臆病で弱い私

龍川嵐

私ともう一人の私

自分らしく振る舞う?


自分を表現する?


今の時代は自分自身を求められている。


しかし、私は自分自身はどんな人なのか分からない。


私はいつも周りの空気を読んで、周りの人の話を合わせようとしている。


雰囲気を壊してほしくないし、空気をギスギスしてほしくない。


だから私は無理に笑うようにしている。


本当は笑いたくない。


自分だけいたい。


けれど、関係を壊すのが怖い。


嫌われるのも怖い。


だから私は笑いたくないのに笑う。


時々夢の中に黒煙の分子が結合して作られた人体が現れる。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あなた…誰なの?」


「私はアカリよ」


「・・・!」


私の名前はアカリ?


偶然に同じ名前だったかな?


頭の中で情報を整理する間に、黒煙のアカリさんに話しかけられた。


「ねえ、あなたは本当に満足してる?」


(なぜこんなことを聞くの?)


「はあ…私は満足してるよ」


二カッと口角を吊り上げた。


ズキっと自分の胸が針で刺されたような感覚がする。


また自分に嘘をついた。


誰にも見られていないし、聞かれていないけど、自分の周りに誰かがいたような気がする。本当は誰にもいない。私と黒煙のアカリさんだけだ。


それはしょうがない。正直に言うと、先生や両親、友達から受けた期待を裏切ってしまう。


今まで築いた積み木が一瞬に破壊されてしまう。


黒煙のアカリさんは私の知人でもないし、先生や両親、友達の関係の人でもない。


自分の周りの人に関係のある人間ではないなら、本音で話せる。


でも、私は話せない。


自分が思ったことを言葉にして伝えるのが怖い。


いや怖いではなく、自分ってどんな人なのか分からない。


私はただ先生と両親の言われた通りにする。


自分は何もない空っぽの人間だ。


「あなたは嘘ついてるね」


「はあ?なんで私が嘘を言ってるの?」


「あなた自身はわからないね。普通の質問なら満足しているだけなく、何が満足しているか答える人は多い。それなのにあなたは何に対して満足しているのか答えていない。だからあなたは嘘ついていることだ」


「っ…!理由も述べる必要あるの?理由を語るか語らないか私の自由だよ」


「まあいいさ、無理に答える必要ないよ。ただ・・・一つ注意して欲しいのは無理にしないで」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


得体の知れない謎の黒煙のアカリさんとこのようにやりとりをしている。


これだけなく、時々寝るときに夢の中に現れる。


自分の夢の中に勝手に入ってこないで欲しい。


本当に迷惑だったけど、毎日ではないので許してあげる。


『無理にしないで』


このメッセージは警告を鳴らしているように聞こえる。


何の意味なのか分からない。


友達に「じゃ、トイレに行ってくるね」と笑顔で話しかけた。


個室の中に引きこもった瞬間に、ボロっと涙が自然に溢れた。


「あはは、もうダメだ。我慢できない」


『無理にしないで』


私はもう無理にしている。


本当は意味をわかっている。


でも私は人の前では無理にしないでいるのは無理だ。


今の私は深い海の中に溺れて、もがき苦しんでいる。


でも誰かに助けを求めれば良いか分からない。


「自分は何をしたいのか、何になりたいのか、何が欲しいのか全部わからない」


洗面台の方から他の女子生徒の声が聞こえた。


嗚咽を漏らさないように口を手で押さえた。


(何を泣いてるの私!静かにして!)


必死に情けないな私を堪えようとしている。


なんとか乗り越えた。


洗面台で流した水で顔を洗った。


鏡に映っている私を見ると、瞼が赤く腫れている。


「あはは…今日も瞼が腫れてるね…メイクでなんとか誤魔化さないといけないね」


腫れた瞼にメイクをしてから、教室に戻った。


先生から「海外留学するね。期待をしてるよ」


私は英語が得意なので、留学をしたらどう?と先生に勧められた。


本当は海外留学をしたくない。普通に日本の大学に進学したい。


でも、本当の気持ちを伝えられなかった。


頬を引き攣らせながら笑顔を作って「はい、頑張ります!」と答えた。


私の肩をポンと乗せて「うん、この意義込みだ。がんばれ」と一言をかけてから去った。


綾さんから私に話しかけた。


「アカリさんは留学するね。さす〜がだ!アカリさんと比べてあたしは全然勉強ができないわ〜」


褒めちぎってもらっているけど、私は素直に喜べなかった。


本当は勉強をしたくなかった。


でも、両親に逆らうことができなかった。


この雰囲気を壊してほしくないので、無理に笑顔を作り「うん!留学するのは憧れだよ〜!」


家に帰ったら、母さんに今回の中間試験の結果はどうだった?と聞かれた。


私は何も言わずにテーブルの上に今回の試験結果個票を置いた。


「あらら、今回の試験も一位ね。うん、この調子で頑張れば留学できるわ」


私の頭を撫でてくれた。撫でてくれたのは嬉しい。


でも、ゾッと怖いなと思うのは一つだけある。


それは…母さんの口角が吊り上がって、「母さんの言う通りにすれば私の思う通りに実現できる」と呟いた。


いつも私を褒めるたびに、これを言われる。


私は母さんのオモチャじゃないと、叫びたいけど我慢した。


またしても、無理に笑顔を作って「うん!全部は母さんのおかげよ」と嘘を答えた。


先生、両親、友達の前にいる私の口はチャックで閉めている。


口を開きたくても開けない。


「じゃあ、自分の部屋で勉強をするね」


2階に上って、自分の部屋に入った。


ベッドの上にうつ伏せをして、枕の中に自分の顔を埋めいて静かに泣いた。


聞かれないように声を殺して泣き続けた。


「大丈夫?アカリさん」


聞き覚えのある声だ。この声は黒煙のアカリさんだ。


「ううん、私は無理にしてる。もう死にたい」


「・・・」


初めて弱音を吐いた。


黒煙のアカリさんも呆れて、私から離れていくだろう。


でも、後悔していないので大丈夫だ。


私の肩をポンポンと叩いた。


「こっちを見て」


(あれ?向こうに行っていない?呆れていない?)


枕から顔を離して、黒煙のアカリさんを見た。


「あれ?私?」


この前は黒煙で曇られて何も見えなかったが、今は黒煙を晴らしている。


なんと私と同じ容姿だった。


「はい…私はあなたの本当の自分だよ」


黒煙のアカリさんの正体を明かしてくれた。


私はパチクリとして、グリグリと目を擦った。


すぐに受け止めることができなかった。


「ごめん…驚かせてごめん。でも、苦しんでいるアカリさんをどうしてもほっとけられない」


申し訳なさそうな態度で私に話した。


「…アカリさん…私を助けに来てくれてありがとう…」


自然に涙をこぼれ落とした。


アカリさんは泣いているアカリさんを抱きしめた。


「…本当に遅くなってごめん…」


私はううんと首を横に振った。


「遅くても早くても、誰か助けに来てくれたのは初めてだよ。本当に嬉しい」


ギュッとさっきより強く抱きしめた。


「ありがとう…」と言って、パッと離した。


アカリさんだけ立ち上がって「さあ、立とう」と言いながら両手を差し伸ばした。


私はアカリさんの両手を掴んで立った。


「あなた、一人だけじゃないよ。私がいるから」


また涙が出て、手の甲で拭いた。


「うん…!二人とずっと一緒だよ!」


ベッドから起き上がって、母さんのいる1階に降りる。


母さんに何を伝えたいかまだ分からない。


でも、自分のやりたいことは一つだけある。


ギシッと階段を軋む音がする。本当に母さんに言っても良いか不安を襲われた。


でも、不安だから言わないことにするといつまでも同じことを繰り返してしまう。


もう繰り返してほしくない。


だから、覚悟を持って話す。


自分のやりたいことはーー。


「ねえ、母さん…私は留学をしたくない。この学校にいる友達と離れたくない…」


口籠った声で、自分の本当にしたいことを母さんの背中に向けて伝えた。


何か言われるのか分からない、怖くて目を瞑った。


くるりと踵を返して、私の顔を見て話した。


「ったくな、それなら早く母に言って欲しいわ」


「え?怒らない?」


「なーに言ってんの?娘がやりたいことを潰す母は恥ずかしいわ。まあ、自分の思う通りに動いて欲しいけど、決めるのはアカリさんだからね。好きにしてもいいよ」


あっさりと許してもらった。


(あはは、私って臆病だったか…)


再び涙が溢れた。


(今日の涙腺はおかしいな。今日1日何回も泣いているけどね)


「ありがとう…ただ自分が弱くて、怖くて何も言えなかった」


両手で頬に伝った涙を拭いた。


母さんは目を瞑って、アカリさんをハグした。


母の体って温かいな。怖がりで冷たい心を徐々に溶かしてくれる。


職員室に行って、先生に「すみませんでした。母と相談して結局留学するのを辞めました。今まで一生懸命に指導していただいたけれど、本当に申し訳ありませんでした!」と謝った。



険しいな形相になると想像していたが、実際にはへらっと笑っていた。


「そぉか、それは残念だな。まあアカリさんが決めたことだからね。もし留学に行きたいならまた俺に言いな!」


「はい!ありがとうございます!」


前回と同じように私の肩をポンっと叩いた。


「ちょっとやめて、セクハラで訴えますよ」


「それは勘弁してくれ」


はははと笑いあってから、解散した。


教室に戻ると、綾さんに飛び付かられた。


「うわっどうした?」


「聞いたわ!本当に留学をやめたの?!」


涙目で私の顔を見つめた。


誰かが私と先生とのやりとりを聞いて、噂を広めただろう。


「本当だよ。綾さんと離れてほしくないので留学をやめたよ」


「えぇ〜そんなぁ。あたしのことを気にしなくていいのに〜!」


ポカポカと私を叩いた。


もしかしたら綾さんは綾さんのせいで留学を取り消しをしちゃったかなと自分を責めていると思う。


私はクスッと笑って、綾さんの頭にポンと乗せて撫でた。


「綾さんのせいではない。それは私のわがままよ」


綾さんは、突然ブワッと涙が出た。


私を抱きしめた。


「嬉しい!アカリさんのこと大好き!」


不思議だね。自分の本心を少しだけ伝えるだけでも世界を変えることができる。


自分の気持ちを言葉にするって本当にすごい。


言語化にしないと相手に伝えられないと初めて知れた。


まだ本当の自分を晒すのはまだ抵抗感がある。


でも、伝えなきゃ分からないことがあるので、少しずつでも自分の気持ちを伝えられるようになりたい。

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臆病で弱い私 龍川嵐 @takaccti

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