第12話 探索開始
行き交う神殿関係者、休憩する冒険者、そして行商人。
噴水広場はいつもの通りだ。
ゲートから噴水広場までは、ダンジョンと人の世が混じり合った場所なのだ。
「ちょっと早いけど、弁当買うか」
トビアスさんが言った。
これもダンジョンに潜る冒険者の定番パターンだ。ここではまだ保存食には手を付けないのが普通だ。
トビアスさんお勧めの弁当は以前食べてたものよりちょっと高かったけど、確かにうまい。
脇を見ると、コイチロウさん達は二個目を買っていた。キンバリーは空になった弁当の包みをじっと見つめている。
「もう1個買っても良いんじゃない?」
「駄目です。お腹が重いとスカウトとしての仕事に支障が出ます」
そうなのか。
「『青き階段』にAランク冒険者はおるのかな?」
コサブロウさんは弁当を食べながら話している。冒険者ランクにまだこだわっているようだ。
ダレンさんが付き合っている。
「副ギルマスのホルヘさんはAランクです。他のAランクは……」
ダレンさんは言葉を濁した。
トビアスさんが地図を見ながら言う。
「別に隠すようなことじゃないだろ。しばらく前にAランク冒険者を含むパーティーの離脱があったんだよ。引き抜かれてね。
クラン結成からいた連中だったんだが。
でも、冒険者クランとしては、看板になるパーティーは必要なんだ。
それで今度は『青き階段』内で有力パーティーを育てようと言う話になったんだ」
「それで僕に声をかけたんですか」
「候補に入れて、調べていた内の一人だった。パーティーが解散したと聞いて、他のパーティーやクランに取られる前にと焦って手紙を書いたよ」
そして、差出人のない手紙が僕に届いたのか。人の縁とは奇妙なものだ。
さて、本当にいよいよダンジョン探索だ。問題はどの方向へ向かうかだ。
今回は一層のみ、2泊3日の予定だ。噴水広場から四方に通路は伸びており、出現するモンスターにも多少違いがある。
「Cランクモンスターを狩るぞ」
コサブロウさんが息巻いている。
「Cランク指定モンスターなら、北側に多く湧きます」
キンバリーは言った。
一層にはジャイアントスパイダーなどの虫系モンスターとマイコニドなどのキノコ系モンスターが多い。あともちろんスライムも出る。
そして、出現するモンスターは、南が最も弱い傾向がある。そして、東、西、北と強くなる。予定では、今回は安全策を取って西に向かうつもりだった。
僕は冒険において予定変更は好きではない。『暁の狼』でも行き当たりばったりに行動しようとするバーディーを一番止めていたのが僕だ。
「Cランクモンスターだ!Bランクでも良いぞ!」
コジロウさんもノリノリだ。
僕は西側には以前行ったことがある。西側の有名モンスターがジャイアントスパイダーだ。
今の『三槍の誓い』で討伐できるだろうか?……余裕だな。
僕達『三槍の誓い』のメンバーの望みは、冒険者として名を上げ、ダンジョン深層にたどり着くことだ。慎重さは大事だが、慎重過ぎてもチャンスを逃す事になるだろう。『三槍の誓い』は、『暁の狼』とは違うスピードで成長するのだ。そうでなくてはならない。
「行こう。北だ」
「「「おおー」」」
三兄弟が歓声をあげる。
キンバリーは頷く。
「了解」
トビアスさんは言った。
ここからは隊列を組む。最後尾はトビアスさんとダレンさん。ついで僕。その前にコサブロウ、コジロウウ、コイチロウの三兄弟が並ぶ。
三本の槍の内、コジロウさんとコサブロウさんの槍は短くしたが、コイチロウさんの槍は元の長さのままだ。
ダンジョンではリーチの長さが有利になることもあるだろうとの配慮からだ。
そして、先頭はキンバリー。なお、キンバリーは左手でコイチロウさんの長い槍の穂先近くを持つ。
二人は槍を使って合図を送り合っている。
一層北側はひたすら気の滅入る通路が続く、薄暗いダンジョンだ。所々に光ゴケが生えているが、人間の目には暗すぎる。
明かりの魔術を3つ、先頭、真ん中、最後尾に使う。
距離は懐中時計で時間を計りながら推測する。そのため、スカウトは同じペースで歩く技術を学ぶ。
時計を持てれば初級パーティー卒業と言われる。
キンバリーの時計はレイラさんからの借り物だそうだ。
途中、モンスターがいそうな分かれ道や小部屋も見つかったが、無視して道を進む。Cランクモンスターを狩るつもりなら、ある程度奥へ進まなくてはいけない。
「毒スライムです」
毒スライムは三原色のまだらもようのスライムだ。毒攻撃をするため嫌われる。積極的に襲っては来ないし、メインストリートにいても無視される類いのモンスターだ。
だが、僕にとっては、狙い目のモンスターだ。スライム核はそれなりに需要があるし、魔石もそこそこ出る。『暁の狼』時代は稼がせてもらった。
「毒スライムの毒液は質量があるので、衝撃反射で弾き飛ばせます。
ただし、複数の結界を同時展開できないので、別のモンスターに襲われるとその攻撃には結界が機能しないかもしれません」
衝撃反射は、体力を使う繊細な結界なのだ。
「前方に毒スライム2体。それ以外のモンスターの気配はありません」
キンバリーは言った。
僕は、衝撃反射の結界を高密度で張る。
前衛は槍を構えた三兄弟。
毒スライムは近寄って来た侵入者に毒液を放つ。残念だが効かない。黄色い毒液が結界に阻まれているのが見える。
スライムは物理攻撃が効きにくい。核を破壊するか、魔法で焼き殺すかだ。
毒々しい色の中に一際色の濃い核が見え隠れする。
何回か攻撃して、弱らせてから核を破壊するのが『暁の狼』の定番だった。
ボスッ。
一体目の毒スライムはコイチロウさんの長槍の一撃に倒れた。力任せに核を貫いた感じだ。
バスッ。
二体目の毒スライムもコジロウさんの槍によって同じ運命をたどる。
あっという間だった。
黄色い毒液が透明になっていく。毒スライムの毒は、マナ毒なので、本体が消滅すると毒の効果もなくなる。
これが毒スライムがお勧めである理由の一つだ。
例えば、マイコニドは化学毒なので、本体が消滅しても毒は消えない。
キンバリーが毒スライムの核の側を探る。
「出ました。魔石です」
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