第115話 マデリン回収クエスト(激難)
セリアさんの芝居がかった
人垣が割れ、マデリンさんまで道ができる。
「さあ、
セリアさんは調子に乗っていた。
まあ、年貢じゃなくて、借金だけどね。
「えー、マデリン、借金とか知らないわよ」
マデリンさんは小首を傾げる。
「知らないとは恐れ入ル。このえーと……、ここは……どう言うべきカ」
「マデリンさん、レイラさんから、あなたの借金の督促がありました。
今すぐお金を渡すのでなければ『青き階段』まで来て下さい」
僕は言った。
セリアさんが残念そうな顔をした。
ごめんなさい!長くなりそうだったので!
「もー、レイラちゃんたら何よ今更」
マデリンさんは納得がいかない風だ。
マデリン・ファンの連中は、レイラさんの名前が出た所で大人しくなった。
ヨカッタ、ヨカッタ。彼らに暴れられると困るからね。
「マデリンさん、友達に借りたお金は返すべきだと思うわ」
メリアンが言った。
……メリアンよ、君の中で友達じゃない人から借りた金はどういう扱いなんだ?
「まあ、そうだけどぉ」
「マデリンさん、レイラさんはとても心配してる。話をした方がいい」
キンバリーが言った。
「キンバリーちゃん。でもね……」
「
督促はレイラさんだけでなく、『青き階段』からも出ていマス!」
セリアさんが言う。
「ええぇ!」
マデリンさんはちょっと驚いた様子だった。まじまじと認可証を見る。
「……分かったぁ。
キンバリーちゃんの顔を立ててお縄についてあげるぅ」
これで依頼達成だ。
この時、僕はそう思った。
しかし。
「お縄につくからぁ、ちゃんと私を縛ってネ」
マデリンさんはそう言うとウインクした。
はい?
かくして、僕達はマデリンさんを縛りあげることになったのだ。
念のため言っておくが、ロイメの衛兵がやっているような、ごく普通の縛り方である。
縛ったのも、キンバリーだ。
変な妄想しないように。
マデリン・ファンの連中は喜んでいたけどな!
「ではマデリンさんついて来てください」
「えー、マデリン縛られちゃったから歩けないぃ。
やっぱり、ここは誰かがマデリンを肩に担いで連れていくべきだと思うのぉ」
マデリンさんは意味ありげにナガヤ三兄弟の方を見る。
「
セリアさんは、冷ややかに言う。
「そこの男三人組の誰か、マデリンさんを担いで下サイ。
この変態
……そうなんですか。
さて、マデリンさんとセリアさんに指名を食らったナガヤ兄弟である。
「俺はやらん」
コイチロウさんが言った。
「えーと、俺は」
コサブロウさんはチラッとメリアンの方を見た。
なお、メリアンは無反応である。
「俺がやろう。役得だな」
コジロウさんが言い、よっこらせっと縛られたマデリンさんを担ぎ上げた。
「イヤーん。マデリン拐われちゃう」
マデリンさんは嬉しそうだ。
周りにいたマデリン・ファンの連中は、どっと笑った。
僕としては、どう反応していいかわからい。
銀弓ダイナの気持ちが、すこーし分かったような気がしたよ!
帰路は大変だった。
マデリンさんの青い髪はただでさえ目立つ。
さらにマデリンさんは、時々「きゃー」だの、「たっかーい、こわーい」だの、声をあげるのである。
周りの視線が痛い。
何度か呼び止められもした。
その度にセリアさんが認可証を見せて、「控えイ、控えイ」で黙らせた。
セリアさんについて来てもらって良かった。
僕だとここまでストレートに押し通れない。
「すこーし静かにしてくれんかの。変な触り方はしていないぞ」
さしものコジロウさんも閉口したようでだ。
「だってーん」
「コジロウさんでしたカ。
あなたは紳士的な方デスね。
どちらかと言うと、
セリアさんが言った。
そうなんですか……。
それでもなんとか『青き階段』までたどり着けると思ったのだが。
「おい、お前ら何をしている」
案の定と言うか、遂に来た。
ロイメの衛兵だ。若い二人組である。
「衛兵さぁーん、マデリン、借金の
マデリンさんは完全に面白がっている。
「
これが取立て認可証デス」
セリアさんは淡々と言う。
ロイメ衛兵は、認可証を改めた。
釈然としない顔だ。
気持ちは分かる。
「ちょっと詰所の方に来てくれるかな?」
それはまずい。ロイメの衛兵の取り調べは時間がかかるのだ。
「目的地は『青き階段』です。一旦そちらに顔を出させてもらえませんか?」
僕は言った。
『青き階段』に行けば、ユーフェミアさんがいる。
ユーフェミアさんなら、法律を盾に交渉することもできるだろう。
こんな格好にはなってしまったが、僕達は一応ロイメの法の範囲で動いているのだ!
その時である。
「マデリン、見っつけたー!!」
元気の良い声が聞こえてきた。
銀髪紫瞳の万年美少女こと、レイラさん!
「良くやったわ、キンバリー。
良くやったわ、『三槍の誓い』。
マデリンは連れて行かせてもらうわよ!」
「ちょっと待って下さい。一旦詰所に来てもらいます」
衛兵は、突然現れたレイラさんにいささか反発したようである。
この二人は多分レイラさんのことを知らないな。
勉強不足だぞ。
「おい、お前ら何やってるんだ」
状況を見咎めて、別の衛兵二人組が来た。
今度はちょいオッサンだ。
話が分かるのが来たか?
「お久しぶりです。レイラさん」
オッサン衛兵は、レイラさんに挨拶をする。
「何も起きてないわよ。ただし、マデリンは連れて行くわ」
レイラさんは言った。
僕は、あとから来たオッサン衛兵に改めて認可証を提示した。
「書類は改めました。
どうぞ連れて行って下さい」
オッサン衛兵は言った。
そして、続ける。
「あー、マデリンさん。
さっきの決闘で広場の石畳が壊れました。
多分近々請求が行くと思いますよ」
そう言えば、マデリンさんの水魔術は石畳を壊していた。
ロイメでは決闘見物で死人が出た場合は、原則見ていた者の自己責任である。
一方で、決闘で物が破壊された場合は、決闘した者の責任となる。
賠償責任も負う。
「えっー。もうやっだぁ。
ねぇ、レイラちゃん、お金貸してー」
マデリンさんは言った。
……。
かくして、マデリン回収クエスト(激難)は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます