第110話 閑話 トビアスとウィルの水鉄砲談義

「なかなか面白いものだなあ」

ウィルの水鉄砲をいじりながらトビアスは言った。


『青き階段』の裏の射的場の隅である。


「そうですかねェ?

私達が以前いた町では珍しくなかったのですが。

だいたいロイメにも似たような物はあると聞きましたが」

ウィルは答える。


先日、トビアスから水鉄砲を見せてくれと言われた。

そして本日、ウィルは自分の水鉄砲を見本として渡したのだ。


トビアスは、しばらく水鉄砲で的当てをした。

もちろん水は高価な聖水ではなく、井戸水を使った。



「ロイメの水鉄砲は、もっと大きくてこんなに格好良くないんだよ。

本体が小さくて取り回ししやすいのがいいな。

聖水は、別に水筒かボトルで持ち歩くんだろ?」

トビアスは聞いた。


「そうです。でも、ガンガン撃ってると聖水代がかさみますよ」

ウィルは指摘する。



「聖水は、時々冒険者ギルドが安売をするから、そのタイミングを狙う手もある」

トビアスは言った。


聖水の安売り。

ウィルにとっては新情報だ。


「それは良いことを聞きました」



「……俺もロイメ産のデカイ水鉄砲なら使ったことがあるんだよ。

ロイメの水鉄砲は、いざ戦闘と言う時に重たくて扱いにくくてな。

これじゃあ流行らないと思ったよ」

トビアスは楽しそうに、ウィルの渡した小型の水鉄砲をいじっている。



「では、トビアスさんの見立てではは流行る可能性があると」

ウィルは言った。


「あるね」

トビアスは答える。


「でも、トビアスさんが思っているほどには効果はないと思いますよ。

武器に聖水をかけて、直接叩いた方がききます」


「アンテッドに触らずに戦える。これだけですごいメリットだな」


ウィルはなるほどと思う。

アンテッド、特にゾンビに嫌悪感を覚える冒険者は多い。

はっきり言えば、ウィル自身も嫌いである。




「で、トビアスさんとしては、この水鉄砲をどうするつもりですか?」

ウィルは言う。

いよいよ本題だ。


「いろいろ可能性はあると思うが……」

トビアスは口ごもる。


「山分けでいかがですか?半分は私に、半分はトビアスさん側にという感じで」

ウィルはニンマリと笑った。


トビアスもニンマリと笑い返す。


話はまとまった。利益は2人で山分け。

冒険においては、「最初に道を見つけた者が最大の利益を得る」のだ。

この道は見つけたのだ。

何も間違ってはいない。




「とりあえず『冒険者ギルド』。後は、『風読み』のヴァシムさんだな」

トビアスは言った。


「ロイメの冒険者ギルドは、こういう物も引き取ってくれるんですかね?」

ウィルは少し驚いた。


以前いた町のギルドはそういうことはなかった。

一世代前に冒険者ギルドは領主の管理下に入り、ギルド内から進取の気風は失われてしまったのである。

それでも、冒険者達はそれぞれ工夫をしていた。

この水鉄砲は工夫の成果だ。



「ロイメでは、第二層の攻略者が慢性的に不足している。

何しろ臭いし、暗くて気が滅入る。

聖属性の持ち主は限られてるし。

時々冒険者ギルドが聖水を安売りしているが、それでもなかなか増えない。

この水鉄砲は、第二層攻略者を増やすきっかけになるかもしれない」

トビアスは言った。



「たかが水鉄砲で第二層の攻略者が増えますかねえ?」

ウィルは懐疑的だった。


たかが水鉄砲である。


「可能性はある。水鉄砲は、扱いが楽だし、格好いい。

まるで『銃』みたいだ」


武器もファッションと言うのは、ウィルには新鮮な考えだった。



ウィルは、とりあえずトビアスの案に乗ることにした。


ウィル、トビアス、『冒険者ギルド』、『風読み』のヴァシム、誰にとっても損のない取引きなのだ。

自然の流れと言うものである。


ウィルはそう考えた。

、確かにそれは正しかった。





【オマケ】

ロイメの水鉄砲は、消火器みたいな形です。

ウィルの持っている水鉄砲は、現代の物に近いデザインです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る