第111話 マデリン・クエストその1

「薬屋のマデリンさんを探す依頼ですか?」

ユーフェミアさんは珍しくやる気がなさそうだった。


「そうよ!」

レイラさんは元気に答える。


「レイラさん、分かっていますか?

マデリンさんを探すのって、とっーても大変なんですよ」


「だから、依頼を出すんでしょ。『風読み』のメンバーだけじゃ心許ないし」


『風読み』でも見つけられないのか。マデリンさん、恐るべし。



ユーフェミアさんは一つ溜め息をつく。


「マデリンさんの居場所をレイラさんにお伝えすれば、依頼完了でよろしいですね?」

ユーフェミアさんは、眼鏡のつるをいじりながら言った。


「それじゃ駄目よ。

朝方マデリンを訪ねたんだけど、捕まえそこねたのよ。

相変わらず逃げ足早いんだから。

馬鹿マデリンの首に縄をつけて、あたしの所まで引っ張って来て!」


レイラさん、それ無茶振りですよ。



「レイラさん、マデリンさんはロイメ市民です。

不当な拘束をすれば、冒険者の方々が不利な立場になります」

ユーフェミアさんはもっともなことを言った。


「ふん、、あたしマデリンにお金貸してるのよ。

借用書もあるわ。

借金の取り立てと言うことでお願い」

レイラさんは言った。



って、何ですか、それ。


ユーフェミアさんは深く溜め息をついた。

なんとなくだが理由はわかる。

借金の取り立てに伴う一時的に身柄拘束。

かなり柄の悪い仕事である。



その時、ザクリー爺さんがモップをかけながら、ポツリと言った。


「マデリンになら、『青き階段』も金貸してたんじゃないかなあ」

ザクリー爺さんらしいのんびりした声だ。


「何ですかそれは!ワタクシ知りません!」


額に軽く青筋が立っている。

これは、ユーフェミアさん、怒っている。



「クランマスター案件の書類の中に、あったような気がするんだよなぁ」

ザクリー爺さんは続ける。


「……すぐに見てきます!」

ユーフェミアさんはそう言うと、事務所の奥へ行った。



柄の悪さはともかく、この依頼について、はっきりしていることがある。


「クリフ・リーダー……」

キンバリーがちょっと言いにくそうに、でも深緑の目に決意を込めて僕に話しかけてきた。


そうなるよな。分かっている。

レイラさんの弟子であるキンバリーはもちろん、僕もメリアンもレイラさんには散々世話になってきた。



6人組となった『三槍の誓い』の初仕事は、マデリン・探しクエストになるらしい。





次の日、僕達『三槍の誓い』は全員フルメンバーでマデリン・探しクエストに出発した。


ロイメ市発行の、借金の取り立ての認可書類もちゃんと持っているぞ。


これで、マデリンさんが逃げようとしても、僕達はマデリンさんを拘束可能だ。

あくまで法的にはだが。


物理的に可能かどうかはまた別である。

マデリンさんて、レイラさんをして強いと言わせる人なんだよね?

僕たちは一応6人いるわけだが。

果たして可能だろうか?




最初の目的地は、キンバリーの意見で、『マデリンのお店』だ。

多分いないと思うけど、まずは足元固めから、とキンバリーは言った。

レイラさんの教えだそうだ。


「なるほど、灯台下暗しとも言うからのぅ」


正直に言うとマデリンさんが店にいる可能性は低いと思う。

でも、重要な手がかりがあるかもしれない。

ほら、小説なんかで、時々見る展開だよ。




キンバリーは『マデリンのお店』の扉を開いた。


「店主はいまセンよ!

あのボケ店主マデリンの居場所を教えてなら欲しいのは、こっちデス!」

カウンタ―にいる灰金髪アッシュブロンドの小柄なエルフの女性が、おもむろにまくし立ててきた。


僕もキンバリーもまだ何も発言していない。


ちなみに、彼女のことは知っている。名前もちゃんと覚えている。

エルフの魔術師のセリアさん。

僕が会うのは3回目になる。



「最近ここに戻って来たりしてませんか?薬を取りに来たりとか」

キンバリーが質問する。


「言っておきますが、ワタシは、ここに住み込んでいマス。

けど、見てないんデス。居ないんデス。

薬の在庫が不自然に減ったりもしてまセン。

無駄話している暇があったら、糞店主マデリンの首に縄をつけてここまで連れて来てくだサイ!」

セリアさんはさらに早口にまくし立てた。


いろいろストレスがたまっているようだ。



「我々は、レイラ殿の依頼で、マデリン殿の居場所を探してる。

ささいなことでもいいから思い当たることはないか?」

コイチロウさんが言う。


「ふん。店主マデリン探しの依頼デスか。

皆さんは、仮にアレを見つけたとして、どうするんデスカ?

それで終わりデスカ?

それじゃ駄目なんデス。

首に縄をかけないといけないんデス」


アレとはマデリンさんのことだろう。多分。


キンバリーがスッと借金の取立認可証を見せる。


それを見たセリアさんの目が大きくなった。



「これは!!

ス、スごいデス。

ロイメ市発行の正式な書類デス。

これで店主マデリンの首に縄をかけられマス。

さすがレイラさんと『青き階段』。

こんな切り札を持っていたとは!」

セリアさんが嬉しそうに言った。


本当に嬉しそうだ。



「皆さん!

私も一緒に連れて行ってくだサイ。

あの店主には言ってやりたいことがたくさんありマス」


こうしてマデリン・クエストの仲間は7人となった。


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