第4章 第三層の冒険

第35話 デイジー【秘密メモ デイジーちゃんと仲間達】

「護衛の任務ですか?」

僕はユーフェミアさんに確認した。


「はい。第三層でこれから狩りをするパーティーが、途中第二層での護衛を探しています。『三槍の誓い』として、引き受けて貰えませんか?」


第二層の護衛と言うことは、二層に出現するアンデッドモンスターが苦手と言うことだろうか?

僕の疑問を察したようにユーフェミアさんは説明を始めた。


「お察しの通りアンデッドが苦手なパーティーだからです。彼らは、狩りハントを得意にしています。

北の森が禁猟期間になったので、ロイメに戻って来ました。

ゲートから三層入り口までの護衛で、報酬は10万ゴールド。

全員怪我なく無事なら追加で2万ゴールド。荷物も無事なら、さらに3万ゴールドです」


「15万ゴールドは小遣いだが、良いではないか。そのパーティーも困っているのだろう」

コジロウさんが言った。


「実質12万ゴールドと思ってください。荷物については、ゾンビの体液がちょっとでも・・・・・・付いたら不可と書かれています」


「出発はいつですか?」

僕は聞いてみた。1番大事なことだ。


「7日後です。『三槍の誓い』の皆さんには2日ほど予定を繰延くりのべていただくことになります。また、荷車の移動を手伝うのも仕事になります」


2日遅れの報酬として、12万ゴールド、1人2万4000ゴールドの報酬は悪くない。

「どうですか?皆さん。僕は引き受けようと思うのですが」


「良いと思うぞ」

コイチロウさんが言い、コサブロウさんとキンバリーは頷いた。


「ありがとうございます。護衛はできたら聖属性持ちがいるパーティーが良いとおっしゃっているので」



「何ランクのパーティーなのだ?」

コサブロウさんが聞く。


「Bランクパーティーですね。『青き階段』の稼ぎ頭です。

パーティー名は『デイジーちゃんと仲間達』と言います」


「デイジーちゃん?」


「はい。デイジーちゃんです。

彼女はなんと冒険者通信で「美しい(かわいい)冒険者ランキング」で二年連続で1位を取ったことがあるんです!」

ユーフェミアさんは力説した。


「それはすごいの」

コイチロウさんが淡々と返事をする。


「3年目も1位間違いないと思われてたんだけど、ゴドフリーの野郎が殿堂入りにしちゃったのよねー」

側にいたノラさんが口を挟んできた。


……デイジーちゃんか。ユーフェミアさんの紹介だし、問題ないと思うが、なかなか強烈そうだ。

レイラさんとどっちがすごいかな?



「強いのか?」

コサブロウさんはさらに突っ込む。

眼鏡の奥のユーフェミアさんの青灰色の瞳がキラリと光った。


「落とし物だったトビアスさんのノートによると『デイジーちゃんと仲間達』の評価は、


攻撃 B+

防御 C

情報 A-

治癒 B-

輸送 A-

資金 B+以上


です」


極端なパーティーである。防御は捨てて脚の速さに特化している。間違いなく狩りハントを得意とするパーティーだし、必要に応じて護衛を雇うこともあるだろう。


しかし、ユーフェミアさんはトビアスさんのノートの中身見たことがあるのか。

……ちょっとうらやましい。




今回の第三層の探索はとりあえず一週間の予定だ。しかし、保存食は10日分、塩はさらに多めに持つ。


保存食はトビアスさんのお勧めの店で買った。うまいことのせられた気もするが食は大切だ。


後は小型魔石コンロが欲しかったが、これは思った以上に高くて諦めた。

クズ魔石を燃やせば良い大型コンロより、小型コンロの方が良い魔石を使わなければならないそうだ。


代わりにシートは全員で買い換えた。長期探索には、睡眠と休憩も大切だ。

大角鹿ビッグアントルディアの皮製である。第三層で取れるモンスターの皮を一足早く金で手に入れたことになる。

人間とはそう言うものだ。悪く思わないで欲しい。


後は虫除け等の薬品類。荷車は行きは使わない。

帰りはと言うと、なんと荷車を貸し出したり、輸送を請け負ったりする連中が第三層にいるらしい。かなり高額だけど。

もし大猟なら、彼らに頼むことになるだろう。



2日後、『デイジーちゃんと仲間達』はクランに現れた。


「おお、デイジーちゃん」

「会いたかったぁ、デイジー」

「相変わらずかわいいね!」


デイジーは、巨大な銀色の毛並みを持つ犬(いや狼か?)だった……。



「クリフさん、こちらが『デイジーちゃんと仲間達』のメンバーです」

ユーフェミアさんから紹介を受ける。

「三層までよろしくお願いします」

リーダーのネイサンさんと僕は握手をした。


ネイサンさんは、弓士だ。身体は細身だが、肩はガッチリたくましい。

黒髪で穏やかな雰囲気で、顔立ちにはナガヤ三兄弟に似た特徴がある。父親がアキツシマ人なんだそうだ。三十ぐらいかなあ?


「聖属性がいるといないとじゃ大違いだからな」

トムさん。小柄なクロスボウ持ちである。年はネイサンさんと同じくらいか。


「俺達の荷物をゾンビやグールの涎を付けずに運べたら、オマケするぞ」

最後にチェイスさん。彼も弓士だ。そして、トビアスさんと同じハゲの呪いを受けている。多分1番年上だろう。


3人を見ると皆軽装で、身体つきは細身で、足が速そうだ。

1番年上のチェイスさんでも確実に僕より速いだろうな。

キンバリーなら駆けっこで勝てるかな……。



そして、スーパーアイドル・デイジー。彼女は、犬と三層にいるシルバーウルフの混血で、ハーフ・シルバーウルフなのだそうだ。


犬にしては大きすぎる。4本足で立っても、デイジーの頭は僕の肩より高い。後ろ足で立てば完全に僕より背が高いだろう。

挨拶がてら撫でさせてもらった。『三槍の誓い』の他のメンバーはデイジーに大喜びだけど、僕はおっかなびっくり。

僕の撫で方は下手だったと思うけど、デイジーは辛抱強く付き合ってくれた。モフモフで体温が高い。


結論。デイジーはかわいい。



「「デイジー!」」

甲高い声と友に2人の小さな女の子が現れた。2人ともかわいい。そして、2人ともブラシを持っている。

後ろからはトビアスさん。


「うちの娘達が、またデイジーのブラッシングをしたいって言うんだよ。いいか?」

トビアスさんが言う。

「いいですよ。デイジー、キレイにして貰うの好きだもんな」

ネイサンさんが答える。


裏庭で伏せのポーズを取ったデイジーの周りを、2人の女の子がチョロチョロ動き回ってる。

平和な光景である。



その後もデイジーを訪ねて来た人が何人もいた。


デイジーは新たなファンも獲得していた。ダンジョンから戻って来たホリーさんとハロルドさんである。

2人は犬が好きらしく、デイジーに一目でメロメロになってしまった。


2人ともネイサンさんにものすごい勢いで頼み込んでモフらせてもらっていた。


デイジーは、やばいくらいに興奮した2人とも付き合っている。


改めて結論。デイジーはかわいい。


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