第83話 思考実験 『三槍の誓い』の可能性
僕は考える。
『三槍の誓い』の未来と可能性についてだ。
論理的に考えよう。それが僕のやり方だ。
とは言え、未来はあいまい過ぎる。
こんな時は、そうだな、まず3つの可能性に分けてみようか。
第一に、メリアン以外の治癒術師が『三槍の誓い』に入った場合。
第二に、メリアンが『三槍の誓い』に入った場合。
第三に、治癒術師を入れなかった場合。
メリアン以外の治癒術師が『三槍の誓い』に入ったらどうなるだろう?
正直これは難しい。術者の実力によって状況は変わる。
仮にとして。
最善に近いメンバーが入った場合を考えてみよう。
例えば魔術師クランの僕の同期で幼なじみに、ルークと言う男がいる。
同期の中では、ネリーの次に2級魔術師の資格を取った。優秀な魔術師である。
火属性の攻撃魔術が得意で、初級だけど治癒術も使う。
僕のライバルの1人だ。
ルークが『三槍の誓い』に入ったらどうなるだろう?
ルークは攻撃魔術が好きだ。多分、連携とかを考えずに使いたがる。
奴の攻撃魔術は確かに強力である。
でも、戦術面でコジロウさんあたりと揉めるかもしれない。
攻撃魔術を使い過ぎて、治癒術が必要な時にマナ切れを起こすなんてこともありそうだ。
多分、ルークは前衛に盾士がいる普通のパーティーに入って
まあ、
僕とは組みたくないと言われた。
僕はルークに嫌われているのだ……。
なお、ルークが僕を嫌うのはのは、奴の術式に僕が散々ケチをつけたからである。
僕がルークにケチをつけたのは、それ以前に僕の攻撃魔術について、散々馬鹿にされたからだ。
ルークが僕を馬鹿にしたのは、それ以前に……以下略。
ともかく、魔術師クランで優秀とされる術者であっても理想のパーティーメンバーではないと言うことだ。
ここを押さえよう。
魔術の才能はそれほどではないけど、経験豊富な治癒術士はどうだろう?
経験豊富と言うことは、年上と言うことだ。僕に仕切れるだろうか?
もちろん必要ならばやるしかないんだけど。……うーん。
年下はどうだ?魔術師クランに今16歳で凄いのがいる。本物の天才だ。
彼をスカウトできればベストだろう。
できれば、だが。
しかし、魔術師クランのルールでダンジョンに潜れるのは18歳からである。
天才の冒険者デビューまで1年以上ある。
これは直感だが、パーティーは勢いも大切だ。1年間を無駄に過ごすのは、最適解ではない。多分。
同世代の2流の術者をスカウトする場合は?
そいつがメリアンより優秀だと言う保証があるのか?
何より宛はあるのか?
エルフの治癒術師をスカウトするのは?
うん。これは、現実的ではないな。
では、メリアンが『三槍の誓い』に入った時のことを考えてみよう。
とりあえず、同性であるキンバリーとの関係は良好だ。
コサブロウさんはメリアンをパーティーに入れたがっている。
コイチロウさんとコジロウさんは僕の判断を尊重してくれているが、特にメリアンを嫌っている印象はない。
一方で散々だった『暁の狼』時代と違う点がある。
リーダーである僕がメリアンの欠点を把握していることだ。
ナガヤ三兄弟もある程度は分かっているだろう。
と言うか、『青き階段』のメンバーは、ほぼ全員メリアンの欠点を知っているんじゃないか?
もう1つのメリアンの欠点は輸送力、脚力だ。しかし、先程のハロルドさんの話が正しいなら、これは時間と共に解決していくはずだ。
思考のピースがはまり出した。
メリアンin。悪くないんじゃないか?
いやダメだ。あのメリアンだぞ。
最後は、治癒術師を入れなかった場合だ。
例えば、遠距離攻撃力を強化するために、クロスボウ使いか弓士をスカウトする。
一応アリだ。
でもそれなら、『デイジーちゃんと仲間達』と合同パーティーを組む方が良くないか?
何より、デイジーがいるし!
結論が出てきた。
現時点で、メリアンをメンバーに加えることは『三槍の誓い』にとって、悪くない選択肢のようだ。
最善かどうかはわからないが。
では、メリアンを『三槍の誓い』へ入れるにあたっての問題点はなんだろうか?
僕のメリアンへの感情、そして僕とバーディーとの関係だ。
つまり僕の個人的な問題だけだ。
ええと、僕が『三槍の誓い』の可能性を潰しているのか?
待て待て、僕の思考、ちょっとストップ。
考え過ぎは心と体に良くないぞ!
「やあ、クリフ。いろいろ悩んでいるみたいだな」
ぼんやりとお茶を飲む僕の前に現れたのは、トビアスさんとダレンさんだ。
「向こうの連中からクリフの相談に乗ってくれと、依頼を受けたんだ」
トビアスさんが指差した先には、ナガヤ三兄弟とキンバリーがいる。
「僕が『三槍の誓い』の可能性を潰しているような気がしてきました」
僕は素直に話した。
「君が以前のパーティーメンバーにいろいろ思う所があるのは、ごく普通のことだよ」
ダレンさんは言った。ダレンさんの優しさが心に染みた。
僕の中にはまだメリアンに対する抵抗感がある。
そして、馬鹿だと思うが、まだバーディーにいい顔をしたいのだ。
「個人で組むパーティーで、理想のメンバー構成は無理だな。気持ちも含めて、どうやりくりするかだ」
トビアスさんが言った。
そうなんだろうな。
「では、トビアスさんはどんな術者なら『三槍の誓い』の理想の6人目だと思いますか?」
僕は聞いてみた。なんとなく。
「そうだな、遠距離の攻撃魔術が得意で、治癒術も使えるなんていうのがいれば最高だろう。
でも、そんな都合の良い奴はさすがにいないさ」
トビアスさんは答えた。
「ゴホッゴホ」
お茶がむせた。
「大丈夫か?」
「ゲホッ、大丈夫です」
口では大丈夫と言ったが、内心は大丈夫ではない。
いやいやいや、遠距離攻撃魔術が得意で、治癒術も使える術者だって……。
……それ、
親父じゃないか!!
ノー、ノー。絶対ノー。
大丈夫だ。
ああ見えて、親父はけっこう忙しい。『三槍の誓い』に入る余裕はない。
とは言え、万が一、億が一の可能性を考えて、パーティーの6人目は早めに決めた方が良いのかもしれない。
僕は、僕の中にあるメリアンへの感情のしこりが溶けていくのを感じた。
親父よりはメリアンの方がはるかにマシだ。
バーディーは……。
ごめんバーディー。
僕は過去よりも未来の可能性を取る。
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