第120話 事件は会議室で起きている

ジェシカ・ダッカーは、コの字型の真ん中に座った。

視線は『三槍の誓い』の方に向いている。


ハイと、僕は思わず返事をしそうになったが、……視線は微妙に僕からずれてる。

見ているのはメリアン?


「言っておくけどわたし、、家には絶対帰らないから!」

メリアンはいきなり椅子を蹴って立ち上がると、言った。



「メリアンとジェシカ殿は知り合いか?」

コイチロウさんが尋ねた。


「もちろん知っているよ。

メリアンは錬金術士ギルドの副ギルドマスターの娘だからね」

ジェシカ・ダッカーは、少ししわがれた声で言った。


はい?

僕は知らなかった。初耳だ。

錬金術士ギルドの副ギルド・マスターなら、ジェシカ・ダッカーの部下だろうが、かなりの立場である。


向かいの『輝ける闇』の連中も知らなかったようだ。

動揺が見える。


、の関係よ。

母が結婚した相手が副ギルドマスターになっただけよ。

私は連れ子で血は繋がってないの。

だいたい母と私は関係ないし!

ともかく家には帰らないから!」

メリアンは言った。


「静かにおし、メリアン。

今回は別件だよ。

まあ、家に帰った方が良いと私は思うけどね」



ジェシカ・ダッカーは、今度は『輝ける闇』の方を見た。


「『冒険の唄』からは、これで全員かい?」


「旦那さんは忙しいし、女将さんは体調を崩していてね。

僕が代理だ」

シオドアは言った。



「承知した。これで全員のようだね。

さて今、ロイメで注目を集めている、銀弓ダイナとマデリンの決闘についてだ。

冒険者同士の決闘に、結婚の女神ヴァーラー愛の女神アプスト、二つの神殿が肩入れする異常事態になっている。

このままだと非常に不幸な結末を招く可能性がある。

私としてはそれを防ぎたい。

そのために皆を招いた」



「疑問なんだが、なぜ銀弓と結婚の神ヴァーラー神殿はここまで結びついたんだ?」

シオドアが当然の疑問を口にした。


それなんだけど、……僕はきっかけを知ってるような気がするんだよね……。



「結びつけたのはあたしよ。

大失敗だわ。

銀弓ダイナにとある女性議員を紹介しちゃったのよ」

レイラさんがむくれながら言った。


「また何故なぜそんなことを?」


「銀弓ととある女性議員はヴァーラー信徒でも全然タイプが違うし、ぜっったい馬が合わないと思ったのよ。

お互いに嫌な面を見て、いやーな気分になったら、いい気味だって思ったのよ。

……あの時は。

まさか意気投合するなんて!」

レイラさんは吐き捨てるように言った。


相当悔しいと言うか、後悔してるようだ。


「起こってしまったことは仕方ない。

私もその女性議員とは話をしたよ。

残念ながら、説得できなかった。

彼女と銀弓ダイナは、マデリンへの敵意で結び付いてるようだ。

結婚の女神ヴァーラー神殿と銀弓ダイナの間を切るのはなかなか難しい」

ジェシカ・ダッカーは言った。


「本当にそうですかね?」

シオドアが発言する。


「ストーレイ家が某女性議員かのじょを説得してくれるなら、是非頼みたいね」

ジェシカ・ダッカーはシオドアの方にジロリと視線を移した。

机の上に置いたしわ深い手には、大きな宝石が光る。


「我が家と某女性議員かのじょは、仲があまり良くないので、ちょっと。

でも方法はいろいろあるでしょう?

要は某女性議員かのじょを排除してしまえば良いのですよ」

シオドアはのうのうと続ける。



「シオドア!減らず口は止めなさい!」

ユーフェミアさんが声を荒げた。


「こんな軽はずみな口と思考の持ち主がストーレイ家の跡取りとは……」

ジェシカ・ダッカーも溜め息をつく。


「僕がストーレイ家を継ぐとは限りませんよ。

それこそ向かいにいる叔母上かもしれない。

でも、発言は取り消します。

決闘までに某女性議員かのじょを排除するのは、簡単ではなさそうです」

シオドアは発言を撤回した。


僕の隣でユーフェミアさんは、家を継ぐとか冗談じゃない、と小声で呟いていた。



ここで僕は手をあげる。

「失礼します。

その女性議員は、なぜマデリンさんを敵視するんです?」


「マデリンがトラブルを起こすとしたら99%色恋絡みよ。これも同じ。

元は単なる色恋なのよ」

答えたのは、レイラさんだ。


レイラさんの機嫌はさらに悪化してるようだ。



「ふむ、ではマデリンさんを排除するとか?」

シオドアは懲りずに言った。


「頑張ってね、シオドア・ストーレイ。

マデリンに関しては、自業自得だと思っているし、敵討ちとか考えてないから安心して」

レイラさんは言った。


「レイラさんは、既にマデリンさんを説得しようとして、大立ち回りをやっているんです」

僕は付け加えておいた。


「コホン。自重しますよ」

シオドアはレイラさんと僕を見た後、言った。


僕もそれが良いと思うよ。



「では、銀弓ダイナを説得するのはどうでしょう?」

ユーフェミアさんが提案した。


「私は結婚の女神ヴァーラー神殿にいる銀弓ダイナと会い、説得は試みた。

聞く耳を持たなかったよ」

ジェシカ・ダッカーが答える。


「失礼ですが、どのように説得されたのでしょう?」

ユーフェミアさんが踏み込んだ。


「マデリンの強さを説明した。

その上で、決闘のルールを変えることを提案した。

『命をかけて』なんて今時流行らないだろう」

ジェシカ・ダッカーは言った。


ついこの間、コジロウさんが『命をかけて』のルールで決闘をやったな。

僕は頭の片隅で考える。



「ジェシカ殿、ルールを変えたぐらいでマデリン殿に勝てるものなのか?」

コジロウさんが発言した。


「勝てるさ。

決闘の種目なぞなんでも良いのだ。

遠矢の勝負でも挑めば良いのではないか?

マデリンは割と適当かつ気楽に決闘を受ける」


確かに、遠矢の勝負なら、銀弓はマデリンさんに勝てる気がする。

でも、銀弓は性格的にそれで納得できるタイプなのだろうか?



「その言い方では説得は難しいだろうね。

銀弓はムキになるタイプだよ」

『輝ける闇』の女トロール族のヘンニが言った。



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