第6話 冒険者クランには入った方が良いのか

行列の後ろから順番に見ていく。

貧しい農民出身者の多くは痩せている。食べ物をたくさん食べて大きくなりました、と言う雰囲気の者は少ない。


途中で装備を整えた人間の男4人女1人とエルフ1人からなる6人組の冒険者と出会った。

『雷の尾』と名乗った。

ロイメのダンジョンが稼ぎやすいと聞いて拠点を移すことにしたのだそうだ。


「冒険者登録を終えた暁には、クラン『青き階段』に是非お越し下さい」

ユーフェミアさんは営業トークだ。



「並んでいるうちにいくつか誘われたんだが、冒険者クランと言うのには、ロイメでは入らなければならないのか」

リーダー格と思われる人間の男が僕に聞いてきた。


「強制ではないですが入った方が良いですよ。ロイメの冒険者ギルドは基本何もしてくれません」

僕は答えた。


「じゃあ冒険者ギルドは何をやっているんだ?」


「ダンジョンの管理ですね。後は、冒険者タグを利用した冒険者の監視」


「つまり、他の冒険者ギルドがやっているような冒険者の保護を、ここではクランがやっているんだな?」


「そうです」

僕は他の都市の冒険者ギルドについては良く知らないが、多分そうだと思う。



「正直な話を聞きたい。

『青き階段』と言うのは、お勧めか?」

これは、エルフの男。


「もっと安いクランもありますが、サービスもそれに応じます。『青き階段』は候補に入れて良いと思いますよ」

僕は答えた。



「クリフさんありがとうございます」

彼らと別れた後、ユーフェミアさんからお礼を言われた。


「思ったことを言っただけですよ」


「6人でパーティーごと拠点を移す決断が出来たと言うことは、それなりの信頼関係と資金力を持ったパーティーのはずです。

来てくれると良いのですが」


ユーフェミアさんはそんなことも見てたのか。


「もう一つエルフが居たのも良いですね。異なる種族がいて成功しているパーティーはそれだけの力があります」

異種族か……。



行列はいよいよ建物おやくしょに近づいて行く。

入り口で軽い揉め事が起きている。大きな槍を持った三人組の男達がギルドに入ろうとしている。身の丈の倍近い長さがある。危ないだとか、外に置いておけ、とか言われているようだ。


「行って見ましょう」

ユーフェミアさんが言った。



男達はアキツシマ風の鎧を着ている。黒髪にオリーブ色の肌。切れ長の目。

多分アキツシマ諸島人だろう。

だが、随分背が高い。こんなに大柄なアキツシマ人は初めて見た。


「危ないから、その槍は外に置いておけ。見張っててやるから」

ギルド入り口の警備員の男が話している。


「この三本槍は先祖伝来の物。異国で人任せにするわけにはいかぬ」

馬鹿でかい声で男の1人が答えた。


「冒険者ギルドの規則第16条、ギルド受付にて武装解除の必要はない、とあります」

ユーフェミアさんが言った。


「その通りです。魔術師だって杖を持ったまま入れるんですから」


「うるさい。武器があまりに巨大な場合は、常識の範囲で対応せよと補足にあるわ」

なかなかできる警備員だ。


「槍を斜めにして、ゆっくり入れれば入るんじゃないかな」

僕が言うと警備員は嫌そうな顔をした。


「どうしても外に置くなら、預かりの契約魔術を使うべきですね。彼らはまだロイメの冒険者じゃないんですから、冒険者ギルドの命令を聞く必要もないはずです」



「困ったの。あまりに迷惑をかけたくはないが、この槍は見ず知らずの者に預けて良いものでもない。

どなたか契約魔術を使える方はおられぬか?」

男の1人が言った。


「僕が(私が)使えるよ(使えますよ)」

僕とユーフェミアさんの声がハモった。

やはりと言うか、ハーフエルフのユーフェミアさんは魔術も使えるのか。


「ありがとう。礼はするのでお願いできるか」



契約魔術は慣れているユーフェミアさんが使うことになった。

小さな鞄から契約書を出す。魔術クランの印紙が貼ってある。

契約書に二人がサインをする。立会人として僕もサインを加える。これで成立だ。


契約書には、ナガヤ・コイチロウとあった。


ユーフェミアさんは冒険者ギルドの前で三本の槍を抱えながら待った。抱えているだけでも重たそうだ。

僕が代わろうかと提案したが、契約者は私なのでと断られた。


三本とも見事な槍だ。穂先は長く良く研がれているようだ。柄は赤みがかった重そうな木材でできている。


「ありがとう。ユーフェミア殿、クリフ殿。ギルドとの契約は終わった」

三人組が建物おやくしょから出てきた。首に下げた紐に小さな冒険者タグがついている。

これで彼らもロイメの冒険者だ。


ユーフェミアさんは、コイチロウと思われる男に槍を返した。コイチロウは、契約書を返し、預かり賃を渡す。印紙から小さな火が出て契約書は灰になった。


「私は冒険者クラン『青き階段』の者です。ロイメで冒険者として活動の折りは、是非我がクランを拠点にして下さい」

ユーフェミアさんはコイチロウさんに笑顔で営業トークをした。


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