第33話 鋼の仲間
「『鋼の仲間』と言うクランを知っていますか?」
僕はユーフェミアさんに聞いてみた。
ユーフェミアさんの眼鏡の奥の青い目が大きくなる。
「それは知ってますが。クリフさん、『鋼の仲間』とか移籍しても良いことありませんよ!」
どうもユーフェミアさんは、僕が移籍を考えたと思ったらしい。
「違いますよ!昔の友人が『鋼の仲間』にいるって噂を聞いたんで、どんなクランか知りたいと思ったんです」
ユーフェミアさんは僕の顔をじっと見る。しばらくして疑いは晴れたようだ。
「『鋼の仲間』でしたら、トビアスさんとダレンさんが詳しいはずです。彼らは『鋼の仲間』にいたことがあったはずです」
トビアスさんは訓練場にいた。
彼の光る頭頂部は目立つ。
この前の武術大会以来、『青き階段』では武術がブームになっている。
中央ではコジロウさんとダグが立ち会っているが、あれはまあ半分遊びだな。
とは言え、野良賭けも行われていて、それなりに盛り上がっている。
どうも胴元はトビアスさんのようだ。
隣にはダレンさんもいる。
「トビアスさん!」
僕は大きく声をかける。
「三槍のリーダーか、お前も賭けるか?」
「賭けは苦手なので遠慮しますよ。ええと、ユーフェミアさんに『鋼の仲間』と言うクランについてお二人が詳しいと聞いたのですが」
「『鋼の仲間』ねえ。いや、知ってるけど」
トビアスさんはしかめっ面をした。
「懐かしい名前だね。何故知りたいのかな?」
ダレンさんはいつも通り穏やかだ。
「昔の友人が『鋼の仲間』にいるらしいんです。それで、どんなクランなのか知りたいんです」
「『鋼の仲間』は俺の古巣だし、語りだしたら止まらないからなあ。ロビーで待ってろ。昼メシ食いながら話そうぜ」
冒険者クランの例にもれず、『青き階段』には食堂が併設されている。
メニューはワンパターンだが、安く肉が食べれるのでクランの会員にはそこそこ好評だ。
しかし、残念ながら朝食と夕食のみである。昼はコックの休憩時間なのだ。
そのため、昼にクランにいる奴は、だいたい近所で弁当を買って来てロビーで食べることになる。
今日は、『三槍の誓い』のメンバーにトビアスさん、ダレンさん。賑やかな昼食となった。
各々弁当を広げる。
僕の弁当はザクリー爺さんお勧めのものだ。確かにうまい。
そして食べ出すと僕たちは静かになる。
「まあ『鋼の仲間』と言うのはだな、軍隊式と言うか、体育会系のクランだな」
弁当が半分くらい消えた所でトビアスさんは話し出した。
「田舎から出てきた若者を勧誘して、規律を叩き込んで、ひたすらダンジョン巡りをさせる。そういうクランだ」
「クランの歌があるんだよ」
ダレンさんが口を挟む。
「♪
「止めろダレン、思い出したじゃないか」
トビアスさんは心底嫌そうな顔をした。
「この歌を歌いながら毎日ダンジョン巡りをしたんだよ。暗い思い出だよ」
なんと言うか、濃い歌である。
「これだけ強烈な歌を歌っている集団なら目立ちそうなものですが、僕は見たことも聞いたこともありませんよ」
「『鋼の仲間』の縄張りは、サブダンジョンだ。メインダンジョンにはあまり来ないんだよ」
ダレンさんが答えた。
大きなダンジョンは近くに小さなダンジョンを発生させることがある。それをサブダンジョンと言う。
『風読み』の枯れダンジョンも、もとはサブダンジョンの1つだったはずだ。
なお、ロイメの冒険者はサブダンジョンを見付けたら、一週間以内に報告しなければならない。
これはかなりの報償金(小規模なものでも1000万ゴールドとかだ)が出るので、ダンジョン発見は冒険者の夢である。
そして、ギルドはサブダンジョンにもきっちりゲートを設置する。そこはぬかりない。
「『鋼の仲間』はたいてい西のサブダンジョンにいる。そこでスライムや昆虫系モンスターをひたすら狩る」
「装備代も持ってくれると聞きましたが本当ですか」
「クランに中古の装備があるんだよ。それを貸与される」
「それで良く儲かるなあ?慈善事業か?」
食事を終えたコサブロウさんが聞いた。
「なわけねーだろ。給料が安いんだよ」
トビアスさんは『鋼の仲間』に含む所があるらしい。
「給料が安くては生活できぬし、人も集まらぬだろう」
これはコジロウさんだ。
ダレンさんが答えた。
「『鋼の仲間』は寮がある。食事も出る。訓練場があるから訓練もさせてくれる。装備も貸してくれる。でも、給料は安い」
トビアスさんがつけ加える。
「規律が厳しくて、毛布の畳み方にまで文句を言われる。先輩は口うるさいばっかでクソだ」
「何故そんなクランに入ったんですか?」
僕は疑問に思う。トビアスさんはそう簡単に騙されたりする人じゃないだろう。
「田舎から出てきた冒険者志望の若者には悪くないクランなんだよ」
ダレンさんが言う。
トビアスさんが続ける。
「ロイメに来てすぐ勧誘されたけど、俺はこんなクラン冗談じゃないと思ったよ。
だがな、半年くらいして、同時期にロイメに来た連中が何人か死んでることに気がついた。
一方で、『鋼の仲間』に行った連中は誰も死んでなかった。
かくして、俺は『鋼の仲間』に入団することにした。
割とひどい断りかたをしたから、いろいろ言われたけど、頭を下げたのさ」
「その光る頭頂部を相手に見せたわけか」
コサブロウさん……。
「その頃はまだ髪の毛があったんだよ!
ハゲを馬鹿にするな。お前もハゲる呪いをかけるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます