第102話 ダンジョンについて語る
出られないダンジョンはあるが出口のないダンジョンはない。
神話を由来とする冒険者の
ダンジョンの神ラブリュストルは、神々の主流派と
その時、神々の盟主であるガゼルスと約束を交わす。
すなわち、出口のないダンジョンは作らないと。
出られないダンジョンはある。
だが、出口のないダンジョンはない。
出口がないとしたら、出口の存在に気づいてないか、そこがダンジョンでないか、だ。
そう言われている。
ここは間違いなくダンジョンである。
だとしたら、『ラブリュストルの約束に基づく出口』が存在するのではないだろうか?
僕達はもう一度、広間の壁を一周した。
あの不恰好な抜け穴以外に外に通じる通路はない。
天井を見上げても、魔力の高い僕の目にも、視力の良いダグの目にも、出口は見えない。
出口はない。
では、次に考えるべきは何か?
「あの岩扉を再び開く鍵が、この広間の中にあるのではないでしょうか?」
ウィルさんが言った。
あの時、僕達の目の前で岩扉が閉じた。
閉じたものが再び開く。
何の不思議もないことだ。
ラブリュストルの出口は空間の中ではなく、時間の中に存在する可能性もある。
「僕も、……同意見です」
僕とウィルさんの見るところ、怪しいのは部屋の真ん中の窪みである。
もう1つの部屋では、そこには泉があった。
この広間では泉は枯れている。
だが、円い窪みは同じ場所にある。
僕は窪みに足を踏み入れた。用心深くだ。
とりあえず、落とし穴が発動するようなことはない。ホッ。
「ニンゲンヒトリメ、ヒトリメヒトリメ、エルフフタリメ、フタリメメメ」
ここの
「ここだと歌が良く聞こえますよ」
僕は言った。
「歌など聞こえませんよ」
続いて窪地に入ってきたのはウィルさんだった。
「歌じゃないわよ、呻き声に近いわ」
メリアンが3番目に足を踏み入れる。
「なんか聞こえるけど、ささやき声みたいだぞ」
最後に降りたのはダグである。
「まあ、私は魔術・魔力関係は全然だめでして。
何も聞こえないのはそのせいでしょう」
ウィルさんが言う。
うーん。
ウィルさんに聞こえず、僕にはよく聞こえて、ダグには少しだけ聞こえて、メリアンには呻き声に聞こえる。
だとしたら。
「死霊属性かな。多分死霊属性がないと聞こえないんだ。
メリアンは、死霊属性はないよね?」
僕は聞いてみる。
「あるわけないでしょ。
それでなんて歌ってるのよ」
メリアンはプンスカ答えた。
いつものメリアンだ。
「ニンゲンヒトリメ、エルフフタリメ、こんな感じ」
僕は言った。
でも、この広間には人間と、あとは彼ら
「♪人間、一人め
エルフ、二人め
ドワーフ族が三人め
トロール四人め
ケンタウルス五人め
まざりものが六人め
クリフさんは歌と言いましたが、もしかしてこんな感じですか?」
ウィルさんが軽く歌ってみせた。
「そんな感じです!どこで聞いたんですか?」
僕はちょっと興奮する。
「イリークの歌だな。時々歌ってた」
ダグが言った。
エルフの歌か。
「ねえ、ちょっと違うけど私も聞いたことがあるわよ」
メリアンが言い出した。
「♪
怠惰なエルフ、二人め
酒飲みドワーフ、三人め
野蛮なトロールが四人め
五人めのケンタウルスは今日のことしか考えず
そして神々は頭を抱えた♪」
僕は溜め息をついた。
メリアンの歌なら、僕も知っている。
実は続きもある。
七人めのセイレーン族は愛のみに生き
八人め、オーク族は戦うことしかしない
九人め、ピクシー族は木に登ったまま
十人め、リザードマン族は神々の言うことを聞かなかった
ともかく
各種族が混在するロイメの気風に合わないとかで、最近ロイメ市議会は歌わないようにと指示を出している。
まあ、みな歌ってるけど。
「ここに台座っぽいのがありますよ。6つ」
ウィルさんが屈みこんで、窪地を観察している。
さすが、行動が早い。
ウイルさんの指差す場所を僕も見る。
確かに、窪地の中央に6つの台が花びらのように並んでいた。
「ここに文字があります。古代文字のようです。クリフさん、読めますか?」
ウィルさんが質問してきた。
「簡単です。単純に1、2、3、4、5、6。数字です」
僕は答える。
「これは数字ですか……」
ウィルさんは1の数字に触れた。
その瞬間文字がポワッと光ったのが僕には見えた。
「今、光りました」
「すごいですね。クリフさん、私には見えませんでした」
「1は一人めですから人間族ですよね」
僕は考える。
一級魔術師の名にかけて、ウィルさんばかりに花を持たせるわけにはいかない。
ものは試しだ。乗ってみるか。
僕は台座の上に立った。台座全体が光る。
おおっ。
試しに、隣の2の台座にも乗ってみる。そぉっとだ。
案の定と言うか光らない。
2は二人め、つまりエルフ族でなければいけないのか?
ちょっと待て。
ここには人間しかいないぞ。
6つの台座は埋まらないじゃないか!
「おーい、隅の方にこんなモンがあったぞ」
ダグがそういいながら、大きなゴツゴツした石のようなものを持ってきた。
……、単なる石ではない。彫刻だ。
だいぶ単純化された意匠だが、ドワーフのように見える。
僕はダグから受けとる。重い。石と言うより、鉄に近い重さだ。
ドワーフは三人め。3の台座にセットする。
ポワッ。微かに光る。
いけるか?
隅には、他に5つ彫像がある。最初に見つけた物も含めるとちょうど6つだ。
これはいけるんじゃないか?
僕達は分かりやすいもの、ケンタウルスやトロールと言ったものから台座にセットしていった。
あとは3つ。細長いものと、一見人間にしか見えないものが2つ。
細長いものは、耳も細長いからエルフだろう。
「あと2つ。1つは人間、もう1つは混ざりもの、ハーフ種族でしょうか」
ウィルさんが言う。
しかし、困った。
彫像は二つとも耳は尖ってない。体型も普通だ。両方人間に見える。
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