第30話 暁の狼はいずこへ

「ごめん、俺の話ばっかりして。知ってると思ってたんだよ」


まあ、僕は『暁の狼』を追放された後、すぐに『青き階段』に移籍して、メンバーを集めたり、ダンジョンに潜ったり、武術大会の準備を手伝ったりしていた。

でも、『暁の狼』の解散早すぎないか?


「俺もダンジョンにも潜ってたし、詳しいことは知らないんだよ。

『暁の狼』は、クリフが抜けた直後にスカウトの人が抜けた。その後バーディーが新しいメンバーをいれダンジョンに潜るって言ってるのを聞いた。そして、気がついたらいなくなっていたんだ」

「そうなんだ……。みんな……もうクランにはいないわけ?」

「スカウトの人はいる。バーディーとサットンはいない。メリアンも最近見てない」


バーディーとサットンはロイメ出身じゃないし、メリアンは不安定な所がある。僕はちょっと心配になった。

とはいえ、僕は追放された身である。僕が心配してもしょうがないし、彼らもそれを望まないだろう。


「教えてくれてありがとう。僕にはもう関係のない話だよ」

「まあ、そうだね。けっこうひどい別れ方をしたみたいだし。

『暁の狼』については、うちのリーダーがよく言ってたよ。攻撃力が足りない。魔術師を2人も入れて、金がかかり過ぎるって」



ロランドと別れて、僕は1人で夜道を辿る。

『暁の狼』はもうない。


ある種の解放感があった。僕はもう過去の亡霊に悩まされる必要はないのだ。

ザマァだ。

僕をあんな風に追放するからこうなる。


同時に後悔がある。僕は『暁の狼』のパーティーの中で最善を尽くしたと言えるだろうか?

そこには、間違いなくたくさんの失敗がある。


僕は頭を振った。考えてもしょうがない。当時の僕には出来なかったのだ。




『風読み』の次の日の講習は、実技が主体になった。ここでクラスは二つに別れる。


スカウト初級クラスには、ロランドのように将来スカウトプロを目指す奴も、僕のようにダンジョンでもう少し機敏に動けるようになりたい奴もいる。そんな訳で、2グループに分けるのである。


僕は当然トロい方のクラスである。キンバリーとのコンビを期待されるコイチロウさんは上級クラスになる。

イリークさんは僕と同じクラスに来た。そして、ホリーさん保護者も付いて来た。

あと田舎から出てきたばかりぽい若い男が2名。都合5名だ。


今日はロープ渡りの講習である。講師は元スカウトだと思われる中年の女性だ。動きは機敏だが、かなり横に太い。


場所は地下の枯れダンジョンだ。

この前キンバリーがやったように、斜めに2本ロープを張る。これを渡るわけか。救いは、前回と違って下に落とし穴がないことである。


「ロープ渡りは練習すれば誰でも出来るようになるスキルです!!」

先生は笑顔で説明する。あの、先生、既にロープの上に立っているんですけど。おかしいでしょ!


「手で体を支えるのではなく、足で支えましょう!」

「体の軸を意識して!」


何度か渡ってようやくコツがつかめて来た。


2人組は、僕の予想通り田舎からロイメにやって来たばかりだった。腕力を買われてとあるパーティーに入ったはいいが、ロープ渡りがどうしてもできずに、このクラスに2人丸ごと放り込まれたそうだ。

「リーダーからは出来なきゃパーティー追放だって言われているんです」

悲壮感を出しながら言う。追放経験者のぼくとしては、ガンバレとしか言い様がない。


ホリーさんは最初から上手だった。彼女はそもそもこのクラスにいる必要はないんだろう。

イリークさんはなんとも言えず変な渡り方をしたが、何故か渡り切ってしまった。先生もお手上げ状態のようだ。


最初下手だった2人組は後半ドンドン上手になった。僕からすれば裏切り者だ。



「ではいよいよ実戦ね!」

先生に案内されたのは、落とし穴の上に張られたロープのある場所。

向こう岸まで遠い。多分この前ダンジョンで渡った落とし穴より遠い。

一応、下にネットは張ってある。しかし、想像力過多な僕はその下の地面を見てしまった。ふかい・・・・


先生はスタスタとロープ渡りながら言う。

「さっきのロープも今度のロープも同じです。大切なのは体の重心。手はサポートです」

言うは易し行うは難し。


「この高さなら空中歩行の魔術師を使った方が楽だな」

イリークさんが言い出した。

「今回は魔術を勉強しにきたんじゃないでしょ!」

ホリーさんが言う。


「空中歩行!レイラさんも使えないし、ワタシ見たことないわ。是非見せて!」

先生が目を輝かせて言った。


なんだかわからないけど、空中歩行の魔術を披露することになった。空中歩行はマナの消費が激しく、疲れる魔術である。ただ、たまには使わないと、魔術スキルも伸びないし、落とし穴渡りを経験しておくのも良いだろう。


まずイリークさんが披露した。

「風歩行」

下から強い風が吹き上がり、イリークさんはその上に乗った。長い上着が大きく翻る。

何度か方向を調整しながら渡りきる。


「スゴい!こりゃロープ渡り要らないね!」

先生は大興奮だ。


「君も出来るの?」

「はい」

疲れるから、あまりやらないんだけど、ここは枯れダンジョンだし、大丈夫だろう。


マナを術式によって練り上げる。慎重に、丁寧に。

「力場壁」


空中に力場を曲げる薄い膜を生み出す。衝撃反射を大規模にした術だ。


僕は空中に1歩を踏み出す。そして、2歩3歩。そして何事もなく渡り切った。


「え、えっと、渡っちゃった?」

先生が言った。

渡ったよ。フゥー疲れた。


イリークさんが落とし穴に近づき力場に触れようとする。しかし、力場はイリークさんの手に触れる前に消えた。

わざとじゃない。これは疲れる術なんだ。


「イリークの空中歩行とはずいぶん違うわね」

ホリーさんが言った。

「私の術は風魔術だが、クリフの術は、衝撃反射の応用だな。衝撃反射をこんな風に使うことも出来るとは」

イリークさんが解説しているが、こちらは突っ込む余力はない。しばらく休ませて。


「ふうん、どっちがスゴいの?」

先生は、呑気に聞いてきた。

「この落とし穴を渡るだけなら、私の術の方が効率が良いが。ただ……」

「ただ……?」

「伝説に語られる空中歩行はクリフ・カストナーの術の可能性が高い」

……そうなの?



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