第36話 第二層のゾンビ

僕たちはダンジョンを東へ向かって歩いている。

第一層東のダンジョンは光ゴケが多く、北ほど暗くない。

また、ゲートから二層へ降りる階段までは大通りメインストリートで同じ方向に向かう冒険者も多い。


通路から顔を出した昆虫系モンスターは、(禿げの)チェイスさんの矢で瞬殺されてしまった。



さて、いよいよ第二層へ下る。

階段はなだらかだ。暗く、下からはアンデッドモンスターの臭いが上がって来る。うん、嫌な感じだ。

階段の右端は、板が渡してあり、荷車が通り易くなっている。


「ここから先は、荷車は皆で協力して運びましょう」

リーダーのネイサンさんが言った。


なお、ダンジョン一層で荷車を引いたのは、コジロウさん。押したのは、コサブロウさんである。



ダンジョンに入る前のことだ。

「何処にアンデッドの涎が付いたらダメなんですか?」

僕は聞いて見た。3万ゴールドのオマケはできたら欲しい。


「何処についても駄目に決まっているだろ」

チェイスさんが言う。

「例えば、荷車の車輪が何か踏んだら、これはダメですか?荷台の外壁は?」

チェイスさんは、めんどくさそうな顔を向けて来た。


いや、でも、大切なことでしょ?


「流石に車輪はしょうがないよ。外側も仕方ないんじゃないかな。チェイスも潔癖症を貫くなら、きちんと決めよう」

ネイサンさんが言う。なお、デイジーは隣で欠伸をしている。


「荷台の内側と俺達の荷物、オマケで載せてやったお前らの荷物、全てアンデッドどもに触れさせるな。それが条件だ」

チェイスさんは宣言した。


階段では板を使いながら、皆で協力して荷車を下ろす。

正確に言おう。索敵役のキンバリーとコイチロウさんと僕とデイジー以外の5人で協力して下ろす。


僕も協力するつもりだったんだけど、邪魔だとチェイスさんに言われてしまった……。


途中からは、明かりの魔術を使い、聖属性の結界を展開する。



二層は幽霊ゴーストだらけだ。幽霊ゴーストは大した力はないが、取りつかれると悪寒を生じ、マナを削られる。

ただ、取り柄もある。聖属性を持つ僕の目には幽霊ゴーストの持つ薄い霊光のせいで、本来真っ暗な二層はうっすら明るく見えるのだ。


隊列はキンバリーとコイチロウさんが先頭だ。

続いてチェイスさんとトムさん。コジロウさんと荷車とコサブロウさん。そして、僕。

最後尾はネイサンさんとデイジーだ。



「臭いは酷いが思ったほど暗くないな」

コサブロウさんが言う。

「何言ってるんだ、真っ暗だぜ。魔術灯がなきゃ何も見えない」

チェイスさんが答えた。


「二層で何か見える人は、聖属性持ちで霊光が見えているか、ドワーフの血を引いて暗視ができるかだと思います」

僕は魔術師クランの授業で聞いた話をそのまま話した。


「コサブロウさん以外に見える人はいますか?」

コイチロウさんコジロウさんが手を挙げる。キンバリーもかなり控え目に。後ろでデイジーがワンと吠えた。


『三槍の誓い』は第二層が見えるのか。これは、第二層攻略もいけるかもしれない。


「アキツシマ人はドワーフ族の血が混じっていると言われている。聖属性ではなく、そちらのせいかもしれん」

コイチロウさんが言う。

「私もアキツシマの血を引いているけど、何も見えませんよ」

ネイサンさんが反論した。


「ネイサンは、ドワーフの血を引いているようには全然見えないぞ」

チョイスさんが言う。まあ、細身のネイサンさんに、ドワーフの面影はない。

「遠いご先祖の話だからね。アキツシマ人はエルフの血も入っているとも言われているし」

初耳である。


「本当なんですか?」

僕は側にいたコサブロウさんに聞いた。

「本当だ。世界の混乱期にアキツシマでは人口が大きく減り、生き延びるために異種族同士血を交えた。今のアキツシマ人には、人間の他にエルフとドワーフの血が混ざっている。

だからアキツシマ人はドワーフのように手先が器用で、エルフのようになかなか老いぬのだ」

コサブロウさんは胸を張る。


「実際、どの程度長生きなんでしょう?」

ネイサンさんが聞いてきた。まあ、ネイサンさんはアキツシマ人の血を引いているらしいし、気になるだろう。


答えたのは、コイチロウさんだ。

「エルフのように長寿は大袈裟おおげさだな。知り合いは、アキツシマ人は大陸人より平均で5~10年程度、長生きするようだと言っておる。

まあ、百を越える者はアキツシマ人でも稀だ」


「悪口もあるぞ。アキツシマ人は、ドワーフの血を引くから背が低く、エルフの血を引くからヒョロガリだとさ。

良いことばかりでもない」

コジロウさんがまとめた。


そう言う割には、三兄弟は背も高いし、筋肉ガッチリ付いてるけどね。



二層は、臭い以外は平穏そのものだった。石畳みにはわだちがある。落とし穴がない、安定したルートであることを示している。

アンデッド達は聖属性は本当に嫌うので、まずこの結界には近寄って来ない。

一応、聖水も持って来たがこの分では使わずに済みそうだ。



「ゾンビです」

キンバリーが言った。


通路のわだちの上にゾンビが佇んでいる。ボーッと横をむいて立っているように見える。ほとんど意思を感じない。聖属性を恐れる気力(というのも変だが)すらない様子だ。


「しょうがないな。避けるぞ」

チョイスさんが言う。

「ゾンビぐらい叩き潰して踏み潰せば良いじゃないか」

今まで黙っていたトムさんが発言する。

「うるさいな。俺はあの臭いが荷車に付くのが嫌なんだよ。デイジーも嫌がる」


「このままゆっくり進みましょう。結界でいけます」

僕は言った。

「おいおい、大丈夫か?」

「ゆっくり行けば大丈夫です」

はっきり言って、わだちの真ん中のゾンビは邪魔である。後から来る皆のためにも片付けてしまおう。


結界の縁をゾンビに接触させていく。そのままゾンビに結界を押し付ける。

ゾンビはみるみる形を崩す。


ジュッ。

そんな音を立てて最後は灰になった。肉片も残っていない。

よし。きれいに清潔に片付けたぞ。


「……ちょっとかわいそうだったかもな」

チョイスさんが言う。

そう言われましてもね!


その後の二層の通路は特に問題はなかった。

臭い以外は。


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