第116話 女神達の対立

「何というか、たいへんな仕事だったの」

コサブロウさんが言った。


僕達は、マデリン探索クエストを無事クリアし、『青き階段』で休憩していた。


「セイレーン族と言うのは、なかなか変わっている種族だな」

コイチロウさんが言う。


「いやあ、実に柔らかかったぞ」

コジロウさんが言った。

ソウデスカ。


なお、キンバリーはニコニコだ。

レイラさんに褒められたのが嬉しかったらしい。

メリアンは、セリアさんとおしゃべりしている。


向こうでは、レイラさんとマデリンさんが大喧嘩をしていた。



「いい加減にしなさいよ、マデリン。

ここまで馬鹿馬鹿しい決闘は聞いたこともないわよ!」

レイラさんは言った。


「愛のための決闘だもん。

馬鹿馬鹿しくないもん」

マデリンさんは言い返す。


「金盾なんてどこがいいのよ。

悪趣味もいい加減にしなさいよ!

周り中が迷惑しているのよ」


「彼は素敵だもん。とってもセクシーだし」


「銀弓とか言う女が引っ付いてるんじゃないの!

女が引っ付いてる男に手を出してもろくなことにならないわよ!

昔、学習したでしょ!」


「彼は独身だもん。

り手のミーちゃんも、女衒ぜげんのリー君も彼は独身だって言ってたもん」



「あの銀弓と金盾の2人は、夫婦者ではないのだよな?」

コイチロウさんは言った。


「僕は詳しくないですが、違うんじゃないですか?

銀弓の性格なら、結婚していたら『我が夫』と言いそうだし」

僕は話す。



「何よ、金盾なんて○○○がでかい以外何の取り柄があるのよ!」

レイラさんが言った。

向こうでは2人の喧嘩がいよいよ佳境を迎えている。


「やだー。レイラちゃん何で知ってるの?

見たのぉ?」

マデリンさんが体をクネクネさせながら言い返す。


レイラさんは言い返さなかった。

代わりにマデリンさんに殴りかかった。

一足飛びに距離を縮め、マデリンさんの左頬にパンチを入れる。


おおっ。


『青き階段』のロビーにどよめきが走った。



「レイラちゃん、いったーい。

マデリン怒っちゃった。

水のリボン攻撃ウォーターリボンアタックー!」


マデリンさんの手から水がリボン状にほとばしった。

水は波打ち、翻り、蛇のようにうねりながらレイラさんに迫る。


先刻の銀弓に仕掛けた魔術とほぼ同じモノだが、動きのスピードと繊細さが違う。

これがマデリンさんの本気か!



水のリボンは『青き階段』のロビーを暴れ回った。

いや、マデリンさん、シャレにならないですよ!



「うぁぁ!」

「ひぃ、マデリンさんカンベンして下さい!」

ロビーにいた冒険者達がわめいた。



レイラさんは、ロビーの中を軽やかに水のリボンから逃げ回った。


ダンッ!タタタ!


僕らのテーブルの上をレイラさんが駆けて行く。

と言うことは!


続いて水のリボンが追いかけてくる。

ひぃ。

僕は防御魔術を展開していなかったことを後悔した。

必死で避けるが、完全には避けきれない。

左腕に水のリボンが当たる。

僕は服が破れることを覚悟した。

しかし、僕の腕をかすめた水のリボンは、その瞬間に水滴となる。


左の袖は水で濡れたが、それだけだった。

そういう術式が仕込んであったのだ。

驚くべき技術である。



ロビーの隅ではレイラさんと水のリボンの追いかけっこが佳境に入っていた。

レイラさんは追いかけてきたリボンの流れを叩き落としたが、大きな別の流れが後ろからレイラさんを捉える。

水のリボンはレイラさんを拘束した。


「マデリンの勝ちー!」

マデリンさんが言った。


「甘いわよ。氷弾!」

レイラさんは自分に向けて魔術を放つ。ひぃ!


レイラさんを拘束していた水のリボンは凍り付き、ボロボロと落ちた。

なお、レイラさんの手も赤くなっている。

霜焼け?凍傷?

あれ相当痛いんじゃない?


レイラさんは再びマデリンの方へ向かう。

そのレイラさんの手にあるモノは!


バッチーン!

レイラさんのハリセンの一撃がマデリンの頭に炸裂した。



「この馬鹿馬鹿馬鹿マデリン!

周りの迷惑考えなさいよ!」


バチンバチンバチン!

レイラさんは容赦なくハリセンで叩いた。


「いったーい。ひっどーい」

マデリンさんはいう。


いや、マデリンさんのしたこともけっこうヒドイと思うよ。

ロビーは机や椅子が散乱してひどい有り様である。

冒険者達が、水のリボンを避けようとした結果だ。

マデリンさんがやったわけじゃないんだけどさ。



そんな中である。

「大変だ!大ニュース!」

そんな一言と共に1人の冒険者が入って来た。


「何が起きましたか?」

受付のユーフェミアさんが問いただす。


結婚の女神ヴァーラー神殿が、今回の決闘で銀弓ダイナを全面支援するそうです」

冒険者は答えた。



レイラさんは手に止めた。


「もう。こういうことになると思ったから、止めろって言ったのよ。

結婚の女神ヴァーラー神殿と対立しても何も得るモノがないでしょ。

周りに迷惑をかける生き方は止めなさいよ」

レイラさんはマデリンに言った。


「レイラちゃん。

心配してくれてありがとう」

マデリンさんは居ずまいを正す。


「でも、譲れないモノってあるの。

負けられない戦いってあるの」

マデリンさんは言った。

そこには、傍迷惑なまでの強い決意があった。



「大変です。特別ニュースです」

そんな言葉と共にまた別の冒険者が入って来た。


「今度は何ですか?」

ユーフェミアさんがまた問いただす。


「今度の決闘に関してです。

愛の女神アプスト神殿がマデリンさんを全面支援するそうです」



「マデリン本気で決闘をするの?

あんな女と?あんな男のために?」

レイラさんは言った。


「やるわ。レイラちゃん」

マデリンさんは宣言した。



「馬鹿マデリン!ぶすマデリン!

もう知らないから!!」

レイラさんはその場でダンダンと地団駄踏んだ。


次の瞬間、レイラさんは『青き階段』から、風のように出て行った。

キンバリーですら追いかけられなかった。



それにしても。

結婚の女神ヴァーラー女神愛の女神アプスト女神の対立。

えらいことになった。


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