第34話 鋼の仲間・続き【秘密メモ 鋼の仲間】

トビアスさんは続けた。

「まあ、ともかく、俺は『鋼の仲間』で日々怒鳴られ、訓練をしながら、ダンジョンでの立ち回りを学んだ。

そして、酒も飲まず、コツコツ金を貯めて、晴れて退団したわけだ」


「トビアスさんとダレンさんは『鋼の仲間』で知り合ったのですか?」

「いや、僕が入ったのはトビアスが出て行った後だよ。

さっきも言ったけど、田舎から出てきた若者には悪くないクランなんだ。『青き階段』にも、『鋼の仲間』出身者が他にいるはずだよ」



キンバリーが口を開いた。

「私も男だったら『鋼の仲間』に入っていたと思う。でも、あそこは男しか入れない」


「正確には、人間かドワーフの男しか入れないクランだ。そういう方針なんだ」



「人間の男……、僕でも入れますか?」

別に入る気があるわけじゃないけど、少し興味が湧いてきた。

「「無理 (じゃないかな)」」

2人に即答された。ちょっとひどくない?


「『鋼の仲間』は魔術師は入れない。回復役すら入れない」


「それはびっくりだな」

コイチロウさんが言う。

回復役を欲しがるパーティーは多い。

なお、『三槍の誓い』も回復役を募集中である。

「トビアス殿、『鋼の仲間』と言うのは、どういう戦い方をしているのだ?」



「まず、前衛は盾5人だ。これで防御陣を張る」

トビアスさんは真剣な顔で話し出した。

「中衛は槍か戦斧か、長い武器ポールウェポンだな。2~3人だ。これで脇を固める。

後衛は弓とクロスボウ。これも2~3人。

特にクラン特製の鉄の矢を放つクロスボウが強力だ。実質、これが攻撃役アタッカーだ」


「剣士はいないんだな」

バーディーは剣の腕が自慢だった。

「スカウトもいない」

キンバリーも言った。

「『鋼の仲間』にはいくつか隊があるが、戦い方は皆同じだ。専門職のスカウトもいない。

スカウトの初歩は全員に叩き込む。そして、基本は道を知ってる慣れたルートで戦う」



それだと1パーティーで10人前後はいることになる。

「完全な大型パーティーですね」

「そうだ。1隊9人~12人ぐらいで動く。

何度も言うが、魔術師は入れない。金をかけるのは、エリクサーとクロスボウだ」


でもちょっと待って。

「大型パーティーと言うことは、その分たくさん稼がないといけませんよ。いくら魔術師を入れないと言っても」

「だから、その分長時間潜る。そして、給料は安い」


「良く考えられてるのお」

コジロウさんが言った。



「まあ、一層の攻略なら最も洗練されているだろうな。

だが、二層では聖属性の魔術師のいるパーティーにかなわない。

三層はいけるが、もっと少人数で身軽に効率良く狩るパーティーもいる。

『鋼の仲間』が得意なのは、一層と地上の護衛任務だな」


「つまり、盾持ちとしてなら僕でも入れるんですね?」


トビアスさんとダレンさんは、僕に残念そうな視線を向けた。

「『鋼の仲間』は、頭の中身は見ないけど、体格や腕力は見るぞ」

「誰でも良いわけではないんだよ」



「冒険者クランと言うより軍に近いな」

コイチロウさんがポツリと言った。


「彼らがさらに人員を増やせば、一層は完全制圧できるやもしれん。なぜメインダンジョンに現れぬのだ?」

「さあな。『鋼の仲間』は魔術師クランと仲が悪いし、ケンタウロス族やエルフ族からも評判が悪いし、いろいろあるんじゃないのかね?」



「トビアスさん、あなたの採点なら『鋼の仲間』はどれくらいですか?」

僕は聞いてみた。


「そのパターンかよ!」

トビアスさんは軽くしかめっ面をした。いや、だって1番大事なところでしょ。

「僕も見たいよ。トビアスの秘密ノート」

ダレンさんが言う。


「しょうがないな。あくまで、俺のいた隊だぞ。


攻撃はB。クロスボウは強力だし、武器も整備されている。だだし、金がかかるせいか一隊に1人しかいなかった。

防御はB+。魔術攻撃には弱いが、物理攻撃にはめっぽう強い。

情報は良く知ってる道ならB。地図をきっちり作ってる。知らない道ならC+。スカウト専門職がいない。

回復はC+かB-か迷うな。エリクサーはちゃんと持っているんだよ。

輸送はB。足元は強いが装備は重い。

資金はB。金は持っているが、給料が安い。絶対B以上はやらん。

こんな感じか」




バーディーとサットンが『鋼の仲間』で幸せかどうかは、わからない。……正直あまり幸せでないような気もする。とは言え、僕は彼らの幸せに責任を持つ立場上じゃない。


とりあえず、『鋼の仲間』はメシが出る。食うに困ることはないようだ。

これ以上考えても仕方ない。僕は思考停止をした。




「酷い目に会ったっスよ」

ギャビンさんがいきなり現れた。


ギャビンさんは朝から2万ゴールドの仕事に出掛けて行ったはずだが。


「教室に入った瞬間ヤバいって思ったンすよ。レイラさんも含めて、なんか凄そうな人がたくさんいて。ダンジョン探索のやり方やら、以前いた町のスカウトの流派やら、道具やら、根掘り葉掘り追及されまくったンす。ほとんど尋問スよ」


「ギャビンさんはなぜ僕らのテーブルにいるのですか?」

僕は聞いてみた。

「リーダーとウィルはダンジョンに潜る準備だし、ホリーは出掛けてるし、ダグは訓練場だし、イリークは部屋で魔術実験だし、ここしかないっしょ」


「特に片足のドワーフがしつこかったスよ」

「片足のドワーフなら、ヴァジムさん。『風読み』の副クラン・マスター」

キンバリーが言う。

「2万ゴールドの仕事だってレイラさんは言ったはず。なぜ楽して稼げると思ったの?」


まあ、レイラさんは正当な報酬だって言ってたんだよな。


「他の町も含めて、情報収集は欠かせないって、ヴァジムさんはいつも言ってる」


キンバリーの言う通り、『風読み』は、こうやってスカウトのノウハウを蓄積してきたのだろう。


この迷宮都市ロイメには、『青き階段』以外にも、『鋼の仲間』・『風読み』など、様々なクランがあるのである。


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