第121話 【悲報?】極貧時代の『緑の仲間』、今より強かった模様

「では銀弓と同じクラン『冒険の唄』にいた面々に聞きたい。

銀弓ダイナは何を考えている?

なぜ負ける決闘をしようとする?

そして改めて聞くが、『輝ける闇』は銀弓ダイナを説得できる可能性はあるか?

説得に金が必要なら、ある程度出す用意はある」

ジェシカ・ダッカーは言った。


これは、『輝ける闇』でも女性陣に向けた言葉だ。


答えたのは赤毛のネリーだった。

「説得は難しいと思います。

女将さんは説得しようとしていましたが、私は無理ではないかと思っていました」



「失礼だが、ジェシカ殿。

話を聞く限り、銀弓ダイナと言う女性は金では動かないタイプに見えるのだ」

ここで、コイチロウさんが発言した。


「ではどうすれば良い?」

ジェシカ・ダッカーは聞き返した。


「言葉を尽くすしかあるまい。

そもそもジェシカ殿は、なぜこの決闘をこれほど嫌がるのだ?

たかが決闘ではないか」

コイチロウさんは言った。



「ロイメに生きる女性にとって不幸な出来事だからだよ」


「私は結婚と社会秩序の女神ヴァーラーの信徒だが、若い頃は愛の女神アプストに祈ったこともある。

決闘のせいで二柱の神が対立し、ロイメの女性達がどちらか一柱を選ばなければならないなら、それは不幸なことだ」

ジェシカ・ダッカーは言った。


すごくまともな意見に思える。


「銀弓は結婚の女神ヴァーラー至上主義だからね。

ロイメの複数の女神を信仰する文化は良くないと言ってたねぇ」

女トロール族のヘンニは深く嘆息するように言った。



銀弓ダイナがそう言う考えなら、ジェシカ・ダッカーが彼女を説得するのは難しいように思える。

もちろん、僕が説得することも難しい。

なお、ロイメの住民は2~3柱の神を信仰するのは普通である。

そして、そのうちの1柱はたいていラブリュストルなのだ。



「銀弓と金盾はどういう関係に見えた?」

ここで、ジェシカ・ダッカーは少し話題を変えた。


「銀弓は金盾アルペロを運命の方と言ってましたが、金盾は適当にあしらって遊び歩いてました」

赤毛のネリーが答える。


「私と話をした時、銀弓は『金盾は私の運命の相手である』とヴァーラー神殿から神託を受けたと言っていた。

それは本当か?」

ジェシカ・ダッカーが続けて聞く。


「それは初耳ですが……」

ネリーは口ごもる。


「あー、こりゃ説得は無理だね」

なーに言っても無駄じゃん」

女トロール族のヘンニと、ボンキュッボンのトレイシーが同時に発言する。


「コホン。それが本当なら、説得は無理だと思います。

銀弓は神託に付いて嘘はつかないでしょう。

そして、銀弓にとって神託は絶対でしょう」

赤毛のネリーは言った。



ジェシカ・ダッカーは、指輪をした、しわ深い手を顔の前で組んだ。


「なら、残る方法は1つしかない。

金盾アルペロを動かす」


「どのような手段をお考えですか?」

ユーフェミアさんが言った。


「むろん説得してロイメから出ていってもらう。

殺すのはナシだ。

金盾が死ぬと、いよいよ銀弓に手がつけられなくなる。

交渉の道具としての金は用意しよう。

どのみち金盾にとっても、もはやロイメは居心地の良い場所ではないはずだ」

ジェシカ・ダッカーは言った。


理屈は通っている。



レイラさんが突然立ち上がった。


「あたしは今回はここで失礼させてもらうわ。

責任を感じないわけじゃないけど、あたしが関わって良くなるイメージが持てない」


「承知したよ。ここでのことは内密に頼む」


レイラさんはわかったと言い、部屋から出ていった。




「ジェシカ殿、質問がある」

ここで、コサブロウさんが発言した。


「なんだ?」


「あなた自身についてだ。金、金と言うが、金がなければあなたはどう戦うのだ?」

コサブロウさんは言った。って、それ言いますか!


「私など金がなければ、少し治癒術が使える老婆に過ぎないよ。

しかし、そうだね、若い頃の話をしよう」


そう言うとジェシカ・ダッカーは話しはじめた。


「二十代の頃、私はロイメにやってきた。

私の研究は薬草の効率の良い栽培。そのためにロイメが最適だと思ったからだ。

研究のために私は第五層まで潜りたかった。手に入れたい薬草と肥料があったのだ。

他のパーティーに入れてもらったりもしたが、みな魔石ハントに夢中で、思ったように第五層で動けなかった」


「第五層の薬草の季節は終わろうとしている。

私は焦った。今のチャンスを逃せば来年だ。

そんな訳で、私はロイメの有力パーティーに片っ端から声をかけていた。

出世払いで、私のパーティー『緑の仲間』に入るか、第五層の案内人をやってほしいと頼んだのだ」


「当然ながら、結果は芳しくなかった。

そんな時に面白そうだと言った者がいた。

レイラとマデリンだ」


「では、ジェシカ殿とレイラ殿とマデリン殿の3人でダンジョンに潜ったのか?」

コサブロウさんが言った。


「いや。レイラが荷物持ちポーターが必要だといってね。

そこら辺を歩いていた若いトロール族の男に決闘を吹っ掛けて、無理やりパーティーに引きずり込んだ。だから4人だ」


なんとも気の毒なトロール族の傭兵だ。

レイラさんにいきなり喧嘩を吹っ掛けられた挙げ句、パシリ扱いされるなんて。

自分より強い者に従うのが、トロール族の宿命とは言え!



「何しろ金はろくにない。

よって物資がない。

さらに時間もない。

仕方がないから、治癒術を使ったり、ダンジョンで魔物モンスターを狩って魔石を手に入れたりして、冒険者と物々交換で物資を手に入れながら、潜った。

若いからこそできたことだ。最早できない」


いや、それ、若くてもできないから。


しかし、若き日のジェシカ・ダッカーと、レイラさんとマデリンさんとトロール族の傭兵のパーティー。


先生センセ、そのパーティー、今のうちらより強いんちゃうん?」

現『緑の仲間』スカウト、ケンタウルス族のシーラさんが言った。


「そうだね。私も初代『緑の仲間』が1番強かったんじゃないかと思うことはあるよ」

ジェシカ・ダッカーは答える。


「女3人に男1人。

ハーレム・パーティーじゃないか!素晴らしい!」

シオドアの言葉は無視された。



「ジェシカ・ダッカー殿、言葉で説き、武を持って立つ。あなたの行い、納得した」

コサブロウさんが言った。


「我々はロイメには不案内ゆえ役に立つかどうかは分からないが、協力しよう」

コイチロウさんも言った。


最後にコジロウさんが頷いた。

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