第15話 大物はどこだ?

ダンジョンに潜って二日目。

見張りを立てて交代しながらだけど、休憩はきっちり取る。明らかに『暁の狼』時代より長い。

休める時にきちんと休むことが重要だ。これは、ダレンさん談。


朝、小部屋の中で照明魔術を強めにかけて、頭をスッキリさせる。


C級モンスターなら、ジャイアント・カミキリムシロングホーンビートルかジャイアント・カマキリマンティスあたりだ。

地図を床に広げて、今日の予定を確認する。

ここより北は、道は複雑にいりくんでいる。



「今日の探索では、モンスターの気配を追跡するのと同時にマッピングが非常に重要になる。キンバリーがメインだが、サブもいた方がいい。誰か出来るやつはいるか?」

トビアスさんが聞いた。


「僕がやります。『暁の狼』で少しだけやったことがあります」

レイバンが加入するまで、マッピングは僕がやっていた。まあ、噴水広場の近くだけど。


「私一人で大丈夫です」

ここでキンバリーが反論する。


「ダメだ」

トビアスさんはにべもない。

「第1に、ダンジョン探索は可能な範囲で安全策を取らなければならない。

第2に、リーダー・クリフ君の決断だからだ。今、リーダーの決断に異議を唱える必要があるのか?」


「…………分かりました」



二日目は移動スピードが大幅に落ちた。定期的にマッピングのすり合わせを行う。キンバリーはいつも以上に愛想が悪い。

バーディーは、こういう時に一発ネタをかましたりする。でも、残念ながら、僕はバーディーじゃない。



「マナの気配が濃い。注意して」

僕はキンバリーに言う。


「……分かってます」

ダンジョンで奇妙にマナが濃い場所は、罠の多発地帯なのだ。


歩くスピードはいよいよ遅くなる。

「落とし穴です」

キンバリーは言った。

確かにそこだけ、石畳が新しい。



落とし穴は作動させてしまうに限る。見える落とし穴なぞ単なる溝に過ぎない。だだし、飛び越えられればだ!


どうしよう。僕は途方にくれた。

幅は、僕の身の丈の倍ぐらいあるだろうか。

キンバリーはひらりと飛び越えた。三兄弟がそれに続く。

やけくそで飛び越えるべきか。あるいは空中歩行の魔術を使うべきか。あれ、疲れるんだよな。


「ロープを張りましょうか?」


「……お願いします」


キンバリーは、手際よく左右の壁に鉄釘を打ち込みロープを2本斜めに張る。

体重を支える足側の1本と、手で持ってバランスを取るための1本だ。


なんとか渡ったけど、凄く怖かったよ!


ダレンさんが、「安全第一」と言って僕の後にロープで渡ったけど、僕よりだいぶ手際足際がいい。

トビアスさんは、「俺はまだ行ける!」と言って飛び越えた。オッサン無理するな。


「ゴメン。手間かけた」

僕は言った。


「大丈夫。スカウトの役目だから」

キンバリーは珍しく笑顔でこたえた。


「パーティーメンバーに役割を与えて自信を持たせるのも、リーダーの役目だよ」

ダレンさんは、肩を叩きながら言ってくれた。

今回僕には、そんなことを考えている余裕はなかった。単なる過大評価である。



落とし穴を超えてから、モンスターが増えた。残念ながら、Cランクモンスターではない雑魚モンスター(コサブロー談)だけど。

ほとんど三兄弟の誰かの槍の一撃、悪くて二撃で倒した。この三人は攻撃力は、半端ない。

そして、残念ながら、最初の1つ以来魔石は出ていない。


「大物は何処におる?」

コジロウさんが馬鹿でかい声で言った。通路に声が反響する。


「北の広場が近そうです」

反響に耳を澄ませていたキンバリーが言った。

「もう少し先かと思っていましたが、ダンジョンが少し変化しているのかも」


ダンジョンは少しずつ変化する。特に人が来ない場所で顕著だ。

新しい落とし穴ができたり、通路ができてたりする。



通路を斜め左に曲がると、道の先が明るい。間違いない。北の広場だ。


北の広場は、噴水広場の半分以下の広さだ。明りは天井に密集して生えている光ゴケである。

中央には綺麗な湧水がある。

ひっそりと静かで、冒険者の気配もモンスターの気配もない。


「おかしい。ここにはたいていジャイアント・カマキリマンティスの一匹や二匹いるんだが」

トビアスさんが言う。


シュルシュル。静寂の中に音がする。

シュルシュル。凄く嫌な予感がする。僕は振り向いた。


「ジャイアント・ムカデセンタピードだ!」


ジャイアント・ムカデセンタピードは、大きく、その割に素早く、毒があり、生命力が強く、一層ダンジョンのモンスターの中では一番タチが悪いものの一つだ。

取り柄は奥の方にしか生息していなくて、あまり出会わないこと。

残念ながら、いま会ったけど。


「一旦通路に逃げるぞ」


トビアスさん、コイチロウさん、キンバリー、僕、コジロウさんとコサブロウさん、ダレンさんの順に手近な通路に逃げ込む。


これで一安心と思いきや。

「通路まで、入ってきたじゃないですか!」


「そりゃ、細長いムカデだからな」


「陣形を作って迎え撃つぞ。我ら三本の槍に敵はなし!」

コイチロウさんが声を張り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る