第124話 ヴァーラー女神神殿の面会

ろくでもない陰謀である。


この陰謀について『三槍の誓い』とユーフェミアさんで議論して得た結論である。

「誰も幸せにならない」とは、キンバリーの言だ。

僕もその通りだと思う。



「問題は、金盾がどこにいるかだな」

コイチロウさんが言った。


それなんだけど。


「『輝ける闇』の連中は、金盾がどこにいるか見当がついているんじゃないかと思うんです」

僕は言った。


「具体的な場所はともかく、私達が持ってない情報をたくさん知っていることは間違いないですね」

ユーフェミアさんが言った。


「例えばどのような?」

コイチロウさんが聞く。


「住んでる場所を知っているのは当然です。

他には、親しくしている女性とか、懇意にしている娼館とかも知っているかもしれません」

ユーフェミアさんは答える。


「ユーフェミアさんは、『青き階段』の冒険者達のそのような情報を集めているのか?」

コサブロウさんが言った。


ユーフェミアさんはニッコリ笑って答えなかった。

あれは……、いろいろ知っているんだろうな。



「多分『輝ける闇』は金盾の居場所を見つけると思います」

僕は言う。


「それでは我らの負けではないか」

コサブロウさんが不満をもらした。


「今回はどうしても『輝ける闇』に勝たなきゃいけない訳ではないと思っています」


「サボタージュは許しまセンヨ。

うちの店主マデリンじゃないんデスから」

セリアさんがプンプンしてる。

いろいろトラウマがあるんだろう。


「サボりはしません。

僕の予想ですが、近い内に『輝ける闇』は、金盾に会って、普通に説得するでしょう。

金をちらつかせ、必要なら多少脅かすかもしれません。

それで成功すればそれで良い。

ただ、『輝ける闇』が成功するとは限らない。

彼らが失敗する場合に僕達は動きます」


「つまり?」


「金盾をより確実に説得するために、材料を探しましょう。

銀弓と話をしてみたい。マデリンさんとももう一度話をしたい」


「ふむ。我らは後詰めか。

説得では言葉を尽くす。基本だな」

コイチロウさんが言う。


「分かりましタ。銀弓となんとか面会できないか、先生に聞いてみマス」



ジェシカ・ダッカーの仲介と寄進で、僕達は結婚の女神ヴァーラー神殿に匿われている銀弓と面会できることになった。

ただし、神官の立ち合いのもと、4人までとの条件がついた。

いくら寄進したかは聞かない、考えない。

ジェシカ・ダッカーは大金持ちなのだから!


4人は僕とコイチロウさんユーフェミアさん、そしてキンバリーである。

普段無口なキンバリーが、「銀弓に聞いてみたい事がある」と言い出したのだ。

そして、この人選となった。



面会場となったのは応接用と思われる部屋だ。

結婚の女神ヴァーラー神殿からは3人のが同席した。

うち2人は帯剣している。

こちらは全員丸腰だ。


ソファーに腰かけた銀弓は、相変わらず堂々とした態度だった。

この神経の太さは見習いたい。



面会の場で自己紹介を終えた後、いきなり議論の口火を切ったのはキンバリーだった。


「なぜ、メリアンさん、いえメリアンを冒険者社会から追い出そうとしたの?」


キンバリー、聞きたいことってそっちかあ!


……まあ、いいだろう。

銀弓の考え方を知る手がかりにはなる。



「まず、我が運命の君、金盾アルペロに近づいたからだ。

私と金盾アルペロは女神の神託により結びついている。

それを切り離すことは許されぬ」

銀弓は傲慢かつ悠然と答える。


「メリアンは金盾に近づかれて、迷惑だったと言ってました!」

キンバリーは言った。


「あの娘の言うことを信用し過ぎるな。

我が君アルペロやシオドアの周りを始終うろちょろしていたぞ」


そう言えば、ボンキュッボンのトレイシーもそんな事を言っていた。

僕を訪ねて来たぐらいだし、メリアンはかなり追いつめられていたのだろう。

それで比較的親切にしてくれた男性陣を頼ったんだな。



「でも、あなたはメリアンが『冒険の唄』を出た後も悪口を言っていた。

メリアンさんを冒険者社会そのものから追い出そうとした。

それはなぜ?」

キンバリーはさらに追及した。


銀弓はどう答えるんだろう?

僕は唾を飲み込んだ。


「女神がそれを望んだからだ」


はあ……。そう言う考え方になるんですか。


「望んだのは女神じゃない。望んだのは銀弓ダイナ、あなた自身」

キンバリーは断言した。



「キンバリーと言ったな。

なぜ、メリアンなぞ気にする?

メリアンが冒険者失格なのは、女神の意思ぞ」


「メリアンは友達だから。

でももっと重要なことがある。

中級治癒術を使えるメリアンが冒険者失格なら、魔術が使えない私はもっと冒険者失格。

それはイヤ。私は冒険者でいたいの」


いやキンバリー、それはないから。

僕が断言する。


「キンバリーよ、自己を卑下する必要はない。

そなたの評判は悪くない。

メリアンとは大違いだ」


、銀弓の意見に同意する。



「そう言う問題じゃない。

気に入らない奴は追い出す習慣がついたら、いずれ二番目に気にくわない奴や三番目に気にくわない奴も追い出される。

順番がいずれ回って来る。

私、孤児院出身でいろいろ見たから知っている。

銀弓ダイナ、あなたは間違っている!」


「私は女神から神託を得た身ぞ。我が意の中に女神はいる!」

銀弓は言い返した。

上半身を乗りだし、声は荒い。


よくやった。キンバリー。すごいぞ。

以前僕と議論した時、銀弓が動揺したのは演技だった。

……でも、今回は演技じゃない。

キンバリーの言葉は銀弓の痛い所を突いたのだ。

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