第31話 閑話 ホリーの道 その1
ホリーは『雷の尾』の中での自分の役割について、けっこう悩んでいた。
兄を追いかけて、冒険者になった。
兄が自分を見捨てるなどとは思っていない。だが、パーティーの中でもっと役に立ちたいと言う気持ちは常にあった。
ロイメに来て驚いたのは、中級エリクサーがすごく安いことだ。それ自体は良いことだが、初級治癒術を使うホリーとしては、自分の価値が減じたような気もする。
ホリーは『青き階段』の受付の前にいた。
今、受付に座ってるのは確かミシェル。ホリーと歳は同じくらい。
「ええと、クリフさんから聞いたんだけど、受付のユーフェミアさんが冒険者としてのいろいろな問題の相談に乗ってくれると聞いて……」
我ながら何を言っているんだろうと思う。そもそもホリーに取って冒険者
「ご相談ですね。ユーフェミアさんでよろしいですか?」
ミシェルはびっくりするほど話が早かった。
ここでホリーはハッとする。
「トビアスさんと言う方も相談に乗ってくれると聞いたんですが」
「トビアスさんですか。相談に乗ってくれるとは思いますが、多分有料になりますよ」
結局、ホリーはユーフェミアとトビアス両方に相談に乗ってもらう事にした。
どんな情報でも欲しかったのだ。
ミシェルからはトビアスさんは、有料ですよと念を押されたが。
『青き階段』のロビーでホリーは2人と対面する。
余計な交渉はいらない。ストレートに話す。
ロイメに来て、エリクサーが安く、初級治癒術しか使えない回復役として悩んでいること。
修行すれば、初級の風魔術は使える可能性はあること。
弓から、よりダメージの出るクロスボウに持ちかえることも考えていること。
「ともかく、ロイメはびっくりするほど様々なチャンスがあるんです。だからこそ迷ってしまって」
「それだけ弓が射れて、治癒術が出来て、さらに攻撃魔術を使いたいか。贅沢な悩みだねえ」
トビアスが言う。ホリーはちょっとムッとする。
「トビアスさん、あなたはお金をもらって相談を受けてるんですよ。立場をわきまえて下さい」
ユーフェミアが眼鏡をかけ直しながら言う。
「いや、失礼した。ホリーさんはパーティーで十分役に立っていると思うよ」
トビアスは言った。
ユーフェミアが話を引き継ぐ。
「初級だろうと治癒術が出来る冒険者はロイメでも引く手あまたですね。特に歩ける冒険者は」
「歩ける」と言う言葉の意味がホリーには分かる。かつて、冒険者を始めた頃、荷物を持って、長距離を歩きぬくのがたいへんだった。
「イリークが上級の治癒術を使いますし、初級の治癒術なら、兄さんも使えるので」
ホリーは言う。
「「贅沢だねえ(ですねえ)」」
ユーフェミアとトビアス、2人の声が重なった。
「失礼しました。ロイメでも治癒術を使える方が3人いるパーティーはあまり聞きません」
ユーフェミアは居住まいを正す。
「そうですね、まず私から提案させて頂きます。
ご存知だとは思いますが、エリクサーは治癒術を完全に代用はしません。
即効性は、治癒術が上です。痛みも速やかに消えます。
また、イリークさんの治癒術ですが……、彼が有能な癒し手だとは思えません。魔力量に任せて、おおざっぱな治癒をかけているのではないですか?」
図星である。
「よくわかりましたね。大怪我したメンバーがでた時は、イリークがそれこそおおざっぱに治癒術をかけてから、私か兄さんが仕上げます」
一同ため息をつく。
ユーフェミアは提案を続ける。
「ロイメの錬金術ギルドと一部の神殿では、エリクサーと治癒術を併用する医療が研究され、治療院で現実に行われています。
私も詳しくは知りませんが、2つを併用することで魔力とエリクサーの消費を抑えることができ、エリクサーの使い方次第ではより大きな怪我にも対処できるそうです。
うちのクランにも学ばれている方がいます。
それを学ばれてはいかがでしょう?
正直、イリークさんが治癒の専門家になれるとは思えません」
トビアスは別の意見があった。
「パーティーにとって大切なのは攻撃力。これは間違いない」
軽い感じで話し出す。
「しかし、ホリーさんの攻撃力アップの手段としては、風の攻撃魔術より肉体補助魔術をお勧めしたい」
「肉体補助魔術は使った反動でダメージが来ることがあると聞いたことがあるのですが?」
「レイラさんを見ろ。ガンガン使っているだろ?あれは、肉体補助魔術を使いながら、治癒術で回復してるんだよ。はっきり言って
治癒術と肉体補助魔術は属性が近いと言うし、ホリーさんもいけるんじゃないかな。
少なくとも魔術師クランで調べる価値は十分にある。
強弓を引いて、一撃大ダメージ。ロマンだねえ」
「私は最新治癒術をお勧めしますね。冒険者を引退した後のことも考えるべきです。潰しが効くのは治癒術です」
「レイラさんを見ろ。引退した後、ますます活躍してるじゃないか。ロイメ一の弓使い、これに勝る称号はない」
(2人同時に相談に乗ってもらったのは失敗だったかも……)
ホリーは大量の情報にいささか圧倒された。
「お2人に相談して、どうでした?」
ミシェルは言った。
「なんかすごい人達だなあって」
冒険者は案外狭い世界で生きる者も多い。しかし、2人は自分の専門外のことも良く知っているようだった。
ちょっと、いやかなり圧倒されたけど。
「相談に乗ってもらって良かった。いろいろ考えてみる」
とりあえず、面倒くさがらずに魔術師クランに行こう。
正直、敷居は高くて気が進まなかったのだが。
自分自身を知らなければ、何も始まらない。
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