第118話 緑の仲間【秘密メモ 緑の仲間】

「どうも引き受けねばならぬ依頼のようだ」

コイチロウさんは言った。


「まあその、そう言うことだ」

ホルヘさんは認めた。


「だが、我々三兄弟は『緑の仲間』についても、ジェシカ・ダッカー殿についてもろくに知らない。

説明してもらえまいか?」

コイチロウさんが言った。


「どの程度の強者なのか知りたい所だな」

コジロウさんが言う。


「『緑の仲間』が冒険者番付で1位を取り続けている理由が知りたいぞ」

コサブロウさんも言った。


いやはや。もっともである。



「で、俺が呼ばれた訳ね」

説明役と呼ばれて、やって来たのはお馴染みトビアスさんだ。


「俺よりお前の方が説明が上手そうだ。

必要なら、俺も追加する」

ホルヘさん。


「『緑の仲間』についての説明を、『青き階段』から1500ゴールドで依頼します。

よろしくお願いします」

ユーフェミアさんが続ける。


「まずは……」


「どの程度の強さのパーティーなのだ?」

トビアスさんの言葉をコサブロウさんが遮った。



「まあ、いいだろう。

『緑の仲間』は巨大パーティーだ。

まずは、その中でもジェシカ・ダッカーを含む中枢パーティーについて説明しよう」


久々のトビアスさんの秘密ノートの公開だ。


「今のメンバーは5人。

ハーフ・トロールの女盾士、

リザードマンの盾兼片手剣士、

ケンタウルス族の女スカウトで、クロスボウ使い、

エルフの女魔術師、

そして、ジェシカ・ダッカー自身だ。

ちなみに、ジェシカ・ダッカーは治癒術師だ。上級治癒術も使う。

攻撃魔術なら、炎弾を使ったのも見たことがある。

本人は攻撃魔術は得意じゃないと言っていた」


攻撃魔術が苦手と言っても、初級攻撃魔術の炎弾をちゃんと飛ばせるなら、たいしたものだ。

僕が使うと……。


しかし、リザードマン族が所属しているのか。

セイレーン族ほどでもないが、リザードマン族も相当珍しい。



「女ばっかりだな」

コサブロウさんが言う。


「なるべく異なる種族の女性のみのパーティー、と言うのがあの婆さんのダンジョンに潜る時の方針らしい」


「……婆さんとは誰だ?」

コジロウさんが言う。


「コホン、婆さんじゃない。

ジェシカ・ダッカーだ!今のナシ!」


「失礼だが、ジェシカ殿は高齢の女性なのか?」

コイチロウさんが聞いた。


「……スマン。最初に言っておくべきだったな。

ジェシカ・ダッカーは、もういい歳の女冒険者だよ。

孫もいるらしい」

ホルヘさんが言った。



「あー、レイラ殿のように見かけは若いとかないのか?」

コサブロウさんが言った。


コサブロウさんは、ジェシカと言う名前に夢を見ていたらしい。


「人間族だぞ。

白髪だし、皺もたくさんある。

普通に年齢通りの見かけだな」

トビアスさんは答えた。


「……。」

コサブロウさんは沈黙した。



「リザードマン族の冒険者は、女なのか?男なのか?」

コイチロウさんが聞く。


「リザードマン族は、雌雄同体ですから、男でも女でもあることになります。

この場合、重要なのは扱いにくいリザードマン族を、パーティーに引き入れる統率力があると言うことだと思います」

僕は脇から言う。


「確かにそうだな」

コイチロウさんが答える。



「さて、いいか?

いよいよこの『緑の仲間』の俺の評価だ!」


待ってました!!



「まず、攻撃はB+としよう。

理由は『緑の仲間』は攻撃力重視のパーティーではないからだ。

ただし、攻撃力が必要な時は、6人目に入れるそうだ。


防御は、A-だ。

盾持ち2人は優秀だ。エルフの女魔術師は一応結界も張れるようだが、クリフのような専門家ではない。


情報はA-以上だな。

ケンタウルス族のスカウトは優秀だし、他のメンバーもスカウト技術は持っている。

ダンジョンの事前調査も徹底的に行う。


治癒はA。

ジェシカ・ダッカーが上級治癒術を使うし、エリクサーを大量に持っている。


輸送はA。

ダンジョン深層に潜る時は、ポーターをたくさん雇う。

『緑の仲間』のポーターは、報酬も待遇も良いから、良い冒険者が集まる。

かく言う俺も、ポーターとして何度か参加している。

ただし『デイジーちゃんと仲間達』のような俊足パーティーではない。


そして、資金はA+と言うかS。

これ以上言いようがない」



「これがロイメ最強のパーティーか……?」

コイチロウさんが言った。


「資金力が最も重要と言うことか?」

コジロウさんが言う。


「『緑の仲間』は、錬金術士ギルドのパーティーと言うことだが、俺は納得いかないぞ!」

コサブロウさんが言う。



「それはちょっと違う。

『緑の仲間』は錬金術士ギルドに付属している訳じゃない。

『緑の仲間』に、錬金術士ギルドが

トビアスさんが言う。


「それは……、もしかしてジェシカ・ダッカー殿が錬金術士ギルドを作ったと言う意味か?」

コイチロウさんが言った。


「御名答。

さて、錬金術士ギルドが何を作っているか知っているか?」

トビアスさんは質問した。


「その程度は我々も知っている。

エリクサーの類いだ。

ロイメのエリクサーは安くて品質が良い」

コジロウさんが答える。


「その通り。

つまり『緑の仲間』が集めているのは魔石じゃない。

エリクサーの原料になる薬草、そして薬草の種や特殊な肥料などだ。

『緑の仲間』と錬金術士ギルドがロイメのエリクサーの供給を安定させ、値段も安くした。

さらに、ロイメのエリクサーは周辺地域にも輸出され、ロイメに莫大な富をもたらしている。

これが『緑の仲間』の資金力の源だ」


ナガヤ三兄弟は沈黙した。



「とは言え『緑の仲間』は巨大パーティーだからな。

ほとんどのメンバーは、北の草原で薬草取りのシーズンだけ働く、薬草取りのオバチャンだよ」

トビアスさんは続ける。


「まあその、たくさんの働くオバチャンと言うのは……、それこそ馬鹿にできない勢力だな……」

コジロウさんが言った。



そうなのである。





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