第119話 緑の仲間 続き

「質問はだいたい終わったか?」

ここでホルヘさんが発言した。


「今回の決闘騒ぎは、ロイメ市政にとっても問題だろう。

幸いジェシカ・ダッカーは、結婚の女神ヴァーラーの信徒で、結婚の女神ヴァーラー神殿に多額の寄進をしている。

一方で彼女は、薬屋マデリンさんとも交流がある。

この決闘の立会人としては、彼女以上の人材はいないだろう。

『青き階段』としても、この決闘が問題なく終わることを望んでいる。

ジェシカ・ダッカーの依頼を受けてもらいたい」



「我々三兄弟はここでは異邦人だ。

ただ、できる範囲では協力する意思はある」

コイチロウさんが言った。


「『三槍の誓い』として、依頼を受けたい気持ちはあります。

正式に受けるかどうかは、ジェシカ・デッカー本人に会って話を聞いてからです」

僕は答えた。



「とりあえずだが、礼を言っておくぞ」

僕達は、ホルヘ副クランマスターからお礼を前払いされてしまった。


そして。


「あー明日、ジェシカ・ダッカーに会いに行く時だが。

ユーフェミアさん、クランマスターのかわりに行ってくれ」

ホルヘさんは続けた。


「それは、ホルヘ副クランマスターが行くべきではありませんか?」

ユーフェミアさんが答える。


「俺はあの婆さん苦手なんだよ。

ユーフェミアさんは、以前ジェシカ・ダッカーを尊敬していると言ってたじゃないか」


「尊敬していることと、一緒に仕事がしたいかは、全然別のことです!」


「クランマスターは行かないし。……頼んだぞ!」




そんなわけで次の日、僕達『三槍の誓い』6人組は、錬金術士ギルドに行くことになった。

『青き階段』代表として、ユーフェミアさんも一緒である。



道すがら、コイチロウさんはユーフェミアさんに聞いた。


「エリクサーの大量生産と言うのは、他の土地、例えばアキツシマでもできるのだろうか?」

コイチロウさんが質問する。


「それは、ジェシカ・ダッカー様本人に聞いてみて下さい」

ユーフェミアさんが答える。


「ただ、ロイメ周辺はダンジョンから発生する地脈でマナが豊富な特殊な場所だ、とおっしゃってるのを聞いたことはあります」



指定された場所は、ロイメ北街にある錬金術士ギルド所有の石造りの建物だった。

魔動船で3駅ほど上り、少し歩いた所である。

付近には、冒険者ギルドの本部や、ロイメ市議会もある。

一等地だ。


石造りの建物のひんやりした廊下を通り抜け、案内されたのは会議室のような部屋だ。

床には絨毯が引かれている。机と椅子はしっかりして実用的な作りだ。



「お久しぶりデス。『三槍の誓い』の皆さん」

会議室で僕達を出迎えたのは、一緒にマデリン探索クエストをした、エルフの魔術師セリアさんである。


ふいに僕の中で点と点が繋がった。


「もしかして、セリアさんの言っていた先生って、ジェシカ・ダッカー?」


「その通りデス。私はジェシカ先生に頼まれて『マデリンのお店』で修行しているのデス」

セリアさんが答える。


「『緑の仲間』にエルフの女性魔術師がいると聞いたが、それもセリア殿か?」

コジロウさんが聞いた。


「ここには、エルフの女性魔術師は何人かいマス。

ただ現在、先生と一緒にダンジョンに潜っているエルフは私デスよ」


おおっ。これは、トビアスさんの言っていたエルフの女魔術師はセリアさんだな。



「あんたらがセリアの推薦した『三槍の誓い』なん?」


少しなまったハスキーな声がした。

10歳くらいの子供のような身長の女性である。

ケンタウルス族だろう。

なお、体型は小太りというか全体的に丸い。


年はいくつくらいなんだろう。

ケンタウルス族の年齢も分かりにくい。

あまり若くない気がするんだけど、……これ年聞いたら失礼なんだろうな。


「はい。セリアさんにはお世話になっています」

僕は答えた。


「皆、若いんやね。

こんなに若い奴らばかりで今回の仕事、大丈夫なんやろか?」

丸っこいケンタウルス族は言った。


「すると、あなたは我々よりも歳上なのか?」

コジロウさんが言う。


ケンタウルス族の女性は肩を揺すって笑った。


「なかなか言うやないか。

ウチはシーラ。歳は秘密や。

ジェシカ先生センセと一緒にダンジョンに潜ってるんやで」


彼女がトビアスさんの言っていた、ケンタウルス族の女スカウトだな。


僕達は、シーラさんに1人づつ自己紹介をし、席についた。

机はコの字型に配置されている。

僕達が座ったのは、コの字の片側だ。



「思ったより地味な建物ね」

「錬金術士ギルドの建物よ。必要以上に飾り立てる必要はないでしょう」

「やれやれ、ここは久しぶりだね」


廊下の方から、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。

そして、扉が開く。


「おや、ユーフェミア叔母上。

そしてクリフ・カストナーに『三槍の誓い』の面々じゃないか」

よく響くちょっとすかした声である。

割と最近聞いたんだよな。


黒髪に青灰色のタレ目イケメンことシオドア、赤毛のネリー、ボンキュッボンのトレイシー、そしてトロール族の小山のような大女の4人組。

ハーレムパーティー『輝ける闇』の面々だ。



「どうぞこちラへ」

セリアさんがコの字型の反対側へ案内する。

僕らと向かい合う形になった。



「シオドア、銀弓もあなたも『冒険の唄』の所属でしたね。

それから叔母上は余計です。『青き階段』のユーフェミアでお願いします」

ユーフェミアさんが釘を差す。



その時、もう一度扉が開いた。


最初に入ってきたのは、赤毛のトロール族の、いや多分トビアスさんの言っていたハーフ・トロール族の女性である。

彼女は以前第三層に冒険者ギルドの使者として来てくれた。

トロール族の特徴が薄いと思ったけど、ハーフ・トロールだったのか。

それでも、ナガヤ三兄弟と同じくらい身長がある。


次に入って来たのはジェシカ・ダッカー。

顔は知っているが、ここまで間近で見るのは初めてだ。

ジェシカ・ダッカーは髪は半分以上白い。昔は黒髪だったのかな?

顔には、しわが深く刻まれている。四角い顎。目は灰色だ。

体重はそこそこあるだろう。

人間の女性としては、ガッチリした体格だ。


若い頃でも所謂いわゆる美人ではなかっただろう。

でも、ロイメで彼女を容姿で評価する人はもはやいない。

そう言うポジションだ。



最後に入って来たのはレイラさん。

スゴく機嫌が悪そう。



リザードマン族に会えるかもと期待したが、現れなかった。


「リザードマン族のソーソーは寝てるよ。

ああなると、どうしようもなくてね」

ジェシカ・ダッカーが言った。


……そんなにキョロキョロしてましたか?


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