第7話 女の子をダンスに誘うより簡単なこと
冒険者ギルドで、槍を持った三人組に会った次の日。
僕は落ち込んでいた。
三人組にパーティーを組むことを断られた、からではない。
昨日、僕は何も言えずに彼らを見送ってしまった。その事に落ち込んでいた。
僕とユーフェミアさんは、『青き階段』のロビーにいた。
「あの三人組強そうでしたね。アキツシマ人でしたし、所属はもう決まっているのでしょうか……」
ユーフェミアさんはお茶を飲みながら言った。
なお、受付にはユーフェミアさんではない人間の女の子が座っている。
「一緒にパーティーを組みませんか」の一言を何故僕は言えながったんだろう。
彼らがアキツシマ人だからか?冒険者にはアキツシマ人どころか異種族とパーティーを組んでいる連中もたくさんいるのに。
間違いなく千載一遇のチャンスだったのに、僕はそれを逃してしまった。
「ユーフェミアさんは彼らのことをどう思いますか?」
「あの槍はすごく重かったですよ。あれを軽々と持ち運んでいましたから、間違いなく強いと思います。
あと、割と礼儀正しい人達な気がしました」
僕はさらに落ち込んだ。強くて、やたら荒っぽくもない。僕が出した条件通りじゃないか。
彼らの体格の良さに圧倒されたからか?
そんなことで良く中途半端な攻撃魔術使いは嫌だとか言えたな。こんな根性なしは、魔術師クランのダンジョン探索隊に入って、年功序列で順番が来るのを待っていればよいのである。
「ただ、クリフさんがどうしてもフィーリングが合わない気がするのでしたら、無理してパーティーを組む必要はないと思いますよ」
少し時間を置いてユーフェミアさんは言った。彼女は優しい。あるいは、これはあまり期待されていないのか。
僕は立ち上がった。
ダメ元でもいいじゃないか。
ともかく一度、あの三人組をパーティーに誘ってみよう。断られたり、既に別のパーティーに所属していたり、条件が合わなかったり、組んだ後問題が起きたりするかもしれない。
でも、それはその時考えれば良いじゃないか。
「クリフさん、何処に行くんですか?」
「昨日の三人組をパーティーに誘いたいんだ。探しに行くよ。あんなに目立つ槍を持っているんだ。あちこちの宿をしらみ潰しに探せば見つかると思う」
「三人組がどのあたりにいるのかでしたら私、分かりますよ」
ユーフェミアさんによると、三人組の居場所はわからないが、槍のある場所はだいたい分かるらしい。
契約魔術の名残を感じるのだそうだ。
僕とユーフェミアさんは、冒険者街の中程に来ていた。この辺りには、比較的高級な宿がある。
「多分ここです」
『カササギ亭』。少しアキツシマ風の小綺麗な宿である。
僕は宿の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
出てきたのは、中年の主人だ。白髪の混じる黒髪に小柄な体格で、典型的なアキツシマ諸島人だ。
「三人組の大きな槍を持ったアキツシマ人を探しているのですが」
僕は勇気を出して聞いてみた。
「お客様のことはお話できませんねぇ」
僕の勇気は大人のビジネスに呆気なく叩き落とされた。
「私は、昨日冒険者ギルド前で、ナガヤ・コイチロウ様の槍を契約魔術で預かったものです」
ユーフェミアさんが横から口を出す。
「ちょっと契約魔術が拗れてまして、ご本人達と直接会ってもう一度解呪がしたいのです。
こちらの宿に滞在しているかは分かりませんが、アキツシマに
ナガヤ・コイチロウ様にクラン『青き階段』のユーフェミアが探していたと伝言いただけませんか?」
「……承知しました。ご縁がありましたら、ナガヤ様に伝言致しましょう」
カササギ亭の主人はしばらく考えた後、答えた。
ユーフェミアさんは、主人に手紙を言付け、いつでもこちらに出向く旨を伝えた。
「ありがとうございました」
僕はユーフェミアさんに礼を言った。
「いえいえ。でも、ご主人に包んだお金は、後でクラン会費と一緒にクリフさんに請求しますからね」
まあそうなるよね。
「槍があの宿にあるのは確かなんですけどねえ」
僕とユーフェミアさんは話ながら歩く。
「そう言えば、クリフさんは、コイチロウさん達に会ったら、どんな風にパーティーに誘うつもりですか?」
全然考えていなかったよ。
「普通に一緒にパーティーを組みませんか?じゃダメでしょうか?」
例えば『暁の狼』は、バーディーの「一緒にパーティーを組もうぜ」の一言で始まったのだ。
「それだけでも良いですが、クリフさんは、せっかく一級魔術師で防御魔術の名人なんですから、自己アピールも入れませんか?
自分と組めばどれだけお得か伝えるんです!」
確かにユーフェミアさんは、何時も『青き階段』のことを目一杯アピールしている。
僕は自己アピールが苦手だけど、そうも言ってられないようだ。
さて、僕たちが『青き階段』に戻ると、思わぬ客がいた。
ナガヤ・コイチロウら三人組が受付前に立っていたのだ。
「昨日はお世話になったな」
ひときわ大きな声をあげ、3人組の中の1人が近づいて来た。
「お三方は、クランへの入会希望だそうです」
受付の女の子が言った。
言え、クリフ。たかが冒険者パーティーに誘うだけじゃないか。女の子をダンスに誘う訳じやないんだぞ。
「僕は一級魔術師のクリフです。得意は防御魔術です。
一緒にパーティーを組みませんか!」
どうだ!言ったぞ。
「ほう、防御魔術師殿か。是非お話をお伺いしたい」
やった!
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