第9話 リーダーは誰だ?
「狭いダンジョンの通路の中でどんな風に戦うかだな」
枯れダンジョンで、コジロウさん(だと思う)が槍を振り回している。
少し彼ら三人組の見分けがつくようになった。
一番背が高く、声が大きく、
好奇心旺盛なのか、キョロキョロしてて、目が円っこい印象なのが、コサブロウさん。
一番落ち着いてて、髪をきっちり纏めているのが、コイチロウさん。
「ダンジョンの通路の幅がこれぐらいなら、槍の柄はもう少し短い方が良いかもしれんな」
コジロウさんが槍を振り回しながら言う。
「槍は向きを変えずに、体だけ振り向いた方が良いかもしれん」
これは多分コサブロウさん。体だけ回転させて、逆向きに槍を使っている。
「となると、石突きを少し工夫するか」
これはコイチロウさん。
「最終的には実戦だの。楽しみでならん」
獰猛に笑ったのは、コジロウさん。ちょっとコワイ。
『青き階段』のロビーで僕とコイチロウさんとコジロウさんとコサブロウさんは、難しい顔で黙り込んでいた。
言っておくが、喧嘩をしたわけではない。
「パーティー結成に当たっては、事前契約が大切です」
いざダンジョン!の前にユーフェミアさんのストップが入った。目の前には契約書がある。
『暁の狼』のことを考えれば契約の重要性はわかるんだけどね。
「契約魔法を使うのか?」
コイチロウさんが質問する。
「ご希望なら準備しますが、長期かつ複雑な内容になりますから、かなり大変ですよ。たいていの方は、公証人のもとで文書にしておしまいです」
「ならそれで良い」
僕も不満はない。
それからが一仕事だった。装備の修理など経費の範囲、報酬の分け方などかなり細かく決めることになった。
運試しにロイメに来たと言うだけあって、コイチロウさん達は、お金にはそこまで執着はないようだった。
だいたいユーフェミアさんの提案通りに進めていく。
「ちょっと、何勝手に決めてるのよ!」
だいたい纏まりかけたタイミングで現れたのは、レイラさん。
「スカウトはウチから出すって言ったでしょ」
「善は急げです。パーティーが成立したらお呼びするつもりでしたよ」
「最初から交ぜなさいよ」
「それでは、レイラさん推薦のスカウトは誰ですか?」
「ちゃんと連れて来たわよ。キンバリー」
受付前にいた女の子がテーブル前に来た。
短い黒髪、赤銅色の肌、深緑の瞳。細く敏捷そうな体。愛想のない表情。枯れダンジョンで会った女の子だ。
年はいくつだろう?かなり若く見えるんだけど。
「年はいくつ?」
「あと10日で17歳です」
思ったよりは年上だ。14~5歳かと思った。
「女子ではないか」
コサブロウさんがいった瞬間、バシンという音と共にハリセンの一発が入った。
レイラさんだ。そのハリセン何処から出したんだよ。
「そんなこと言ってると、ロイメのダンジョンに潜れなくしてやるわよ!」
まあ、これは事実ではある。魔法使いが中心になるが、ロイメの冒険者には女性も結構いる。
そして、必ずしも仲が良くない彼女達だが、女のくせに、とか女ではないか、とか言うと、とたんに団結してくる。
真っ昼間に人前では言わぬが吉だ。
「何をする!」
「あなたと槍まで一歩ある、私の魔法の方が早い」
僕は慌てた。
「二人とも待って下さい。ずいぶん若いんでびっくりしたんです」
「私の弟子よ。技術は十分だわ。ダンジョンも何度も潜ってるし」
「お待ち下さいレイラさん、自己紹介は弟子自身にやらせて下さい」
ユーフェミアさんが言った。
「キンバリー・ベック。歳は16です。ただし、もうじき17歳になります。
レイラさんにスカウトとして弟子入りして三年になります。一層・二層で見つかっている罠はすべて勉強しました。
足は速い方だとレイラさんに言われています。
弓とナイフが使えます。この前、ジャイアント・スパイダーを一人で倒しました」
うん、すごいね。
「あと……、魔法は使えません」
最後に付け加えた。
「クリフさん、彼女をパーティーに入れて良いですか?」
ユーフェミアさんが聞いて来た。
どうだろう?既に『暁の狼』時代と比べると、攻撃力はインフレしまくってる。
魔法が使えないことを正直に言ったことも好感が持てる。
「僕は、まあ。コイチロウさんは、どう思いまか?」
「ご両親はキンバリー殿がダンジョンに行くことをどうう思っているのか?」
「両親はいません。冒険者でしたが死にました。8歳から孤児院育ちです」
「そうか。そう言うことなら、俺は異論はない」
コイチロウさんは宣言した。コジロウさんとコサブロウさんは、そばで頷いた。
「では、クリフさん、キンバリーをパーティーに加えて良いですか?」
ユーフェミアさんがもう一度確認する。
「なぜ、最終確認が僕なんですか?」
「だってこのパーティーのリーダーはクリフさんじゃないですか?」
そうだったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます