿は、孤児院や女性向けの救貧院なども経営しており、表向き問題になってはいない。



「一度は譲ったもん」


「本当ーに、譲ったんデスかァ?

恋の無差別テロリストと呼ばれていた店主マデリンガァ?」

セリアさんがさらに言う。


「むかーし、レイラちゃんが、こんなめんどくさい町出て行こうって行った時、譲ったもん」


そう言えば、マデリンさんとレイラさんは、しばらくロイメを出てたんだよな。

いろいろ気を使ったんだろう。

マデリンさんの周りが。



「そう言えば、お二人はなぜ戻って来たんですか?」

なんとなく僕は聞いてみる。

ほとぼりが冷めたから?


「それはねぇ、ジェシカちゃんが、手紙で書いてきたの。

薬作りに協力して欲しい。

ついでにロイメはイケメンいっぱいで、すごく面白くなってるって!」

マデリンさんは答えた。


ちょっと待て。

今回の原因の1つはジェシカ・ダッカーじゃねえか。

あの婆あ!



「今度は、冒険者のやり方にイチャモンつけて来たのは向こうだもん。

マデリン譲れない。

これ以上訳のわからないルールが増えるのは困るの!」


その後のマデリンさんは、僕達が何を言っても、だった。





僕達は『青き階段』の会議室に戻ってきて、おやつタイムとなった。

僕はため息をついた。

山盛りの芋菓子に手を伸ばす気になれない。



因縁の糸は切れそうにない。

マデリンさん、銀弓、とある女性議員、それぞれ自分の領分が犯されたと思っている。

そして、それは事実でもある。


マデリンさんは、銀弓のバックにとある女性議員がいることを知っている。

そして、今回は譲れないと思っている。


銀弓は自分のアイディンティティーである神託にまつわることなので、当然譲れない。


とある女性議員は夫を取られたと思っている。



「古い因縁と言うのは厄介ですね」

僕は言った。


とある女性議員は、多分正妻の権利を蔑ろにされたと思っているんだと思います。

ただ、マデリンさんに請求した賠償金を払われてしまいました。

これ以上、ロイメの法で追い込むことはできません」

ユーフェミアさんが言った。


マデリンさんじゃ、法じゃなくて、暴力で追い込むのも難しいぞ。



とある女性議員を動かすのは難しいのか?」

コイチロウさんが言った。


「説得が可能ならジェシカ・ダッカーがとっくにやっているでしょう。

政治的に追い込むのは、なかなか大変です。

ジェシカ・ダッカーと組んで、長年ロイメの市政改革を行われた方で、功績も大きいのです」

ユーフェミアさんが言った。



「やっぱり男がいけないと思うわ」

メリアンがおやつの芋菓子を食べながら言った。


「浮気したいのは分かる。男ってそう言うもんなんでしょ?

でも、相手をもう少し選びなさいよ。

マデリンさんが手に負えない女なのは分かるでしょ?」



ゴホッゴホッ。コサブロウさんがむせた。芋菓子を喉につまらせたか?

コイチロウさんが気を付けろ、と注意する。



「銀弓の決闘の仕方はイヤ。

女であることを利用してる気がする」

キンバリーがポツリと言った。


そうかもしれない。


仮に男の冒険者がマデリンさんに決闘を挑んで、負けて、それを恥じて自殺して、誰が同情してくれるだろうか?

誰もしない。全然ナイ。

数多の女神の名にかけて誰もいない。


僕としては、不平等だと言いたいけどな。

男性差別反対!



銀弓もとある女性議員も、マデリンさんの強さに敬意を払っていない。

決闘だと言うのに。

特に冒険者である銀弓は問題だ。


ロイメの冒険者は、己が正義のために命をかけて戦う権利がある。

これは、相手の強さに敬意を払う意味でもある。


その意味でも銀弓は、郷に入ロイメでって郷ロイメ人のに従っていように振る舞ってない。

ユーフェミアさん風に言うとド田舎者カッペだ。



「放っておいても、シオドアと冒険者ギルドが力業で解決するかもしれません。

でもそれだと僕達は、本当にいいとこナシです。

ここは、シオドアをギャフンと言わせたいわけです」

僕は言った。


「同意するぞ、クリフ殿」

コサブロウさんが言った。


「解決するとなると、過去の因縁より、現在の問題でしょう。

金盾を説得するのが一番楽だと思います」

僕は続ける。


「良いと思うぞ」

コイチロウさんが言った。

他のみんなも頷く。



「大義名分を探して、グダグダ理屈をつける必要はないわ。

二股かけた挙げ句、片方選ぶ気がない男が悪いのよ!

ママならそう言うわ」

メリアンは言った。


そうだよな。金盾が悪いんだよ。

僕はかなり、スッキリする。

そして気が付いた。


ちょっと待て。

さっきまであった山盛りの芋菓子、どこに消えたんだよ!

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