第8話 枯れダンジョンの訓練

クランのロビーのテーブルに、ナガヤ・コイチロウさん達3人組と僕は向かい合って座っていた。


三人並ぶと本当に良く似ている。そして、でかい。筋肉が盛り上がっている。

髪は総髪って言うんだっけ?アキツシマ風に後ろで結っている。


テーブルの端の仲人席にはユーフェミアさんが座る。正直ありがたい。


ザクリー爺さんが紙に包んだ芋菓子を持って来てくれた。

これは驕りだろうか?会費へのツケだろうか?



ユーフェミアさんが僕に目で合図をしてきた。


「僕はクリフ・カストナー。

先程も言いましたが、ロイメ魔術師クランで一級魔術師の資格を持っています。

ダンジョンを探索する冒険者パーティーのための強い攻撃役アタッカーを探しています」

ユーフェミアさんの合図は、先に名乗れと言う意味だろう。多分。


「俺はナガヤ・コイチロウ。

これはナガヤ・コジロウ、

こちらはナガヤ・コサブロウ。

三本の槍で運試しをしようとこの迷宮ダンジョン都市まで流れてきた兄弟だ」


「お三方は、良く似ておられますね」


「我々は三つ子だからな。昔はもっと似ていたのだ」



「このロイメで、冒険者として運試しをするためには、パーティーを組むのが普通です。

僕は防御魔術が得意です。

いかがでしょう?パーティーを組んで一緒にダンジョンに潜りませんか?」


「防御魔術と言うがどの程度の効果があるものなのか?」

コジロウさんが聞いて来た。


「兄者、我々だけで潜る訳にはいかぬのか」

これは、コサブロウさん。


「先程も運試しと言われました。皆さんがダンジョンで、強い運を引き寄せたいと思うなら、良いパーティーを組み、準備する必要があるんです」


「確かにな。戦の前にも準備が必要だしな。

そもそもロイメのダンジョンがどんな場所なのか我々は知らぬし」

コイチロウさんは思案顔だ。あともう一押しか。


「皆さん、それならぴったりの場所がありますよ」

ユーフェミアさんが明るく言った。



「クラン『風読み』の地下にこんな場所があったなんて……」

風読みの受付裏の階段を降りた地下。

そこにあったのは、延々と続く暗い石造りの通路。所々にある頑丈な扉。

これは、ロイメのダンジョン第一層そっくりである。


『風読み』のクランマスターレイラさんは、自慢気に薄い胸を張る。


「元は本物の小さなダンジョンだったのよ。

完全に枯れちゃったから、魔封じをして訓練場に使っているってわけ」


「クリフ殿、是非お主の防御魔術を見せて頂きたい」

大きな声で言ったのは、コイチロウさんかコジロウさんかコサブロウさんか、正直良くわからない。

だが、防御魔術を見せることに否はない。



「キンバリー、やっちゃいなさい」

僕はレイラさんにダンジョンの壁際に立たされた。

キンバリーと言うのは、レイラさんが連れて来た人間の女の子だ。弓矢を持っている。


キンバリーは頷くと、無言で矢を放ってきた。勢いは弱いと言うか、ヘロヘロ。


「衝撃反射」

僕は薄い膜状の結界を構成する。

矢は結界に当たって、反対方向に飛んで行った。うーん、反射方向がずれたな。結界点がいびつだったか。


「おお!」



「手加減は無用よ。全力でいきなさい!」

レイラさんが言う。


キンバリーの表情が変わる。

ギリギリまで弦を引き寄せ矢を放つ。


「衝撃吸収」

矢は結界に当たって勢いを落とし、壁に当たり、ぽとりと落ちた。



「悪くないわね。でも、これからよ。炎の矢ファイヤーアロー

レイラさんの手から炎の矢が放たれる。

「氷雪結界」

炎の矢は氷の結界に阻まれ消える。


「こっちはどう?氷の矢アイスアロー

「炎熱結界」

氷の矢は炎の結界に阻まれる。


「たいしたものね、と見せかけてもう一発」

レイラさんは呪文を唱えなえず両手を振る。左からは炎の矢、右からは氷の矢。さて、どうするか。


「風結界」

僕の前に風の渦ができる。炎の矢と氷の矢は風の渦に巻き込まれ、軌跡を歪ませ、最後は対消滅した。


「むかつく!雷の矢!」

「げっ、磁力結界」

雷の矢は、結界に当たり結界を揺さぶる。

派手な音と衝撃があった。



「レイラさん、いい加減にして下さい」

ユーフェミアさんが言った。


「エリクサーは持って来てるわよ。だいたい大したことないみたいじゃない」


「大丈夫ですか?クリフさん」


「ちょっとびびりましたが、大丈夫です」

うん、大丈夫。だいぶびっくりしたけど、怪我はない。



その時。

「クリフ殿、素晴らしい」

その一言と共にナガヤ三兄弟の内の誰かが、槍を持って間合いを詰めて来た。


「しょ、衝撃吸収」

僕は必死で結界を張る。全力だ。

しかし、槍は僕の結界を易々と貫き、

そして僕の胸の前ギリギリで止まった。


「コジロウ!無礼にもほどがある」


「いや、兄者、我が槍と魔術どちらが勝つか好奇心が抑えられずにな」

コイチロウさん(だろう多分)は、後ろからコジロウさんの頭をぶん殴った。


「ふむ、防御魔術もコジロウ兄の槍には敵わぬのか」


「もともと結界は魔術には強いですが、物理攻撃には弱いんです」

これははっきり言っておかなくてはいけない。


「そう言うな、コサブロウ。魔術にはクリフ殿の結界がきく。

力で襲ってくる敵には、我ら三本の槍が迎え撃てば良い」

コジロウはウキウキだ。


「言っておきますけど、魔術攻撃でも、限界を越えればあっさり破れますから」

もちろん、あっさり破られるつもりはないんだけどね。


「黙れ、二人とも」

コイチロウさんが、今度はコサブロウさんの頭をなぐる。


「弟達が誠に失礼した。ただ、クリフ殿の防御魔術には誠に恐れいった。

クリフ殿が防ぎ、我らが撃つ。

我々は共に戦えばさらに強くなろう。是非ともパーティーを組ませて頂きたい」


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