第16話 ダンジョンの恵み

今張るべきはどの結界か?それが問題だ。

そんなことを考えている内に戦闘は始まっている。


ザキッ。コイチロウさんの長槍がジャイアント・ムカデセンタピードをとらえる。

背中の甲羅に当たる。傷はついたが、内臓は無傷っぽい。

ムカデは槍の脇を周り込んでくる。


「兄者!」

ガスッ。

コサブロウさんの槍がムカデの頭を払いのける。一旦下がるが、諦めた様子はない。


ジャイアント・ムカデセンタピードの脚には毒がある。確か接触毒だったはず。


シュルシュル。再び近付いて来る。


「衝撃吸収」

僕は結界を張った。考えている時間が無駄だ。とりあえず、ダメージを軽減することに専念する。


コジロウさんが槍をムカデの体の下にいれ、掬い上げるように使う。ムカデは頭部を仰け反らせ腹を見せる。

そこにコイチロウさんの長槍が柔らかい腹をとらえる。胴節を一つ串刺にした。


シュルシュル。ジャイアント・ムカデセンタピードは声にならない声を上げる。


コジロウさんは腹側にもう一撃を加えようとするが、ジャイアント・ムカデセンタピードは生命力が強く、少々のことでは死なない。体をくねらせながら、弾きかえそうとする。


「風結界」

風結界はそれほど力の強い防御ではない。だだし、マナではなく物理的な盾として出現する。


ジャイアント・ムカデセンタピードは予想外の風の壁にちょっと戸惑い、

その瞬間コサブロウさんの一撃が顎の下をとらえ、

それが致命傷となった。

多分。


その後が大変だった。

ジャイアント・ムカデセンタピードはものすごくしつこかった。

致命傷を食らい、明らかに死にかけているが、なかなか絶命しない。

そして、魔物を絶命させないと魔石は取れないのだ。



「ようやくくたばったか」


「しつこいねえ」

途中からは、残りのメンバーも加わってようやく絶命させた。


「魔石、出ませんでした」

顎の辺りを捌いていたキンバリーが言った。


「「「あー……」」」

ため息が重なった。


「でも、ジャイアント・ムカデセンタピードの傷のない甲羅は値段がつくんだよ」

ダレンさんが言った。軽く良質な盾の材料になるそうだ。



ダレンさんを中心に解体を始める。魔石だけを狙っても仕方がない。素材も含めてダンジョンの恵みである。

傷がついている物もあるが、何枚かは素材として売れそうだ。


「イタッ」

コサブロウさんが言った。解体の途中、ジャイアント・ムカデセンタピードの脚が刺さってしまったようだ。


「注意が足らぬぞ、コサブロウ!」


傷口を切開し、毒消の薬草を塗り込み「染みるのお」、中級ノーマルエリクサーも飲ませる。


「かたじけない」

本人は恐縮していたが、体のケアが優先だ。コサブロウさんも含めて三兄弟にはまだまだ前線で戦ってもらわなければならない。



一仕事終えて、北の広場に戻る。ジャイアント・ムカデセンタピードがいなくなったせいか、広場の状況は変化していた。


「ジャイアント・カマキリマンティス、三匹もいるぞ!」


「ここで会ったが百年目。我が槍の露となれ」


「魔石来い来い来い!」


……ジャイアント・カマキリマンティスはあっさり討伐された。

討伐出来たのは2体。3体目は逃げられたが、一つ魔石が出たし、良しとしよう。



その後、北の広場を中心にあちこち通路を回り、何体も雑魚モンスターを狩る。

普段なら雑魚モンスターとは言え、こんなに多くはいない。

また北の広場にはライバルになる冒険者が、逗留していることも多い。


ジャイアント・ムカデセンタピードがいたせいで大人しくしていたモンスターがワチャワチャと出てきたようだ。


「冒険者連中も、ジャイアント・ムカデセンタピードが出てきて、一旦退却したのかもしれないな」

トビアスさんは言った。


その日の午後を丸ごと狩りに費やした。

魔石は、ジャイアント・カマキリマンティスから出た比較的大きな物が1つ。それ以外の雑魚モンスターから出た小さい物が10個ほど。かなり小さい物もあるが、大漁と言えるだろう。


「大きな魔石は、Lv2相当じゃないかな」

トビアスさんは言った。

一層からはLv1の魔石が、二層からはLv2の魔石が出ると思われているが、そんなに単純なものではない。

魔石は出ないことの方が多い。また、強い魔物モンスター(これを冒険者用語でボス・モンスターと言うのだ!)からは、まれに階層ごえの魔石が出ることもある。


今回は、幸運だったと言えるだろう。



僕達は三日目にゲートに向かう帰路についた。


モンスターの素材を含め荷物は、平等にではなく、コジロウさん、コサブロウさん、トビアスさん、ダレンさんが分担して持つ。


キンバリーとコイチロウさんは索敵に専念する。

僕も持つと言ったのだが。

「人には向き不向きがあるぞ」

コサブロウさんは言った。


行きにあった落とし穴はきれいさっぱりなくなっていた。

濃密なマナの気配もない。

皆で体をロープで繋ぎ、おっかなびっくり通ったが、なんともなかった。


ダンジョンはそう言う場所なのだ。

僕達は、ダンジョンの神・ラブリュストルの幸運に感謝しつつ、南へ向かった。

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