第32話 ライバル
コイチロウさんは、スカウト初級クラスは問題なくこなしているそうだ。
正式に『風読み』に入会することも勧められたらしい。
キンバリーも『風読み』と『青き階段』の二重籍だし、ありな選択肢である。
僕も問題ないと答えたが、これは強がりが入ってる。
今日は、ロープを使った壁面登りだった。足を壁で支えながら、ロープを伝って登る。腕力をすごく使う。お昼だって言うのにもうクタクタだ。
先生からは、「いざと言う時は、周りに助けてもらう勇気を持て」とこっそり言われた。切ない。
まあ、先生もフゥーフゥー言いながら登ってたよね!
『雷の尾』のメンバーは、今日はホリーさんはお休みで、代わりにギャビンさんが来た。
「ホリーが魔術師クランに行くっていうから俺が代わりに来たッスよ。イリーク1人で他所に出すのは不安スからね」
ホリーさん、やる気だなあ。僕も負けていられない。
「ホリーは魔術の才能はたいしてないが、努力次第でもう少しマシになるかもしれん」
イリークさんの毒舌は相変わらずだ。
バッチーン。
ギャビンさんのハリセンがイリークさんの頭を叩く。もしかして『雷の尾』のパーティーメンバー全員が持っているんじゃないだろうか?
「まあ、ギャビンよりははるかに才能がある」
「うるせーよ」
「そういやイリーク、近い内に潜るッスよ。第二層。聖水の手配が出来次第だってハロルドさんが言ってるッス」
『雷の尾』は第二層を攻略する気らしい。
「イリークさんは、聖属性も使えるんですか?」
「うむ。使えるぞ」
イリークさんは、得意気に返事をする。
「コイツは、魔術は一通りこなすんス。多少雑っスけど」
「それって、全属性ってことですか?」
「一通りと言えば、全属性と言うことだろう」
イリークさんは、ますます得意気だ。
鼻高々なイリークさんは少しむかつくが、全属性魔術は自慢するに足る資質である。
「確かにイリークは一通り使うスけど、苦手な属性が結構あるッスよ。あんまりコイツの自慢を真に受けない方がいいッス。
あと、最近部屋で難しい顔して物を空中に浮かせる魔術の実験してるンすよね。あんまりうまくいってるように見えないッスけど」
「なぜ、それを言う」
「イリークの真似をして、真実を語ってみただけッスよ」
イリークさんは僕の「力場壁」をマスターする気のようだ。
しかし攻撃魔術をほぼ全属性使える
……いいだろう。受けて立とうじゃないか。
軽い足音が近付いて来た。
「ちょっと、そこのあなた!」
予測はしてたが、現れたのは、白金の髪の万年美少女ことレイラさんだ。
「クラン・マスター、お早いお帰りですね。第三層までひとっ走り見てくるとおっしゃってたじゃないですか?」
先生が言う。
「シーッ、秘密だって言ったでしょ」
レイラさんは周りをキョロキョロ見回す。
えーと、これはあれだ。キンバリーが潜っても大丈夫そうか見てきたんだな。
「えーと」
「キンバリーには言いませんから安心して下さい」
「そこの2人」
「俺は言わないッスよ。ただ、このエルフが言わないかは約束出来ないッス」
「真実を語るのが私の流儀だ」
「ああ、もう!お昼御飯奢るからキンバリーに話さないで!」
「ギルマスは本当にキンバリーちゃんがかわいいんですね」
先生がニヤニヤしながら言う。
「うるさい!あなたこれ以上太ってロープ登り出来なくなったらクビだから!」
先生は顔をひきつらせた。
「ねえ、ギャビンだっけ?王国の冒険者ギルドでスカウトをやってたのは本当なの?」
「そうッスけど」
「風読みで講習をやる気ない?他の
「!」
2万ゴールドは、ダンジョンに潜って魔石が出れば、すぐに稼げる。しかし、命の危険がなく、装備の準備もいらない町中での1日の稼ぎとしては破格の報酬である。
「正当な報酬だと思ってるわ。是非お願い」
レイラさんは、ギャビンさんの手を握り軽い上目遣いだ。
「あっ、はい。喜んで、いや『雷の尾』のスケジュールに問題がなければいつでもやるッス」
結局、お昼御飯はコイチロウさんも先生も含めて全員レイラさんに奢ってもらった。あっさり味だけど、美味しかった。先生は泣く泣くお代わりを諦めていた。
「『青き階段』の皆が来てくれてキンバリーは喜んでたわよ。『風読み』の売上に貢献できたって。
キンバリーは無愛想だけど、いい子だから、よろしくね」
先生、言ってることは良いですが、僕のおかず狙ってません?
授業が終わった後、前のクランの友人ロランドに声をかけられた。
「『暁の狼』について情報があるんだ」
僕はロランドと飯屋に入る。今日も肉を中心にガッツリ頼む。情報料だ。
一通り食べて後、ロランドが話し出した。
「前も言ったけど『暁の狼』は解散した。解散前に、バーディーとサットンは資金についてクランの人に相談したらしい」
ダンジョンに潜る準備には金がかかる。資金がないと冒険者を続けられなくなるのだ。
「うちのクランの人は、別のクランを紹介したって言ってた。なんか装備代とか持ってくれるクランなんだって」
新人冒険者の装備代を持ってくれるなら、ずいぶん良い待遇だ。
「何と言うクラン?」
「確か『鋼の仲間』だって」
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