第10話 三槍の誓い

「このパーティーのリーダーは僕なんですか?」


「そうですよ。クリフさんが発起人じゃないですか」

そうなのか、僕なのか。僕でいいのか?

コジロウさんとか僕の言うこと聞くんだろうか?


「コイチロウさん、リーダーになりませんか?」


「いや、俺はロイメに詳しくないし、人の気持ちが良く分からないタチなので、リーダーには向かん」


「クリフ殿、何を遠慮しておる。俺がやってやろうか?」

これはコジロウさん。コジロウさんがリーダーはさすがに困る。

こっそりキンバリーの方も見てみるも無表情のまま。

僕なのか、僕がやるしかないのか。


「……分かりました。僕がリーダーです」

ユーフェミアさんは、ホッとした表情だ。


「でも、僕一人では限界がありそうなので、コイチロウさんにサブリーダーをお願いします」


「承知した」


「それと、リーダーとしての最初の仕事として、パーティーの名前を提案します。『三槍の誓い』と言うのはいかがでしょうか?」


「良い名前だ(だな)」コジロウさんとコサブロウさん。


「クリフ殿やキンバリー殿は槍を持ってないぞ。良いのか?」コイチロウさん。


「これで良い、イヤこれが良いのです!

僕達がパーティーを組んだとして目立つのは、僕でもキンバリーでもなく皆さんの三本の槍です。

パーティーの名前に三本の槍が入っていれば、僕達のパーティーは世間にすぐに覚えてもらえるでしょう!」


僕は力説した。僕的に頑張ったと思う。

なお、パーティーの名が世間に覚えてもらえるのは、冒険者としての成功の第一歩である。


「クリフ殿は魔術師だけあって、頭がいいのう」

コジロウさんが言った。



「ねえ、『三槍の誓い』のリーダー?」

レイラさんが僕に話しかけて来た。

「はい?」


「あなたは家がロイメにあったわよね。一方で、ウチのキンバリーは一人暮らしになるんだけど、不平等じゃない?住居手当を寄越しなさいよ」


「レイラさん、何を言い出すんですか。冒険者に住居手当とか聞いたことありませんよ」

ユーフェミアさんが反論する。


「昔、私が率いてたパーティにはあったわよ!」


住居手当か。

『暁の狼』でも、ロイメに実家がある僕と、田舎から出てきたバーディーとサットンでは経済力に大きな差があった。

僕は彼らのサポートもしたつもりだ。しかし、経済状況の差がパーティーに亀裂を産む原因の一つになっていたのかもしれない。


「分かりました。出しましょう」


「やるゥ。クリフ君太っ腹!」

その後、住居手当をいくらにするかユーフェミアさんとレイラさんの間で綱引きがあって、まあ妥当だろうと思える所で決着した。


「住居手当と言うものは我々ももらえるのか?」


「勿論です。家をお持ちでなければですが」


「もらえるのか。まあ、もらっておくが。リーダー殿も人が良い」

コイチロウさんが言った。

キンバリーは頷いた。


「そうだ、キンバリー。一つ言っておくけど、僕は攻撃魔法は苦手だけど、治癒魔法も苦手だから。ちゃんとエリクサを買わなきゃ駄目だよ」

キンバリーはもう一度頷いた。




「以上が新パーティー『三槍の誓い』の誓約書になります」


初めて入るクランマスター室だ。豪華ではないが、広さはある。



「俺が『青き階段』副クランマスターのホルヘ・ホナスだ」


現れた男は、40代後半ぐらいか。トビアスさんを越えて完全に禿げ上がった頭と反対に豊かな茶色い口髭と顎髭が特徴だ。

多少腹が出てきているが、腕や脚はいかつい筋肉に覆われている。


間違いなく僕より強いだろう。コイチロウさん達より強いかどうかは分からないけど。

でも、副クランマスターって言ったよね?


「クランマスターは多忙だ。めったにこの部屋にはいない。『青き階段』はそれで問題なく動いている。そうだろう?ユーフェミア?」


「はい。現在行方不明者もおりません」

そうなのか。


隣のコイチロウさん達を見ると、三人共特に不満はなさそうだ。

キンバリーは、無表情。


まあ、ユーフェミアさんは十分過ぎるぐらい丁寧にサポートしてくれた。『青き階段』に不満はない。

クランマスターに会わせろと駄々をこねる必要もないだろう。



ホルヘさんの隣には中年の眼鏡をかけた小太りのオッサンがいる。冒険者には見えない。


「先生、誓約書に問題はないですか?」


「問題ないですな」


「こちらは公証人のメイスンさんだ。

この書類はメイスンさんが保管し、写しはクランの金庫とお前ら自身が持つことになる。

ちゃんと保管しろ」


ホルヘさんは、じっくり丁寧に書類を見ていく。

「リーダーはクリフ・カストナー。お前か?」


「はい、僕です」

ホルヘさんは、なんとも言えない表情を浮かべる。

これは、あれだ。コイツで大丈夫か?と言うやつだ。


「最初の潜りダイブはトビアスとダレンに同行させた方が良いかもしれんな」


「保護者つきで戦えと言うのか?」

コジロウさんは不満気だ。


「出来たばかりのパーティーは何が起こるか分からん。案内人がいた方が良いぞ」

ホルヘさんは言う。


僕の返事は決まっている。

「是非お願いします。冒険は帰って来てこそです」


「リーダーがそう言うなら、それでかまわん」

コジロウさんは答えた。コイチロウさんとコサブロウさんを見たけど、二人共特に不満はなさそうだ。


「新しいパーティーの門出だ。上級エリクサ三本と特級エリクサ1本を祝儀にやる」

最後にホルヘさんは言った。

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