第17話 閑話 雷の尾

「さて、どこのクランに入るか」

雷の尾リーダー、ハロルドは呟いた。


冒険者ギルドで冒険者登録は終えた。しかし、ロイメで冒険者として活動するためには、冒険者クランに入らないと埒があかないのは事実のようだ。


各クランごとに会費も違うし、サービスも違う。

安かろう、悪かろうのクランもあれば、ハロルドの基準ではびっくりするような会費を取るクランもある。

そう言うクランはサービスも良いが、そのような高級クランに所属していること事態が冒険者のステータスになっているようでもある。



「そこそこのサービスとそこそこの会費となると、『青き階段』か『冒険の唄』か……」


「『青き階段』は、しばらく前に、有名パーティーの離脱があったらしいですね。移籍は時々あることのようではありますが。何が原因かは分かりませんでした。一方で、町の市民からのクランの評判は悪くないです」


これはウィル。ある時は盾士、ある時はクロスボウ持ち。節操なく便利な男だ。パーティーの古参でハロルドにとっては、頼れる相談相手である。


「『青き階段』はお勧めですよ。聞き込みによると、受付にかわいい女の子がいるらしいッス」

これは、スカウト《地獄耳》のギャビンだ。


「何言ってるのよ。受付なんて男でも女でも同じでしょ」

弓士で治癒術もこなすホリー。ハロルドの妹でパーティーの紅一点である。


「それこそ何言ってるんスか!受付が女の子!これは冒険者の憧れッスよ。さすが冒険者の都ロイメ、俺らの夢をあっさりかなえる!しびれるッスよ!」


ギャビンは軽い事を言っているが、中身はそれなりに誠実な男だ。

そもそもの拠点変えの直接のきっかけは、ギャビンの失恋だった。

まじめに交際していた女性がいたのだが、振られたのだ。

冒険者より、固い仕事の男が良いと言われて。


「まあ、あのハーフエルフさんは美人でしたね」

ウィルが混ぜッ返す。


「俺は、ハーフエルフより、人間の女の子がいいッスよ。受付にちゃんと人間の女の子がいるのも間違いないッス」



ギャビンの失恋が最後の一押しになったとは言え、ハロルドは拠点の移動は、以前から考えて、古参メンバーには相談をしたこともある。


以前いた迷宮都市にあったのは、四層からなる小規模なダンジョンだ。

そして、その都市での冒険者の地位は、残念ながらあまり高いとは言えなかった。


溢れる心配がほぼないダンジョンなので、町の市民も、冒険者の存在をそれほど重要視していなかったのだろう。


『雷の尾』は冒険者としてそこそこ成功していたが、町ではずっと半端者扱いである。



その点ロイメは、冒険者の地位が高く、成功した冒険者の中にはギルドや町の政治に関わる者もいると聞く。

もちろん競争も厳しい。

しかし、そこまで成功していない冒険者にも、再就職の道はあるようだった。


「一つのクランで揉めても、別のクランへ移籍できるのは良いな」

これを言ったのは、エルフのイリークだ。


「お前はしょっちゅう揉めてたもんなあ!?」

このツッコミは槍士のダグ。

このパーティーで一番若いが、戦いの才能は一番あるとハロルドは踏んでいる。


「本当の事を言って何が悪い」

イリークは何処吹く風だ。


「本当の事を言われると人間は一番傷つくのよ」

ホリーが言う。


パーティーメンバーはイリークに「口は災いのもと」と口を酸っぱくして言い続けて来たが。しかしと言うか、残念ながらと言うか、あまり効果はなかった。

別のエルフに、「エルフってのは皆こうなのか?」と聞いた事もある。

「アレをエルフの代表にしないで下さい!」と青筋を立てて返事をしてきた……。


まあ、イリークが冒険者になったには、それなりの理由があったのだろう。

歯に衣着せぬ毒舌を別にすれば、魔術師としてパーティーにとっては十分過ぎる実力者である。


「ハーフエルフと一緒にいた魔術師の青年は『青き階段』は候補に入れて良いと言ってたな」


「ふむ。あれは正直者の顔だ。私が言うのだから間違いない」

イリークが言う。

不必要なまでの正直者のイリークが言うのなら、そうなのかもしれない。



ハロルドはウィルにもイリーク言わなかったが、拠点を移動したい理由がもう1つあった。

それは妹のホリーだ。


ホリーはハロルドを追いかけて冒険者になったが、このままで良いはずはない。

ホリーが次の人生を歩むのに必要なのは、同性の友人だとハロルドは考えている。だとしたら……。


「女性の受付は良いかもしれん」

ハロルドは口に出した。


「あのハーフエルフさん、美人でしたね」

ウィルがまた茶々を入れてく来る。


「そう言う意味ではない。しかし、行列で会ったのも人の縁だろう」


「兄さんがそう言うなら、とりあえず行って見ればいいじゃない。クラン・マスターがどんなやつなのか、受付が本当に女の子なのか、確認してからでも遅くないてしょ?」


「そうだな」

ハロルドは立ち上がった。足元にあった大きな盾を背中に背負う。


ハロルドは盾士、正確に言うと魔法盾士(魔法剣士と言う言葉があるが、その盾バージョンだ)なのだ。



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