第11話 冒険者ランク

「『青き階段』、Bランク・トビアス、Bランク・ダレン。

『青き階段』の『三槍の誓い』、Cランク・クリフ、Cランク・キンバリー。Eランク・コイチロウ、Eランク・コジロウ、Eランク・コサブロウ。以上で間違いないか?」

冒険者ギルドの職員が無愛想に読み上げる。


ダンジョンのゲートへの受付だ。

「冒険者タグを出せ。チェックする」


パーティー結成の後、

買い物をしたり、

地図を調べたり、

コジロウさんが副クランマスターホルヘさんに訓練場の練習試合で勝ったり、

ユーフェミアさんの最終持ち物検査があったり、

いろいろあったけど今回は省く。



僕達は、ダンジョンゲートの前にある、迷宮の神ラブリュストルの祠に祈る。

いい魔石が出ますように。あと、みんな無事に帰ってこれますように!

そして、いよいよ実戦だ。ゲートをくぐる。


ゲートをくぐって広い階段を降りると、巨大な通路だ。滑らかな石畳で、高い天井にはギルドが設置した魔術灯がついている。同行する冒険者も多く、この辺りには、まずモンスターは出ない。



「なぜ、俺と兄者達がEランクなんだ!」

コサブロウさんが不満を露にする。


「皆さんは、ロイメのダンジョンに潜るのも初めてだし、クランの依頼も受けてないから・・・」


「そうは言ってもなあ!」


「冒険者ランクなんて大して意味はないよ」

ダレンさんが言った。


ダレンさんは盾士で、(禿の)トビアスさんの相棒だ。大柄でおだやかそうな外見で、実際に温厚でいい人だ。


「まあ、そうだな。冒険者ランクは、各クランが勝手に決めてるんだ。

俺なんて弱小クランならAランク間違いないところだが、『青き階段』は厳しくてなかなか昇格できん」

これは、トビアスさん。


ちなみに、僕はCランクだが、これは前のクランの緩い基準で得た称号だ。『青き階段』に移籍する時に、そのままのランクで移籍することになった。

ちょっとズルい気もしたが、クランにとってCランク以下の称号は大したことないんだろうと、ありがたく貰っておいた。



僕はコサブロウさんに説明する。

「登録した時点では、皆Eランクなんだよ」


「どうやれば、昇格できる?」


「ダンジョンでスライムでもなんでもモンスターを倒すか、依頼を一つでもこなせばDランクになれる。

その上のCランクは、指定のCランクモンスターを倒すか、クランへの一定額の貢献でなれる」

冒険者としてダンジョンに潜っていれば、Cランクへの昇格はじきである。



「どうすればBランクになれる?」


「Bランクモンスターを倒すか、クランへの貢献でなれる。AランクはAランクモンスターを倒すか、クランへの更なる貢献でなれる」


冒険者の多くはCランク止まりだ。Bランクのトビアスさんとダレンさんは、本当のベテランなのだ。



「その上にもあったよな。確か……」


「Sランクだね。Sランクは特別だよ。なぜならこれはクランではなく、『冒険者ギルド』が出す称号だから」


「どうすればSランクになれる?」


「うーん、冒険者ギルドはSランクの称号はあまり出したくない。なぜなら、Sランク冒険者はギルドの経営に携わる権利を持つからだ。

権力はなるべく自分達だけで独占したい。そういうものだろう?」



トビアスさんがニヤニヤ笑いながら近付いて来た。

「クリフ君の言うことは概ね正しい。

とは言え、ギルドは数年に一度はSランク称号を出す。なぜだと思う?」

僕は答えに詰まった。


「権力を独占し過ぎると下の不満が大きくなる。また、高名な冒険者にギルドに対抗する組織でも立ち上げられても厄介だ。

何よりSランクの称号が出るとロイメの市民は喜ぶ。人気取りも必要だからな。

まあ、Sランクが政治的な称号なのは間違いない」


勉強にナリマシタ。



コサブロウさんはまだブツブツ言っている。


実は、冒険者ランクがものを言う場所は、冒険者同士が集まる場所だ。

クランのロビーのような場所での周囲の評価は、冒険者ランクによって確実に変わる。


しかし、コサブロウさんも含めて三兄弟は称号に関係なく、最初から声が大きくて態度がでかい。

コジロウさんがホルヘさんを破った後は、クランでも大物扱いだ。ある意味彼らに冒険者ランクは必要ないんじゃないかと思う。


「クランが勝手にAランクを出せるなら、所属冒険者をみんなAランクにしてしまうのはどうだろう?」

コサブロウさんが突然思い付いたように言った。


「昔、それをやったクランがあったけど、『冒険者通信』で叩かれまくって、冒険者の大量離脱が起きたよ」


『冒険者通信』は冒険者向けの読み物タブロイド紙だ。ろくでもないことしか書いてないが、結構人気がある。

実は僕も読んでいる。



「そろそろ噴水広場に着くよ」

ダレンさんが前から声をかける。


しばらく歩くと、通路よりさらに巨大なドーム状の空間に着く。

真ん中には噴水のある池がある。マナを含んだ水が中央から吹き上がっていて、美しい癒しの空間だ。


池の周りには、たくさんの冒険者が休憩している。

向こうの巨大なテントは神殿併設の病院。あっちは錬金術ギルドかな?

ダンジョンの中はマナが豊富で、治癒魔法が効きやすいのだ。そのため、いくつかの神殿は、ダンジョンの中に治療院を持っている。


「弁当~、弁当~、弁当いらんかね~」

行商人の声がした。

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