第123話 閑話 輝ける闇と陰謀と因縁

「なんか無茶な陰謀よねぇ。うまくいくのかしら?」

『輝ける闇』スカウトであるトレイシーは言った。


「うまく行くかはともかく、そう言う計画があると言うことなんで」

『緑の仲間』からついてきたスザナが言う。

きれいな赤毛の持ち主だが、『赤毛の』ネリーに競べると、大人しい色だ。


「私だったらこんな計画は立てないわね。

だいたいマデリンさんに治癒術使われたら、死ぬに死ねなそうじゃない?」

死霊属性魔術師ネクロマンサーのネリーはまっすぐな赤い髪をいじりながら言った。



「すべて計画通りと言うわけには行かないだろうな。

でも、ダークな手を使うなら、いろいろやりようはある」

『輝ける闇』の黒一点、リーダーのシオドアが言う。


「じゃあ、どうダークにやるの?」

ネリーは言う。

『輝ける闇』このパーティーでシオドアがこういう風に話を始めた時、つっこむのはネリーの役割なのだ。



「銀弓は決闘会場で死ななくてもいいんだよ。

決闘で負けたことを恥じての自決もありだ」


「あの女が自殺する訳ないじゃない」

トレイシーが言う。


結婚の女神ヴァーラー神殿が、表向き自殺と言うことにして殺しちゃうのね?」

ネリーは言った。


「御名答。

その後、ロイメの新聞にお涙頂戴の記事を大々的に載せる。

悲劇のヒロインの出来上がりだ」



冒険者通信タブロイド紙のゴドフリーが言うこときくかしら?

あの男、他人を利用するのは好きだけど、他人に利用されるのは嫌いだと思うわ」

ネリーは思い付いたことを言ってみた。


「じゃあ、ゴドフリーも殺してしまおう。

ごちゃごちゃ言うなら、金盾もだ」


「何人殺すんだよ。これは駄目な陰謀だよ。

うまくいくわけないね」

女トロール族のヘンニが言う。

ハーフトロール族のスザナと比べても、純粋なトロール族のヘンニは縦横大きい。



「僕も駄目な陰謀だと思うよ。

でも、この計画を立てた人間が賢明とは限らない。

金と権力を持った人間が、駄目な計画を立てる。

これはあり得ることだと思わないか?」


「そのとある女性議員ってやつ?」

ネリーは言う。


「そうだ」


「どうしてマデリンさんをそこまで敵視するのよ?

色恋が原因だと言ってたけど」

トレイシーが聞く。


「僕が生まれる前の話だからね。それほど詳しい訳じゃないよ」

シオドアはそう前置きすると話し始めた。



「平たく言えば、とある女性議員の夫とマデリンさんが浮気したんだ」


「むっちゃ予想できるパターンだよね。

決闘でも申し込んだの?」

トレイシーが言う。


とある女性議員は、結婚の女神の神殿ヴァーラーを通じて、莫大な慰謝料をマデリンさんに要求した」


「それ、悪手じゃない?」

ネリーが言う。


「その通りだよ。

マデリンさんは、レイラさんと組んで金を作った。

当時北の森にいた火竜ファイヤードラゴンの討伐部隊で危険な囮を勤めた。

さらにダンジョンに潜って、大きな魔石も取ってきた。

美しきドラゴン・スレイヤー2人組。

マデリンさんとレイラさんはロイメの女英雄ヒロインとなった」



「夫の浮気相手が女英雄ヒロインになったんじゃ不満だと思うけど、手に入れた慰謝料はどうしたのよ?」

トレイシーが聞く。


「全部かどうかは知らないけど、彼女は、結婚の女神ヴァーラー神殿に寄付したと聞いたよ」

シオドアは答えた。


「馬鹿やったとは思うけど、賭け出て勝負に負けたのは仕方ないわね。

その後、どうなったの?」

ネリーは聞く。


「しばらくすると、マデリンさんとレイラさんは旅に出てしまった。

数年後、とある女性議員の浮気者の夫が死んだ。

彼女は家の女当主となった」



「なんか悪い奴らが近づいて来そう」

トレイシーが言う。


「もちろん近づいて来たさ。それも大悪党だ。

名をジェシカ・ダッカーと言う」


「ちょっと!」

『緑の仲間』のスザナが怒りの声をあげ、ヘンニがなだめる。



「ジェシカ・ダッカーは、とある女性議員に取り入ることに成功した。

とある女性議員は、ジェシカ・ダッカーの操り人形となった。

そして、ロイメ市政に大きく関わり出した」


「シオドア、あなたの実家のストーレイ家は何をしていたのよ」

ネリーは聞く。


「当時の当主は、僕の祖父だけどね、とある女性議員なんてどうとでもなると思っていたらしい。

美人ではあったが、たいして賢そうにも見えなかったし。

そして、気がついたら、ロイメ市政の主導権を握られていたわけだ」

シオドアはにこやかに言った。


「それでロイメ市政はどうなったのよ?」

ネリーは聞く。

何となく想像はできるけど、一応聞いておく。


「市政改革は成功し、ジェシカ・ダッカーのやっていたエリクサー生産は新たな産業となり、今のロイメの発展に繋がっていく。

とある女性議員の家も財産を増やした。

かなり後だけど、マデリンさんとレイラさんも帰って来た」


「めでたしめでたし」

ヘンニがまとめた。



火竜ファイヤードラゴンは討伐された。

結婚の女神ヴァーラーは莫大な寄付金を得た。

ジェシカ・ダッカーは自分の野心を実現した。

ロイメは豊かになった。

すごーい。皆幸せになったわね。

その浮気男、早死にも含めて、いい仕事をしたんじゃない?」

ネリーは言う。



「僕も含めて、ロイメの市民は大方そう思っているよ。

ただ、確実にそう思ってない人間がロイメに1人だけいるさ」


「それがとある女性議員ってわけね?」

ネリーは言った。


「そうだ。この陰謀が最後まで成功する可能性は低い。

でも、彼女の目的、マデリンさん追放までならば、成功する可能性は十分にある。

そして、結婚の女神神殿ヴァーラーの一派、おそらく王国とも繋がっている連中だ、の狙いはロイメの市政への介入の糸口をつくることだ。

これも成功する可能性はある」



「なんだかなぁ。とある女性議員も自分の旦那とちゃんと話し合えば良かったと思うんだけど」

トレイシーが言う。


結婚の女神ヴァーラーは、家庭に波風を立てるのを嫌うわ。

彼女は彼女なりに女神の教え通りにやったのよ」

ネリーは答える。


結婚の女神ヴァーラーはろくな教えじゃないよね」

トレイシーが言う。


「そうね。ただ、大伯母が言ってたけど、結婚の女神ヴァーラーの教えは厳しい教えで長い道なのよ」

ネリーは言った。


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